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第7話 異能力って通常設定から外れるキャラ多い系。

「たのもー!!」


 心都(みやこ)が勢いよく扉を開くと、奥の窓が開いているからなのか、急に風が吹き、桜の花びらが舞った。

 生徒会室。

 赤い絨毯は高貴な雰囲気を醸し出し、木目のフローリングに対してやや合っていないように感じる。

 壁に沿って敷き詰められた本棚は、本だけでなくハードファイルが大量に並べられており、豊富なデータを有していることが伺える。

 部屋には二人、茶髪の男性と銀髪の女性。

 どちらも真っ直ぐに、雫玖(しずく)たちを見つめている。

 2人の発する気迫に、場の雰囲気が飲み込まれた。


「……なんつうONだよッ」


 久志(ひさし)が驚嘆の声を出す。

 目の前の男が、こちらに睨みをきかせたまま数歩近づいてきた。

 そして両手を広げてみせ、不敵な笑みを浮かべる。


「ようこそ、生徒会へ。

 —————私が、生徒会長の住吉樹(すみよしいつき)だ」


 ビリビリと張りつめた空気。

 声を出そうにも喉を使うことすら許されない雰囲気に押しつぶされそうになる。

 沈黙を破ったのは、やはり心都だった。


「あ……あの!い、1年の大川心都です!

