第6.5話 生徒会プロローグ
涼しい風が教室を通り抜ける。
ふと書類整理を止め、窓の外に目を向けると、桜の花びらが2枚、窓の外から入ってきた。
「ほう……?導き、か」
そっと手に取り、掌で包み込む。
「会長。お茶が入りました」
「ご苦労。マリア……」
艶やかな長い銀の髪を纏った女性は、凛とした表情を変えず、カップを机に置く。
「なぁ、マリア。存在というのは、どのように定義されると思う?」
突飛な質問にも、マリアは変わらぬ一文字の口で答える。
「存在……ですか。そこにあるということが、それは存在していることになるのではないでしょうか」
「ふむ、ならば見えなければ存在していない……という訳だな。
しかし、どうだろう。例えば、そうだな……」
男は手に握っていた花弁を示す。
「私の左手には2枚の花弁がある。では、右手には……どうだ?」
「……何もありませんが」
「何もない……か。確かにその通りだ。
だが、こうとも言えないだろうか。『花弁は0枚存在している』と」
風が強く吹き、花弁たちは外へと舞った。
「何もないというのは、逆に言えば0があると言える。
なにしろ、『何もない』という言葉が存在しているのだからな。
とある学者が『ミクロの世界では、粒子は観測されていない時と観測されている時で状態が違う』と結論付けたという話を聴いたことがあるか?
我々が見ている空間をマクロというなら、我々が観測器を用いなければ見ることのできない空間をミクロと呼ぶ。このミクロの世界では、我々には観測できようの無い不可解な現象が起きているのだという」
「それは、猫の思考実験ですか?」
「猫……あぁ、箱の中の猫が生きているか死んでいるかは、観測しなければわからないという実験か。確かにあれは、ミクロ的思考をマクロに置き換えた実験だな。だが、マクロはマクロだ。我々が観測した時点でそれはすでにミクロの世界の話ではない」
男は机の上の紅茶を一口飲み、ふっと息をつく。
良い茶だ、と呟き、続ける。
「さて、話が長くなったな。なに、これは私の一興……、暇つぶしにすぎない。そう難しい顔をするなよ。
……お出ましだ。不確定要素。イレギュラー。我々の想像をはるかに凌駕する者たちだ。さぁ、迎えよう」
そう言い切ったところで、正面の扉が勢いよく開く。
同時に身をのけぞるほどの桜の花弁が吹いた。
男は両手を広げ、笑みを浮かべる。
「ようこそ、生徒会へ。
——————私が生徒会長の住吉樹だ」