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出会い 4

「僕しかいないから、別にいいかなあと思ってたけど。名前くらいつけるか」


 その言葉にマリオネットは首を動かして青年を見る。初めて自分から行動したことに青年はふむ、と少し考える。


「嬉しい、のかな? わからないけど、マリオネットも思うところがあると一応反応はするんだな、初めて知った」


 青年は再び空を見る。マリオネットの目には美しく見えているだろうか、それともただの光の粒に見えているのだろうか。

 世界は美しい。しかし時に残酷で、愚かな痕跡が嫌でも見えてしまう。マリオネットの残骸、戦争によって壊れた町の数々、破壊された遺跡、盗掘のため荒らされた墓、汚された川や湖、焼け野原となった森。マリオネットの瞳にはどう映るのだろう。


「凝った名前は思いつかないな。マリオネット、だからマリーでいいか」


 マリオネット……マリーに特に反応はない。しばらく空を眺めていたが、ふいにマリーが青年の方を見た。じっと見つめられ、なんだろうと思っていたがああ、と思い至った。


「僕の名前か。僕はシャムだ。名乗ってもお前呼べないだろ」


 マリーに口はあるが口の形をしたハリボテがついているだけ。顎に関節があるわけではないので口を開くことはできない。シャムの名を呼ぶことも口を動かして名を呼んでいる様子を表すこともできない。

 それでも、シャムにはマリーがどこか嬉しそうに見えた。

 マリオネットに感情があるかどうかは大昔から議論されてきた。生き物でもないのに感情があるわけない、というのが一般的だが、犬や馬だって感情のようなものを表すことがあるのだからマリオネットにも感情があるという考えも根強くあったのも事実だ。

 シャム個人の意見は「あるかどうか」という事実などわからない。当然だ、シャムはマリオネットではないのだから。「あると信じたいかどうか」といわれると結論はでない。どちらかというとないのではないかとは思っていた。


「まあ、それはこれからお前と一緒に旅をしていけばわかるか」


 そう言うとマリーがクイクイとシャムの服の裾を掴んで引っ張る。


「なんだよ」


 さすがに意味がわからずマリーを見ると、マリーは指で自分を指す。その動作にシャムはなるほど、と納得した。


「はいはい。お前、じゃなくてマリーな」


 その言葉にマリーは服から手を放す。シャムとマリーは再び空を見つめる。チラリとマリーを見ると、右腕を空に向かって伸ばしていた。


「星は掴めないよ、あれは遥か遠くにある」


 シャムの言葉を聞いてもなお、マリーは手を伸ばし続ける。掴めそうで掴めないもの、目の前にありながら遠すぎるもの。それをマリーは理解できるだろうか、とシャムは星々を見ながら思った。


 シャムとマリーの旅は特に目的地があるわけではない。ひたすら歩き野宿をして様々な景色を見て歩いた。


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