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この星が滅ぶまで  作者: 朱井いと
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第三章 魔王

 アームレストに肘を置き、頬杖をついていた。

「今、SHINYOKOHAMAを出たくらいか? おい、遅延してねえだろうな?」

「はっ。各駅ともに定刻ジャストでございます。」

「迷子にならなきゃ二十五分といったところか……。暇だな。……、いや、やべえ……。」

そう、モモの到着を待ちわび、そして、トイレに駆け込んだ。こいつが魔王だ

 某シリーズの主人公のようなツンツンヘアー。髪はオレンジブラウンである。

 サファイアの瞳。

 藍色の濃い灰色のビジネススーツ。ストライプなどの柄系は入っていない。ルビー色のネクタイは決戦直前で締める予定だ。

ここから伺える通り、魔王っぽい服装や特徴は全くない! いや、一応あるのだが、前髪の生え際よりちょっと奥に入ったところに、たんこぶ程度の短い角が二本生えている。前髪で隠れるので、その特徴をあまり見ることはない。種族的にも、ヒト族寄りというのもあるので、見かけはヒト族とさして変わらない。

第八十八代、剣聖がかわいい女の子と聞いて、それ以来、モモが来るのを心待ちにしていたのだ。無論、シノビを偵察に行かせているので、ある程度の情報は把握している。

 ある日、モモの肖像画を描かせる指示を出した。すると、

「おい! 詳細に描くんじゃねえ! 特徴だけだ! 髪の長さとか瞳の色とかアバウトに!」

という、非常にその割には、

「で、どんな顔してんだ? かわいいのか?」

と、非常に答えにくい質問をしてくる。

かわいいのは確かなので、「ちょっと『童顔』のかわいい子です」と答えたシノビをぶん投げた。

「だから! 一言いらねえっつてんだろ!」

なんという理不尽。

そこに、とあるシノビが言ってきた。

「も、申し上げます。その、剣聖ですが……。」

「ヴィジュアルは言うなよ?」

「は、はい……。」

「剣聖はどうも自閉症スペクトラム(ASD)のようで……。」

「それで?」

「ま、また、注意欠陥多動性障害(ADHD)との見解もあります。」

「それで?」

いろんな生物を見てきた魔王はそれくらいの障がい者では動じない。扱いも慣れている。こちらでも精神医学は発展している。強いて言えば、種族間で、定義が異なったりするくらいだ。もともと、兵士の心のケアから始まったが、徐々に病理までたどり着いたという感じだ。

「おそらく、サヴァン症候群ではないかと……。」

「え、まじで?! 根拠は?」

 これには反応した。ごく稀なケースだからだ。

頭まで全身を甲冑で覆った騎士が二人やってきた。彼らはゴルベジアとイクセレスといい、魔王の側近であり、次期魔王である。片方ではない。双方とも次期魔王である。これはこれで前例があまりなく、魔族間でももめたらしい。

「先の戦、剣聖と一本交えたのですが、私の剣技を、剣聖が、私の剣技を使ってはじきました。」

「私の秘術も同じく……。」

「へぇー、そりゃすげえ。完コピにアレンジ入れられたわけだ。一発かましただけでお前らのあれを完コピところか自分のものにされたんだろ?」

「申し訳ございません……。」

「お前ら、明日の議事録はお前らが書け。新人に押し付けるんじゃねぇぞ。」

彼らは、魔王のいつもの制裁を食らわずに安心した。それもそのはず、モモのことで頭がいっぱいで、彼らの弱さは眼中になかったのだ。補足しておくと、彼らは普通に強い。単騎でもRPGでいうラスボスくらいは強い。普段はそいつらが同時にかかってくるわけだ。しかし、モモには勝てなかった。

「そうか。それはすげえな。モモか……。早く会いてえなぁ……。」

 君たちの世界では、この手の精神障がい者はかなりめんどくさい人扱いされていると思うが、こちらもほぼ同じである。ただ、魔王はシノビの情報から察するに、


・剣術や魔術にとても興味があり(ASD)

・おっちょこちょいで(ADHD)

・異常なる才能を持った(サヴァン症候群)

