表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

第6話 やんちゃな奴ほど芯がある系。

「ちょっと飲み物買ってくる」


 そう言って雫玖(しずく)は一人、その場を離れた。

 他の3人が見えなくなって———。



「そろそろ姿を見せたらどうだ?

 櫻井久志(さくらいひさし)……」


 すー、と影が実体化し、金髪の男が姿を現す。


「……さすがだな」


「何しに来た?」


 雫玖は久志を睨み、問う。


「おっと、相変わらず怖いねぇ……。

 こないだのお礼をしに来たのさ。今は結界とかいう便利な舞台があるらしいじゃねぇか。さっきの戦いでも、あれだけ暴れて傷一つ付いちゃいねぇ……。だったら、試してみたいと思うのは、男の性、というものだろう?」


 そう言うと、はぁぁ……、という気合とともに変身を始めた。

 ゴキゴキ、と嫌な音を響かせ、骨格を変え、体毛を生やし、狼男を完成させる。


「拒否は……できんか」


「当たり前だろう……」


 フー、と久志が息を吐き———。


「「開始 シンフォーノ!!」」


 両者が叫ぶと、ドーム状の結界が発生した。

 結界の形成すらもどかしく、久志は敵へとダッシュする。

 渾身の奇襲も、前回と同様にやはり空を切った。


「無駄だ。お前が殴っているのは()だからな」


「あぁ、分かってるさ!今のは、ほんの挨拶だよ!」


 狼男は呼吸を整え目を瞑り、唱える。


「No matter how tame a wolf is, he sees only the forest

—————狼狽(ろうばい)


 スッ……、と久志の姿が消える。


「お前に攻撃が当たらないのは、分かってるよ。でもな、視認できない死角からの攻撃だったらどうかな?」


 雫玖は、ここで初めて拳を構えた。

 透明化ならまだ対処できる。

 体が透明だとしても、気配まで消すことはできないからだ。

 だが久志のそれは、完全に気配を遮断してた。

 互いに出方を疑い数秒——。

 雫玖の腹を衝撃が襲った。


「ガッ……ハッ……」


 後ろによろけたところに、さらに左側面から衝撃。

 そのまま雫玖は、横に倒れる。

 実体を見せた久志はにやりと口角を上げた。


「ふぅ……やっと当たったぜ。どうだ、攻撃を受けた気分は……」


 雫玖はよろけながらも、すぐさま立ち上がる。


「あぁ……最高だよ」


「……ほざけ!」


 再度、姿を消した久志は追撃する。

 オオカミの狩りは、その獰猛さからは意外なほど慎重だ。

 狙いを定めるのは、確実に狩ることのできる弱い者。

 正面で勝てる相手にすら気配を消し、死角から狙う。

 これはそんなオオカミの特性を活かした有効な技と言える。


 上から、下から、側方から———。

 反撃の余地も与えぬ攻撃の嵐に、雫玖はただそれを受けるだけだった。


「オラッ……オラッ……反撃してこねぇのかよ!それとも、もう降参か!」


 一方的な攻撃のように見えた。

 しかし、倒れることもなく、ただ受けるだけの雫玖に、久志は何か嫌な予感を感じていた。

 早く終わらせよう。

 そして自分のほうが強いことを証明するんだ。


「お前が何もしねぇなら、こっちから終わらせてやるよ」 


 久志は攻撃をやめ、必殺の一撃を試みる。


「Life has difficulties. The dog barks and the wind conveys. But the caravan goes on.

—————群狼(ぐんろう)


 詠唱を終え、拳を前に突き出すと7匹の銀色のオオカミが召喚された。


「行くぞ!!」


 呼応するようにオオカミたちは、グルルァァ!と鳴くと突進を始めた。

 久志自身も拳を握り、全力の突撃を仕掛ける。

 やがて7匹のオオカミたちは次々に久志と同化し渾身のパワーの源として昇華される。

 目指すは下を向き、呆然と立つ男——。


「うらあぁ!!」


 ズガァン!という爆音とともに必殺の一撃が雫玖を襲う。


「(勝った……)」


 久志は確信した。


 ——だが、その拳は敵の手のひらで受け止められていた。


「なっ……!?」


 驚愕し、後ろに引こうとするも、突き出した右手は固く握られ抜けない。


「そうか……。これがお前の限界、か」


 雫玖は受け止めた右手で久志を引き付け、左拳で顔面を殴った。


「グ……ゥ……」


 衝撃で久志は後ろによろめく。


「でも……。意外と強かったよ、お前」


「なん……で」


 なぜ受け止められたのか。

 その答えはすぐに返ってきた。


心魂を転写する者(ルサンチマン)—————。悪い、お前のウーシア借りるぞ」


 そう言って雫玖は目を瞑った。


「あぁ……嘘だろ。まさか……」


「—————転・狼狽(ろうばい)


