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繰り返されるネタ

 ルナ、カレン、アオイにリカは柊宅のリビングへと場所を移し、ダイニングテーブルを囲んでいた。リカにはホットコーヒーが、他三人にはアールグレイの紅茶がルナから差し出されていた。

「何か策はあるの?」

 カレンがリカに問いかける。ルナはリカに灰皿を差し出してから椅子へと座り、同様にリカの返答を待った。

「正直無いんだよな。能力の痕跡を辿るには一部隊くらい出動要請出さないと。しかしそれでは時間がかかる」

 口をつけていたホットコーヒーを置き、懐から煙草を出して火をつける。ふぅ、と一息おいて言葉を続ける。

「相手の出方がわからんからな。身代金なら連絡も入るだろうが、尻尾が掴めないことにはこちらからセラに連絡入れることも難しいだろう」

 指に挟んだ煙草を灰皿の縁でトントンと小突いて灰を落とす。ルナにもそこは判断できていた。姉が動いている時にスマホが鳴るのは不利になってしまうこともありえる。

「セラ自身、今どういう状況でどこにいるか、なんだよな」

 再度、煙草を吸い、ふぅ、っと深呼吸とともに煙を吐く。

「状況が動くまで待ち、ってことですか?」

「そうなるね、少なくとも今は何も出来ないに等しい」

「うーん」

 何処へ行ったかも、目的もわからない、確かに現状は“詰み”のようなものだと四人を悩ませることになるのだった。


 お腹がすいたので部屋に戻り鞄をベッドに放り出して、靴はこの後のことがあるからとそのままに、リビングへ向かい階段を降りていく。いつもよりパタパタと響く足音に、お腹の虫も合唱する。リビングのドアを開くと、自分を除いたいつもの三人とリカ姉がテーブルを囲み、何やら悩んでいた。

「お腹へったー」

「昨日のはラップで冷蔵庫にありますから適当に」

 妹の話を受けて、ふむふむ、あ、炒飯と焼きそばと唐揚げと餃子だー、と冷蔵庫を開けて心が踊る。昨日の夜から食べてなかったからなぁ。とそれらを掴むと電子レンジへ。もうちょっと野菜もとろうぜ。というか全部食うのかよ。

「何悩んでるの?」

「姉さんの情報が無さすぎて…」

 チン、と答えてくれる電子レンジから食事を取り出し、箸とスプーンで口へとかき込む。そっかー、私かー、ちょっと面白いからこのままで、とネタの悪魔が囁く。麦茶で喉を鳴らし、瞬く間に料理は胃の中へ。このくらいでは足りなかったがちょっと多いかと思い留まる。結構食べているが子豚ちゃんは回避したいお年頃。しかしこの姉は食べていいように思えるところが難しい。食いしん坊バンザイ。

「んじゃ一時間後くらいには帰るからよろしく」

「食器は片付けて、あと靴はちゃんと脱いで…」

 その言葉はもうセラには届いてなかったが、ふとここで皆の意識が戻る。


「あれ、今の姉さん…?」

「セラ…ね…」

「セラちゃん…?」

 突然すぎることに理解の追いつかない三人。これだから設定の枠を飛び越える奴は、と苦い笑いを噛み殺すリカだった。


■ → ■


「なんで切り替わりがメイドな竜っぽいのよ…」

 やはりというべきか、ツッコミがいないとただの独り言。白い世界の中、セラは居た。

「まずひとつ。私が声を発する時点でここには空気がある」

 確認するように自分の言葉を紡ぐ。今までそこにあった白い世界が少し揺らぐ気がする。

「そして。空気があるのに音が無いのは否定要素。白しか見えないのは、体の異常でなければ幻覚、幻聴またはその複合。そういった能力を受けている。重力を感じてなかったのは反重力による浮遊か」

 感覚を確かめていく。セルフチェックは良好だ。

「助けがこないのは外から見えなかった。簡単なことだった。光の屈折を変えればいい。それだけで済む」

 そして、世界が色を取り戻す。眼前に現れたのはどこかの工場の倉庫を思わせる場所だった。二人の男が驚いた顔でこちらを見ている。

「さて、どうしてくれようか」

 種を明かしてしまえばどうということはなかった。小中学校の理科で解明できるものだった。くっそ、こんなので、と軽く苛立つセラ。ちょっとだけ怒っていた。

「どうやって…?クソ、完璧な能力じゃなかったのかよ!」

「あとはボスに渡せば済むんだ、またやっちまえ!」

 慌てながらも能力の陣を組みあげようとする二人。が、セラの前では遅かった。身体強化による蹴りが二人の顎を捉える。為す術なくその場へと倒れ込み、意識は刈り取られていた。