・とてもかわいい金髪の童顔の女の子


程度しか考えてなかった。というか、上方修正されていた。

魔王がトイレに行ってる間にいろいろ話しておこう。

魔王はこのとき、四百歳を超えていた。どうも彼の魔族といっても種別によって寿命は様々である。魔王の場合、長寿の方だろう。

ただ、出生時には、もう戦争が始まっていたので、よくわからないまま幼少時を過ごした。彼は戦災孤児であった。魔王が十歳のときに、たまたまボクが引き取った。というか、ついてきた。ボクはそのとき、戦地の最果て(要はどこまで戦闘が行われている)を探す旅に出ていたのだ。普通、そういうかわいそうな境遇の子は見て見ぬふりをしていたのだが、魔王は突然、ボクの服を引っ張ったのだ。

「お願いです! どうか! 僕を弟子にしてください! なんでもやります!」

「いやぁ、ボクは旅の途中なんでね……。君を相手にする暇はないんだよ……。」

「その荷物を持てばいいですか?!」

やたら食いつく。

ボクの知ってる限り、ボクに食いつくのは、よほどの者じゃないといないんだ。そもそも、普段は魔力とか、そういうの消してるし。なんとなくボクは察した。魔王は、先天的、もしくは何かしら得た者ではないかと。

「ボクは適当に旅してる。君の居場所ができたら、そこに住めばいい。じゃあもう、ボクは止めない。」

「あ、……、ありがとうございます!! あの、先生と呼んでもいいですか?!」

「は? なんでだい?」

「いや、その、教えてもらうので……。先生には常人じゃないオーラとか覇気が感じられますので……。」

まさか。魔力はともかく、覇気までよまれていたとは。正直、ボクも驚いた。

「うん、君の好きにすればいいさ。ただ、別に、魔術とかそういうのは教える気はないから。」

「はい! 盗んでみせます!」

 実際、盗まれた。極級魔術は一度も使ったことないのに、いつの間にかできてた。まれに剣術(神の御剣)の相手をしてみたが、無段以上の実力はあった。公式では無段が最上位とされていたが、最上位ですら困難な片手二本白羽取りも会得していた。ボクは楽しくなってしまい、徐々にいろんな技や魔術を教えるようになっていた。

 そして、たまたま魔王城を訪れた。本来なら結界(フィールドと言ったりもする)で覆われているために入れないのだが、普通に入った。

 そこにいたのが先代魔王だったのだ。魔王はその能力を買われた。すぐさま先代側近となった。もちろん急な出来事だったので、魔族でもめた。しかし、誰も魔王には勝てなかったので、受け入れざるをなかった。どうやらボクのお役目も終わったようだ。

「先生、ありがとうございました! 俺、先生みたいなバケモノになります!」

「おいおい、バケモノはひどいな。これでも女の子だぞ。」

 こうしてボクは魔王のもとを去っていった。

 先代魔王は、参謀出身なので、あまり強くなかった。RPGのラスボスの手前のボスクラスかな。魔王は圧倒的な強さと、結構な頭のキレで、先代魔王を支えた。謀反を起こすのでは? と、先代は心配していたが、魔王は義理堅かったので、そんなことはしなかった。

そして、先代魔王は非常に困っていた。戦闘の度に、負傷者を出し、勢力は拮抗したまま、というので、この膠着状態から抜け出せず非常に困っていた。

「俺、潰してきましょうか?」

「そ、それはならん! 魔族がヒト族を壊滅させたとなると、今度はヒト族が倍に返してくる!」

「いや、確かにそうですが……。」

「私がやりたいのはだな、極力損害を抑え、種族間が共存できる世界なのだ。天帝のお言葉だ。」

 何を言っているのかいまいちピンとこなかった。

 実はこの先代魔王、魔王を側近にしたのは、もうひとつの理由がある。それは、天帝の声を聞いていたのだ。先代魔王も、実は最初は、ヒト族殲滅派であった。しかし、あるとき、天帝のもとへ赴き、この言葉を聞いたそうだ。「平和的解決を実現しなさい」というような内容だったらしい。

 このやり方、一度は失敗してるのに、飽きないねぇ。

 そうして月日は経つのに現状は変わらないままであった。己の無力さを知り、責任を取り、カトレア歴二千三百年、魔王は現魔王となった。

魔王就任の挨拶で、

「おい、てめえら! 先代のご意向、わかってんだろうな! 天帝のご意思でもあるんだぞ! 俺はお前たちに不殺しの戦闘を要求する! 負傷するのは仕方なくても、わざと深手を負わせたり、お前らがやられて嫌なことは他種族にもするな! ちょっとでも変なことしてみろ! ぶっ殺すぞ!」