 新サークル設立の件で伺いました!」


 さすがの部長も場の空気に飲まれている。

 眼前の男は手を顎に当て、呟いた。


「ふむ……。特別待遇者が二人、か。それと……」


 生徒会長の目は怜奈(れな)に向けられる。


「ふっ……それもまた運命よな」


 樹は笑みを浮かべながら、椅子にどかっと座った。


「君たちのサークル結成を認めます。……マリア、例のものを」


「承知しました」


 マリア、と呼ばれた銀髪の女性は近くの戸棚から一枚の書類を取り出す。


「こちらにサインを」


「で、でも……まだ内容とか、私たち何も言ってないんですけど」


「聞かなくても分かるさ、君たちの行動などね。

『ハッピー・ラッキー研究会』か。名前はアレだが、良い活動だ。生徒会として、学校のために働きかける君たちが誇らしいよ」


 そう言って樹はペンを差し出す。


「そ、そうですか……」


 似合わない笑顔を作る樹に、心都は不審がりながらもペンを受け取り、書類に署名を書いた。


「OK。これで申請は終わりだよ。うちの学校は、顧問が必須ではないから手続きが簡単だろ?だからもっと増えてほしいものだがね……。

 あぁ、そうそう。何か報告とか連絡とかあったら遠慮なくここへ来てくれ。顧問がいない分、そういう処理は生徒会の仕事だからね。

 ————もっとも、何か問題が起きたときには、すでに私の耳に入っているがね」


 樹はトントン、と手を耳に当ててみせる。

 気圧された一同は何も反応できない。

 樹はフン、と息つくと話を続けた。


「まぁ、そんなことはどうでもいいさ。とにかく君たちは、自由に活動して豊かな学校生活を送ってくれ。

 一か月後に君たちがどう成長するか……楽しみだよ」


 樹は、話は終わりだ、というように椅子に深く座りなおして、もう一度息をついた。


「……おい、帰るぞ」


 久志が促し、HR(ハッピー・ラッキー)研の一同は扉へと向かう。

 そんな中、凪音(なおと)が掠れた声で口を開く。


「か、会長……。会長の……じ、序列は何位なん、ですか……?」


「ふむ、私の序列か。そういえば確認していなかった。マリア、私は何位だ?」


 聞かれた秘書は、表情を変えず答える。


「はい、会長の序列は一位以外ありえません」


「だ、そうだ」


 誰も言葉が出なかった。

 委縮した一同はそのまま生徒会室を後にした。




「……よろしかったのですか?あのまま放置しておいて」


 書類を整理しながらマリアが問うと、樹は薄ら笑いを浮かべて答えた。


「構わんだろう。放っておいても何が変わるということもあるまい。

 ……それに、あの不確定要素たちがどう周りに影響を及ぼすか。気にならないか?」


「私は、会長の意志に従うまでです」


 そう言い終わると、マリアは樹のそばに近づき、そっと彼の胸に顔を埋めた。

 樹は何も言わず、マリアを抱き寄せ、頭を撫でる。

 二人の無言の抱擁は、数分間続いた。




 九城大学のメイン校舎は敷地内のど真ん中にあり、A棟とB棟が二つ並び、その間に渡り廊下が設置してある、言わばH型の構造をした校舎だ。

 時刻は午後3時を過ぎたころ。

 HR研の一同は生徒会室から出てほど近い、メイン校舎の真ん中にある中庭で休憩していた。


「すっっごい緊張したね!」


 先ほどまでの張りつめた空気が嘘だったかのように心都が言う。

 他のメンバーも一気に緊張が解かれ、はぁ~とため息をついた。


「なんせ一位だもんなぁ。そういやメガネ君、何であのタイミングで序列を聞いたんだ?」


「メガネ君て……。あの会長のウーシアが神話の力だったからだよ。

 ————《万物を総べる者(ゼウス)》————そんな能力、誰でも気になるでしょ」


 凪音はお手上げだというように、両手をぷらぷらさせる。

 怜奈も頷き、同調する。


「そうだな、住吉は1年の頃からとてつもない力を秘めていた……。

 そうか、それが神であるなら納得だ。……ん?」


 凪音の言葉に対し、その場にいた全員の脳裏に疑問が生まれた。

 曰く、なぜ会長の能力が分かったのか?

 基本的に学校のデータベースに能力名は載っていないし、公に明かされない。

 なぜなら、ウーシアとは心そのものであり完全なプライベート情報だからだ。

 故に、他人のウーシア及び能力の詳細は、それが発動しない限りは明かされないし、知ることもできない。

 だから怜奈が知っているのには違和感がないが、なぜ凪音が知っているのか。

 全員の目が凪音に向く。


「あぁ……、気持ち悪がられるから言わないでおこうと思ったんだけど。しょうがない……。

 ————僕のウーシアは《コンピュータ》。

 基本能力として、対面した相手のウーシアを察知して、能力を推測することが出来るんだ。

 まぁ、あくまで自分の持ってる脳内データを基にした推測に過ぎないから知らない物とか知らない人物が相手だと全く役に立たないけどね……。やっぱり引くよね、こんな能力」


 凪音の話を聴いて4人は沈黙した。

 ただ、気味悪がったという訳ではない。

 視るだけだとしても、他人のウーシアに干渉できる能力は希少だからだ。

 もし、凪音のような能力を持つものが他にいたら()()()()()()()()()()()()()

