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巻き込まれて彼是

「はぁ…疲れた…」

「姉さんがネタから入らないなんて…」

 レイアとの個人戦も終わり、セラはルナ達と大能校近くの商店街で合流していた。それぞれの手には、キャラメルリボンなダブルのアイス二段重ねや、たこ焼き、クレープなどいかにも買い食いですと主張しているものが握られていた。

「それで、戦いはどうだったの?」

 チョコのクレープを齧りながらカレンがセラに問う。たこ焼きを頬張りながらアオイもセラを見ていた。

「勝っちゃった」

「ふーん。って、ええ?」

「あの先輩自爆しちゃったから…」

「あぁ…そう…」

 淡々と話すセラに驚きを隠せないカレン。

「Sランクに勝ったとなると色々まずいんじゃない?」

「んー、どうかな」

 カレンの続きに思考を巡らすセラ。手元のキャラメルリボンはあと一段を残し溶けかけている。

「内容が内容だからなぁ」

「姉さんは考えすぎて空回りますから」

「空回るならいいんだけど」

 ぐだぐだとした時間が過ぎ辺りは夕闇に包まれていく。少し前まで同じ様に買い食いやゲームセンター等、遊んでいた者たちも帰路についたか、人の流れは減っていた。

 さて、私たちも今日は帰ろうか、というところだった。

「柊セラさんですね」

 いつからいたかは気づかなかった。体格の良いスーツ姿の男がいた。サングラスから表情を見ることは出来なかったが、ただひとつ、厄介なものだろうと感じた。

「私はただのお使い。そう堅くならないで下さい」

「普通、怪しい人にはついて行かないでしょ」

「これは手厳しい。私は響トーヤ様に仕える者。ついてきてもらえないと…」

 ごくり、とセラ達の緊張が喉を鳴らす。

「トーヤ様が部屋に引き篭って泣いてしまいます」

「勝手にしてろっ!」

 セラのツッコミも虚しく辺りはテンションだだ下がりだった。厄介すぎるにも程がある。底値をついたやる気の無さに脱力感。レイアといいこの先輩方は普通の行動ができないのだろうかとセラの悩みは増えてしまうのだった。


「で、響さんは何がしたいの?恐らくは今日の個人戦絡みでしょうけど」

 ただのお使いと名乗った男に先導され、響宅に向かうことになったところで、改めて質問を男へと投げる。

「いえ、私は柊さんを見つけたら話がしたい、としか聞いてません」

「すごくざっくりだな…」

 案内された響宅は寺を併設し、広い敷地を有していた。本堂、道場、住宅…古い日本家屋の影を残しながらも洗練されたスタイルを取り入れているようだ。

「トーヤ様、玄関へ着きました」

 スマホで連絡をとるお使いの男。通話を切るとすぐさまトーヤが目の前に現れた。闇能力特化とは聞いていたが、思わず凄いと思ってしまった。マジぱないの。とか心から漏れた気がしないでもない。

 現れたトーヤは体にフィットする黒色のつなぎ服を着ていた。

「来てくれてありがとうなんだ。な」

「どういたしまして。な」

「姉さん、人の設定とっちゃダメですよ…」

 前置きも済んだところで「こっちなんだ。な」とトーヤに誘われ、住宅のリビングにあるテーブルへ通される。そこにはお手伝いさんが用意したであろうジュースや菓子が並べられていた。各々が適当に席に座る。

「んじゃ手っ取り早く、何が目的?」

 開口一番にセラが直球で攻める。当人のトーヤはしどろもどろしていた。呼びつける割には様子がおかしい。深呼吸を繰り返し、無理やり落ち着こうとしているようだった。そして覚悟を決めたかのように口を開く。

「柊セラさん、つつ付き合って欲ひいんだな。な」

「色々無理だわ」

「ぶふぅっ」

「姉さん、断りが早すぎです」

 即答のセラにジュースを噴いてしまうアオイ、カレンはアオイのフォロー、ルナはセラへと地獄絵図だった。当のトーヤというと口から魂が出そうになっている。噛んだのがかなり恥ずかしいようだ。