と、あまりに横暴なことを言った。しかしながら、先代の側近時代からみなは魔王のことを知っているので、下手な真似はできなかった。無論、それが不服なのは少なからずいた。

 そして、魔王となってから、先代の苦しみに気付いた。完全なゼロサムゲームが出来上がっていたのだ。魔族がヒト族を追いやると、今度はヒト族が勢力を増して魔族にリベンジしてくるのだ。もちろん、ヒト族殲滅派がヒト族を虐殺することもあったので、それらをひっくるめて大変だった。

 また、先代魔王は顔が知られていたため、襲撃から守る必要もあった。なので、魔王は一切姿を出さずにいた。モモが気になっていた点はここにあったのだ。

「これはもう、終わらせるしかないな。そのための何かエピソードができねぇかな……。」

かれこれ百八十年あまりが過ぎた。

そう思っている矢先、一人の剣士が現れた。おっさんである。モモの師匠、第八十七代、無段、剣聖である。

「おお、待ってたぜ、ヒト族よ。お前、どう見てもただ者じゃないな。何しに来たんだ?」

「うむ。そなたが魔王か。先代魔王の顔は知っておったが、お主が此度に踏襲した魔王か。」

「いかにも。いやぁ、久々に手ごたえのあるヒト族でなによりだ。よっし! 楽しませてくれよ!」

 こうして、おっさんと魔王の闘いが始まった。正直言うと、魔王が魔術を使うと瞬殺だった。が、あえてそんなことをせず、あくまで剣で勝負した。なぜかというと、おっさんは魔術が使えないのだ。

「お主、手加減をしておるな? 隙を見て魔術で貫けるはず。」

「ごもっともだ。だが、俺も美学というのがあってだな、あくまで対等にやりたいんだよ。それより俺はずっと気になってんだ。その剣、なんだ? 全然折れねえぞ?」

「これか? これはKATANAというものだ。幾重に渡る鍛冶の末、磨き上げてできあがるシロモノだ。魔術も込めることができるかもしれんが、これはそのようなこともせずとも、鉄をも切る剣だ。」

「まじで!? すっげえ! 初めて見た! 俺もほしい!」

「よもやこのような場面で意気投合しようとは……。」

「あのさ、すげえ関係ないけど、次に来るとしたら、あんたより強えぇの?!」

「うむ。ワシは負けた。」

「へぇー! どんなやつ?!」

もう魔王は戦闘を続行する気はなかった。

「年端も行かぬ女子だ。」

「うっそ!! マジで言ってんの!?」

「うむ。史上最年少で神の御剣、無段、剣聖まで登り詰めた才女だ(一応、おっさんの耳には入ってた)。」

「そうかそうか! そいつはかわいいのか?!」

「身長は百五十くらいの小さい女子だ。そうだな、容姿はわからんが、『かわいい』のだろう。娘のような存在だった。」

「おっさん、結婚させてもらえませんか?! 気が向いたらでいいんだけどさ、俺たちに力を貸してくれないか?」

「?」

「簡単なことだ。史実上は死んでもらう。だが、見つかることの可能性が低い場所でひっそりと暮らしてもらう。なに、不自由はさせない。」

「意図がわからんのだが……。」

「要はだな……。」

 魔王はこれまでの経緯を話した。

「うむ。昔より魔族の勢力が減ったとは思っていたが、よもや『戦をやらなかった』とは……。」

「俺は先代と天帝の夢を叶えたい。俺も無駄な血を流させるのはごめんだ。ただな、どうしてもストーリーがほしいんだ。魔王と無敵の剣聖の子たちが一族をかけて恒久和平を実現したと。どうしてもおっさんだけだと、俺のせいになりかねない。……、別におっさんが悪いわけではないんだ……。」

「話はわかった。ワシはこれまで通り、鍛錬を積むのみなので何も言わん。が、あの娘、モモ次第だ。無理強いをするなら、わかっておるな。いいな?」

「いいですとも! そりゃ、最初はいろいろ大変でしょうが、なんとかします。」

 もはや娘の親に話す感覚でいた。

というとこで、早くモモに会いたかったのだ。

 そして、冒頭の有様である。

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