(完璧な能力じゃなかった、ってことは)

 男の台詞から推測するに第三者から教えてもらったんだろう、ボスに渡すというのも引っかかる。口を半開きにし、無様な格好で横になっている男二人w

「草を生やさないでよ。ネットは普及しまくってるけどさ」

 ぶつぶつとツッコミを入れつつ、鞄から小物入れの布袋を取り出し、紐を外して男二人の腕を縛っていく。こういうところはリカとのやり取りの中で覚えてしまっていた。私ホントにリカ姉の元にスカウトされたほうがいいのか、とも思ったりする。

「ん?」

 縛っていく時にふと男の腕時計が異質なことに気付いた。二人とも同じものを付けていて、市販のものと違い無骨なものに見える。男の腕から外し、それを観察する。が、すぐ諦める。

(専門家に任せるか……)

 ポケットを探したが制服のスカートにはそれが無かったので鞄へしまう。ふんふーん、と鼻歌で気を紛らわせつつ、男達を探っていく。あったあった、とセラが手に掴んだのは男のスマホだった。ロック画面を確認し、男の指紋で解除する。やってることは高校生にしてはえげつないな。ちょっと将来心配です。鬼嫁になりそうです。

「そもそも嫁になれるかどうか…」

 悲壮なことをつぶやきつつ発信と着信履歴を見ていく。書きすぎましたごめんなさい。

「わかったならイケメン実装しなさいよ」

 そんなのを実装したところでセラと付き合うとは思えないのだが一応考えておくことにする。一応。きっと。どこかで。

「直近でこの人がいちばん多いなぁ」

 プルルルル、と同時に横の男の胸あたりから最近流行りの曲が流れ始める。失敗だった。よくあるパターンだな、と次に目星をつけた履歴へとかける。

「おかけになった電話番号は」

「いや、普通に答えてる時点で使われてるでしょ」

「ツッコミ早いな。もうちょっと引っ張ってくれ」

「おなかすいてんの!」

 がるる、と獣の唸り声を思わせる様相でセラは答えていた。最近の若者はキレると怖いと言うが、人間誰しもキレれば怖いと思う。如何なものか。

「ていうかそういう反応って事は近くに居るんでしょ」

「ネタばらし早いな。もうちょっと引っ張ってくれ」

「二度目っ!」

 律儀にツッコミを入れるセラ。電話越しの相手にかなりの温度差を感じてはいた。

「まぁまぁ、そこから見上げるといい」

 言われるがままに上を見ると、天井クレーンのフックに吊られてこちらを見下ろす人がいた。

「…何やってんの?」

「こういう登場シーンに憧れてだね」

「え…あぁ、そう…」

 絵面の割に会話はスマホで、というかなりシュールなものだった。心なしか相手は嬉しそうである。

「それはそうと」

「……一応聞くわ。嫌な予感しかしないけど」

「降ろしてくれないか?」

「バカかあんたはっ!」

 今日イチの叫びがツッコミになるセラだった。こんな相手に捕らえられてしまったのかとやるせない気持ちにもなるもんだ。

「どっちみち聞きたいことはあるから降ろすけどさ」

「そうだろうとも!」

「何でそこで勝ち誇ってんのよ…」

 器用にポーズをとる相手をジト目で遠目に睨んでやる。それはソレとして、そろそろセラには限界が近づいていた。待ってましたとばかりにお腹の虫が歌う準備に取り掛かる。

「とりあえずご飯食べてくるわ」

「え、まさかのこの流れで放置プレイ?」

(やかま)しいっ!」

 辺りにあった積荷の影で、不本意ながらも<記録/セーブ>し、自分の部屋を<再開/ロード>するセラだった。


--そして、三十分後。


「何でそのまま待ってんのよ…」

「すぐ戻ってくると思ったのさ…」

 戻ってきたセラを待っていたのは、変わらず吊るされた体勢の相手だった。気のせいか声に元気はない。

「ボス!こいつです!」

「俺のスマホ返して!」

 足元に転がる二人の男は目を覚ましていた。縛られているためその場でじたばたと藻掻く。なんとなく動きがキモいーー仕方ないことだけれど。そして二人の目線が同じ所で止まる。