「トーヤ様、きちんと言わないと誤解で終わってしまいます」

 と、こちらもフォローが入っていた。ハッと気づいたトーヤは気を取り直して言い直した。

「戦闘の練習を付き合って欲しいんだな。な」

「うん、そこも含めて無理」

 更なるセラの即答に撃沈、テーブルに突っ伏すトーヤ。こほん、と付き人が咳払いをするとこちらが本題です、と話を続ける。

「柊様、最近の噂をご存知でしょうか」

「私は知らないけど。ルナは?」

「Fランクの人がSランクに勝ってしまった事でしょうか」

「それは私だから…他人事にされると泣いちゃう」

 是非泣いてくださいとの笑顔を向けるルナ。この妹にはサディスティックな面もあったようだ。お姉ちゃんは本当に泣いちゃいますよ。

「とまぁ、私達は知らないみたい」

 と、セラの答えにお使いの男はふむ、と一呼吸おいてトーヤを確認する。いつの間にか起き上がっていたトーヤは、話して良いよ、と了承する合図を送った。

「実はですね。最近大能校の生徒が襲われているのです」


■ ■ ■


「あんなこと言われちゃフラグ立ったようなものよね」

「姉さん、身も蓋もないことを…」

 響宅からの帰り道、元々寄っていた商店街のアーケードを戻るように進み、それぞれの帰路を辿るところだった。

「でも、これで何もなかったら肩透かしよね」

「カレンちゃん、フラグ強化されるよ」

 カレンが軽口をついてアオイがツッコミを。四人の緊張感のなさとは裏腹に辺りは静まり、夕闇と共に閉まるシャッターが増えつつあった。

「じゃ、今日はここで」

「セナちゃんまたねー」

 カレンとアオイ、それぞれと別の道になる姉妹。だから混ぜるなと前にも言ったのに、と一息吐きながらセラは手をひらひらと振る。

「さて、姉さんどうしましょうか?」

「ん?これからのネタの入り方?」

「それは今書いてる作者の心ですから。晩御飯ですよ」

「あぁ、そっちね」

 それはどっちなんだ、とか思いつつ相変わらずの姉妹である。人の心を読まないで頂きたい。行き当たりばったりで書いてるから仕方ない。

「いや、そこは考えようよ」

「今回のメタは長いですね」

 ぼやくセラに普段のルナだった。いつもの道を帰りいつものように自宅で夕食を、と玄関前に着いた時だった。

 セラの視界がホワイトアウトする。何処までも続く、影もない、平衡感覚を失うーー完全なる白の世界が視界に広がった。

「あらー、急に何これ」

 思うところは色々あったが、セラ自身は妙に落ち着いていた。僅かな空気が流れる音さえ耳には届いていないが、大変なことすぎて逆にパニックに至らない。

「もうフラグ回収しちゃったかぁ」

 流石のメタ発言もツッコミ無しではただの独り言になってしまう。やっぱり妹がいないとお姉ちゃんは寂しいようです。

「抜け出したとしても、再度同じことされたらなぁ」

 抜け出す、というのは勿論セラのとっておきの能力、<再開/ロード>のことである。一応メインのはずなんだけど作中ではまだほとんど使われてないのはお察しください。

 考える事数分、といってもどこぞのアンダーワールドみたいに時間が加速されていたらわからないが、セラは悩んでいた。

「うーん、困った」

 白い場所で路頭に迷うセラなのだった。


■ ■ ■


「姉さん?」

 さっきまで横を歩いていたはずの姉の姿が忽然と消え、ルナが疑問を呈したところだった。小さくて見失ったーーセラが居れば「酷い」と間髪入れずに言っただろうーーとも思ったが、直ぐに状況を受け入れることにした。

「<ジェット噴射/エアリアルステップ>」

 詠唱が済むとルナは軽やかに跳んでいた。空を蹴り、身を反転して三メートル程で着地、元いた場所を見る。自分が居た場所の空間には白い(もや)がかかり歪んでいた。これが姉を消した能力だと直感で判断できた。

「ちっ、ひとつは外したか」

 道の反対側、住宅の間を通る路地から二人組が現れる。見分けるには難しいが恐らく二十代の男達。その外見はどうみても漫画に出てくるチンピラそのものだった。互いに少しずつ距離を詰め、会話が容易いところまでくると、先に発したのはルナだった。

「パンツ見えましたか?」

「心配するのそこかよ!」

 やはりズレているルナに男達は普通にツッコミを入れてしまった。足掻いてもシリアスにはならないようだ。そういやコメディだったな。

「まぁ、少し水色っぽいの見えました。ごめんなさい」

「俺も少し見えました。ごめんなさい」

 男達はルナに感化されてしまっていた。バツが悪いように頬を指で掻き、視線を逸らす。ルナはそんな男達をジト目で見ていた。

「いや、それよりも、だ」

 場の流れを戻すように、我に返った男が切り出す。

「ちっこい妹が惜しければ言う事を聞いて貰おうか」

「そんな薄い本みたいな台詞…」

「真面目に聞いて下さいお願いします。あまりネタにもっていかないで。本当に」

 格好つけたり下手だったりと忙しい男達だ。

「あと、妹は私なんですが」

「え?」

 ルナの一言が男達のトドメだった。二人の男は顔を見合わせ「あっちが姉?」「間違えた?」などと小声で色々交わしていた。二人はゆっくりとルナへ顔を向ける。

「本当にあっちが姉?」

「そうですよ」

「何かの間違いは?」

「無いです」

「どう見ても小学生じゃないか…。」

「否定はしません」

 ここ一番の笑顔になるルナ。少しは姉のフォローを、とも思うところではある。

「なんか本当にすいませんでしたァ!」

 男達は半ば叫ぶように一目散に逃げていった。あ、と思った時には遅かった。ルナは暫くその場に立ち尽くしてしまう。

「姉さん、今日は帰れるんでしょうか…」

 どこまてもマイペースでズレている妹がそこには居た。

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