 雫玖の姿が一瞬にして、消えた。

 間を置かず、久志の腹に衝撃。


「グッ……ガ……」


「お前は、自分と戦ったことはあるか?まさに今なんだが……。

あぁ、そうそう、聞こうか。()()()()()()()()()()()()()()()?」


「……!」


 ありえない。

 ウーシアは一人一つだ。

 そんなこと誰だって知ってるし、それを覆すことなど絶対にできない。

 では、目の前で起きている現象は何だ。

 確かに雫玖は、久志と全く同じ技を使った。

 いや、もしかしたらたまたま同じ技を使えたのかもしれない。

 まだ断定はできない。

 だが、気配を完全に遮断するなど簡単にできるはず———。


「できるはずない……か。そんなこと誰が決めた。よく見てみろ。

今お前の目の前にいるのは、お前自身だ」


 自分、自身。

 その言葉にハッとして、体を強張らせる。

 仮に相手が能力をコピーしていたとしても自分を知っているのは自分だ。

 久志は、同じく「狼狽」を発動し、雫玖を迎え撃つ。


「俺に勝てるのは俺しかいない!」


 雫玖の攻撃は完全に見えていた。

 同じ技を使っているのだ。

 敵の行動など手に取るように分かる。

 拳と拳を突き合い、一撃目を抑える。


「よし……!」


 久志は、にやりとした表情を取り戻した。

 だが、それもすぐ壊される。

 何もないはずの側面から、衝撃——。


「グハッ……」


 衝撃のまま横に投げ出される。

 かろうじて受け身を取り、サッと敵を見据えると——。

 そこには、雫玖が二人いた。


「な……何が」


「お前の能力、便利だな。対人戦に特化した良い能力だ」


 知らない。

 そんな能力、知らない。


「知らなくて当然。お前はこの力を使いこなせてない。

……あぁ、でも決定的に違うのは、今の俺は()()()()()()()()()()()()ということか」


 開いた口がふさがらなかった。

 この男、能力をコピーしただけでなく瞬時に応用したのだ。

 立ち上がって反撃しなければ。

 しかし、久志の足はガタガタと震え、まるで言うことを聞かない。


「そろそろ終わらせようか。部長のとこに戻らないといけないからな」


 そう言うと、雫玖は右手の拳を突きだした。


「—————転・群狼(ぐんろう)


 召喚されたのは、7匹の()()オオカミだった。

 直後に突撃を始める。

 もはや、反撃の余地はない。


「……ッ!悪魔め」


 久志は強張った体をだらりとさせ、にやりと笑う。


「その名前、あんまり好きじゃないんだよね」


 雫玖も笑い、一撃を打ち込む。

 ———勝敗は決した。




「う……ん……」


 久志は、気がつくと芝生の上で寝ていた。

 すぐ近くでは、木にもたれかかった雫玖がスポーツドリンクを飲んでいる。

 久志も上体を起こし、胡坐をかく。


「おっ、気づいたか」


 ひょいっと投げられたのは同じくスポーツドリンクだった。


「……サンキュ」


 受け止めたペットボトルを見ていたら、ひどく喉が渇いていたことに気づいた。

 キャップを開け、一息に飲み干す。

 疲れた体に、冷えた水が行き渡るのを感じられる。


「あーぁ!まーた負けちまった」


「負けるのは良いことだ。負けてもっと強くなろうな」


「うるせぇよ、インチキ野郎」


「負けたのを俺のせいにするなよ」


「黙れ、何と言おうと俺は強い」


 ぷっ、と雫玖は吹き出した。


「何が可笑しい!」


「ハハッ、お前とんでもない馬鹿だな」


「なんだとぉ……」


 久志は、もう一戦やるかと言い出したいが、もうそんな元気はない。


「なぁ、まだサークル決まってないならウチに来ないか?あと一人足りないんだ」


 予想してなかった誘いだった。

 確かに、サークルはまだ決まってない。

 だが……。


「御免だね。誰がお前らみたいなお気楽連中と仲良くできるかよ」


 そんなのプライドが許さない。


「へぇ、いいんだ。じゃあ、櫻井君は自分から喧嘩振っておいて負けた馬鹿ですって校内中に言いふらそうかなぁ……」


「すいません。それは勘弁してください」


「よし、なら決まりだな」


 雫玖は久志に近寄り、手を差し伸べる。


「よろしくな!久志」


 久志は差し伸べられた手を一瞥し、左手で弾いて立ち上がった。


「まだ、お前を認めたわけじゃねぇから」


「つれないな」


「……うるさい」


 こうして、5人目の部員が決まった。



「うわぁ!新しい部員?よろしくね!私は大川心都(おおかわみやこ)!気軽にミヤコって呼んで!」


 二人が心都たちと合流すると、すぐに喜びの声が上がる。

 心都は有無を言わさず握手し、手をぶんぶん振り回す。


「うむ。仲間が増えるというのは良いことだ。」


 と、笑顔の怜奈(れな)


「し、雫玖君……、あの人ってこの間の怖い人だよね……」


 と、おびえる凪音(なおと)


「ちっ……。やっぱ緩すぎるわ……」


 と、嘆く久志。

 随分と個性的なメンバーになってしまったが、これで5人の部員がそろった。


「よーし!さっそく生徒会室に申請に行こう!」


 心都が拳を上げて宣言する。

 一行は、生徒会室へと向かった。




現在の部活数 16+1団体


【総務】


・生徒会


【運動系サークル】


・野球部

・サッカー部

・テニス部

・剣道部

・弓道部

・陸上部

・水泳部

・馬術部


【文化系サークル】


・占い研

・放送部

・ロボット研究会

・天文学部

・将棋部

・新聞部

・写真部

・(ハッピー・ラッキー研究会)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