 器具が存在しなければならないほど、他人に干渉できる能力とは希少なもので、同時に能力者への負担は想像を絶するほどといえる。


 なぜなら、()()()()()()()というのはそれだけでストレスとなりえるからだ。


 人と会話する、という行動はそれだけでストレスになる。

 引きこもりや不登校児が存在する理由は、ひとえに人間関係が原因だ。

 つまり、他人に干渉する能力が得られたということは過去に人間関係で相当のストレスがかかったか、他人が大好きなおせっかい野郎ということになる。

 凪音の場合、おそらく前者だろう。


 この場にいる全員がそれを瞬時に理解し、かける言葉が見つからなかった。

 明らかに落ち込んだ様子の凪音に声を掛けたのはやはり部長であった。


「すごいよ!出会った人みんなのウーシアが分かるなんて、そんなのたくさんの知識と経験がないとできない。

 それだけいっぱい努力してきたんだよね。本当にすごくて……偉いよ、凪音くん!」


 心都はそう言うと、凪音の頭をぽん、と撫でた。

 その時、凪音の中で様々な感情が吹っ切れた。



 凪音は元々、人付き合いが好きなほうではない。

 だが、人に嫌われたくもなかった。

 だからどんな時も周りに同調してきた。

 遊びに行くときは同級生の行きたいところについて回ったし、学校で係をするときはみんながやりたがらないことを空気を読んでやっていた。

 違和感が芽生えたのは中学2年生の頃だった。


「お前さ、中身空っぽだよな」


 クラスメイトに言われた一言は当時の凪音には理解できなかった。

 だが、今なら分かる。

 凪音は、自分を見失っていた。

 その頃からだろうか。

 凪音の目には、他人の心がはっきりと見えだした。

 それは空気を読むというレベルではない。

 いま相手が何を考えているのか、脳内に直接流れ込んでくるのだ。

 はじめは気持ち悪さに吐き気を催していたが、すぐにそれが自分の能力だと気付き、コントロールできるようになった。

 もちろん初めは人に相談していた。

 だが、能力を誰にも理解されなかった。

 高校になって、物珍しさに集まってきたクラスメイトのウーシアを言い当てると、みんなに気味悪がられた。

 周りが会得した格好の良いウーシアの形ではなかった。

 だから人一倍努力した。

 知識を蓄えた。

 だが知識を得るたびにウーシアもまた、成長していく。

 その逆境にも耐えてきた。

 その努力が、決意が、いま少しだが認められた気がした。


 凪音の目に一筋の涙がこぼれる。

 それは悲しみではない、温かい涙。

 凪音が初めて経験した涙だった。

 見上げるとみんな微笑みながら、こちらを見ている。

 今まで向けられてきた冷酷な目ではない、穏やかで包み込まれるような温かい目。


 あぁ、こんなにも優しい人たちの中に僕は居ていいんだ。


 ほっとした凪音の口角は自然と上がり、泣き顔は満面の笑みへと変わった。



「よし、凪音君。落ち着いたみたいだし、早速私たちのウーシアを視てよ。これから行動を共にするんだし、お互いに知ってて損はないものね」


 心都が周りにアイコンタクトで確認すると、皆頷いて了承を表す。


「うん。じゃあ、失礼します————」


 凪音とは目を閉じて掌を広げて前に出し、集中する。


「まずは櫻井君……。前に毛の生えた姿を見たから薄々感じていたけど、《狼》だね。純粋に獣の本能が見える……」


 久志はぴくっと眉を上げた。


「おい、それってバカって言いたいのか?」


 その反論に雫玖が吹き出す。


「おい、そこ笑うな!」


「いや、自覚があるんだなって……」


「やかましい!」


 言い合いが始まった。

 凪音は構わず続ける。


「……続いて怜奈先輩。さっき心都さんとの戦闘で見せた武器から察するに……日本神話ですね?

 ……この人物は、《須佐之男命(スサノオ)》ですか」


 その質問に対し、怜奈は満足そうに頷く。


「いかにも。私の実家に伝わる絵巻に須佐之男命(スサノオノミコト)の伝説を描いたものがあってな。父からの教えで幼少期から触れる機会が多かったのだ。ほかにも日本神話に興味を持って調べていたらこのウーシアが形成されていた」


 さすが、弓道部。実家も何やら伝統ある家系らしい。


「では、続いて心都さんなんだけど…」


 凪音が口ごもる。


「どうしたの?」


「いや、何だかもやもやして……。虹色で、雲みたいで、一つのモノではない。こんなの初めてだ」


 入学式の日、心都は自分のウーシアが分からないと言った。

 どうやらそれは本当らしい。

 凪音にもわからない。


「やっぱりそうかぁ。能力はね、色の声を聴くことが出来るってわかってるんだけどね」


「ふむ、色の声……か」


 怜奈が手を顎に当て考える。


「怜奈先輩、何か心当たりがありますか?」


「いや、心当たりとまではいかないが、古くから人間は、不吉な色や高貴な色を決めて様々な物に色を付けてきた。貴方はきっとその意味を本質的にとらえることが出来るのだろうな」


「うーん、何だか難しいですけど、とにかく私にとって色は身近な存在なんです。昔から絵を描くのが好きだったから、それが能力になったんだと思う!」


 この納得できるような、できないような状況を考えても無駄だと凪音は判断して、最後に雫玖の心を読み取る。


「では続いて、雫玖君は……。なんだぁ!?」


 凪音は、手を下げておびえた表情を見せる。


「今度は何!?」


 心都も反射的に心配する。


「真っ暗だ。何も見えなかった。心都さんといい、雫玖君といい……君たちは一体……?」


 その質問に対し、雫玖は答える。


「凪音、正解だ。俺には何もない。君が見た通り俺のウーシアは空っぽだ。なぜなら俺のウーシアは……」


「《コピー》だろ。全く、意味不明な能力持ちやがってよ。こいつ、さっき俺との戦いで俺の能力を完全に真似しやがった。

 つまりは、何もないから相手のウーシアを自分のものにしてるんだろ」


 割り込まれた発言に対し、雫玖は少し戸惑ったような表情を見せ、まぁそんなとこかな、と呟いた。


 しかし、凪音の中には疑問が残る。

 雫玖のウーシアが《コピー》だったと仮定して、その心象には、例えば「目」であったり「鏡」であったり、何らかの形で具現化されているはずだ。

 しかし、雫玖の心には暗闇しかなかった。

 それは宇宙のような、完全な黒であった。

 それを《コピー》で済ませていいのだろうか。

 何か、まだ人に見せられないものがあるのかもしれない。

 それを知るためにはもっと信頼関係を築かなければならない。

 凪音はこの事実をひそかに心の中に収めた。


「よし、一通り自己紹介も済んだし、早速部活動を始めましょう!」


「ん……?何を?」


 雫玖は心都に疑問を投げかける。

 他のメンバーも分からない様子だ。


 心都は、校舎と校舎をつなぐ渡り廊下の方に指を指した。


 そこには、黒髪ボブヘアの、背丈の小さな女子生徒がこちらを窺っていた。


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