「スパッツ穿いてる!」

「酷い!男の夢!絶対領域の中っ!」

 そりゃ地面に倒れて見上げればスカートの中くらい見えちゃうもんです。全くこれだから男は…とセラは呆れていた。が、女の子と思われてることに悪い気はしなかった。複雑である。好きなタイプではなかったのでどうでもいいやと記憶の彼方へと葬ることにした。

「お前ら!」

「ボス!」

 セラが持つスマホ越しのやり取り。さっきの元気の無さが嘘かのように声のトーンが上がっていた。

「羨まけしからんっ!私も見たいぞ!」

「いい加減にしろっ!」

「あっ、俺のスマホ!」

 流れと勢いでスマホを放り投げるセラ。男一人は凄く悲壮な叫び声をあげている。ちょっぴり遠くで小さくカシャンと聴こえてきた。男はーーそれを聞き届けるとーー泣いた。もう一人の男にひきつった笑顔を向けてスマホを奪い取るセラ。通話先は勿論上にいる相手だ。せめて俺のは壊さないで、と涙目になる男だった。

「おかけになった電話番号は」

執拗(しつこ)いわっ!」

「あぁっ!俺のっ!」

 よくあるコントの天丼的な流れに今度は地面にスマホを叩きつけるセラ。小気味よく弾んで転がっていくスマホに、もう一人の男はーーやはり涙を流すことになった。二人揃ってメソメソと泣いている。頑張れ男達。きっと明日は来る。

 そこにさっきまで吊り下がっていた相手が飛び降りてきた。通話ではわかりにくい声だったが、その姿はブラウスとレザーパンツを身に纏い、出るとこ出た身体のラインは女性だと一目瞭然で、セラは戸惑ってしまう。

(これが胸囲の格差社会……)

 つい自分と比べてしまう。大丈夫、まだ夢と希望が詰まってる。と思いつつ、内輪には普通以上が多数、味方がいないことにガッカリする。

「ふふ…」

 背筋にオカンが、いや、悪寒が走る。文字だからこその破壊力。さっきスカートの中を私も見たいとか声高らかに言ってたような?

「ふふふ…」

 だとすればこの人かなり色んな意味で危ない、と。軸足に力が入り、ゆっくりと構えをとるところだった。

「足痛い…」

「どこまでバカなのっ?!」

 膝から崩れ落ちる女性。丸くなり足をさすっている。もういっそこのまま放置で帰ってしまおうかとも考えた。が、また狙われるかもしれないので決着がつくまでは我慢することにする。

「というか降りて来れるじゃない」

「違うの、落ちたの…」

「やっぱりバカかっ?!というか言葉遣い普通になってるしっ!」

 もう何がなにやら、セラも流石に疲れを隠せなくなってきていた。ツッコミしかしてない気もするが。

「強化しても痛いものは痛いんです…」

「あー、はいはい」

「後ね、上着取ってもらえませんか…」

「あー、はいはい…」

 どっと疲れが増すセラ。言われて確認すると、クレーンのフックの先にハーネスと共に残る上着があった。あれからすり抜けるように落ちたのか、と納得する。

 セラは<身体強化/インクルード>を使い、跳躍して回収すると軽やかに着地する。手にしたのは女性がパンツと一緒にコーディネートしたであろう、レザージャケットだった。胸から腰の部分の造りに殺意を憶え、女性に向かって投げつけていた。


「さて、そこまでだ。抵抗するなら容赦はしない」

 聞き慣れた声に振り向くと、武装したリカと五名の隊員が居た。男二人に女性は隊員によって手錠をかけられーー女性は担架でーー連れられて行く。そしてまたもやセラに手錠がかかる。え、また?とリカを見上げる。

「さしずめ過剰防衛と不法侵入。あとは器物損壊か。異論は?」

「ありません…」

 リカに連れられてトボトボと歩くセラ。惜しくも妹の言った通りになってしまっていた。

「一時間経っても帰ってこないからだ」

「え、気にするのそこ?」

「二日連続で外に出てルナを困らせたいか?」

「ごもっとも」

 その場合ルナが過剰な心配をするようになり、困るのは自分だがーー心に留めておく。

「ま、最悪すぎる結果でなくて何よりだ」

「というと?」

「セラが建物諸共壊す」

「姉さんの私の扱いって…」

「危険物?」

「オブラートを所望するっ!」

 そんなとっても仲良し?な姉妹は警察署のいつもの場所へと向かうのだった。

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