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第4話 入学式って大体波乱系。

 入学式会場には、すでに多くの生徒が集まっていた。

 教師と思わしき女性に早くしなさいと囁くようではあるが、厳しい声で催促される。

 それもそのはず。俺―――雫玖(しずく)たち3名は入学式にも関わらずギリギリに滑り込んだのだから。

 同級生たちに冷ややかな目で見られつつ、俺たちは各々空いている席へと急ぐ。

 俺は入り口から入ってすぐ右、手前から二列目の一番外側の席へ。

 眼鏡の男は、左側手前、一列目の真ん中の席へ(生徒の間を縫っていくのが申し訳なさそうだった)

 天然女は、手前の席に座れば良いものの、なぜか奥の席へと進んでいった。気まずいだろうに。

 ひとまず開会式には間に合ったようだ。

 俺は、席に置いてあった入学式資料を整理しながら、ほっと一息ついた。


 俺と久志(ひさし)がひと悶着した後、気絶した久志をとりあえず桜の木の下にあるベンチに横たわらせ、移動することにした。

 現場に居合わせたのは、体がひょろい眼鏡の男——若松凪音(わかまつなおと)

 そして、栗色のポニーテールを振りながら走ってきた女——大川心都(おおかわみやこ)

 二人は会場を探している途中に偶然、俺たちを見つけ、仲介に来たという。


「喧嘩は良くないと思って何にも考えずに走っちゃったよ、うん!」


 と、心都はのちに元気よく語っている。

 俺にとっては、二人が来てくれたのは好都合だった。

 あのまま戦っていたら一方的な勝利で、良からぬ噂が立っていたかもしれない。

 それよりも、勝ち負けが曖昧な状況で仲介に入られたほうが、後々言い訳がしやすいというものだ。

 しかしこの後、あの場に残した久志をどうしたものか……などと考えていると、前方からキィーンとマイクのハウリング音が会場中に響いた。


「……失礼しました。これより国立九城大学校第10回入学式を開始いたします」


 黒の長髪の女性が開会を宣言する。


「では、まず学校長より挨拶を申し上げます。学校長お願いします」


 ステージ上には白髪の厳かな雰囲気の男性が現れた。

 髪は完全に白くなっているが、姿勢が正しく、しわの寄った顔も重みを感じてならない。

 一瞬で会場全体が石化したかのように固まったのがわかる。

 俺も資料を手元に置き、ステージ上の人物に耳を傾けた。


 入学式はごく単調に進み、来賓挨拶、新入生の言葉、学校生活の注意と過ぎていった。

 そして終盤、いよいよ本質に迫る説明が発せられた。


「——続いて、本学のシステムについて説明します。本学は通常単位制を取りやめ、()()()()()ウーシアによる単位ポイント制を主とすることとなりました」


 会場がざわつく。


「現在、入学時に測定したウーシアナンバーを元に、あなた方新入生の序列を確定しています。後ほど中央広場に設置している電光掲示板にて、発表がありますので見逃さないようにお願いします。また、序列の変更は逐一中央広場の電光掲示板に掲載されることとなります。序列の変更は、月に一回行われるウーシア測定によって調査した内容に基づいて厳正な審査の下、行われます。半年後、最新序列確定時にポイントが低い者に関しては、指導対象となりますので注意してください。以上で説明を終わります。詳しい説明はお手元の資料か進路担当に———。」


 それ以降はあまり覚えていない。

 ただ、入学式会場全体がざわめき、混乱していたのは覚えている。

 その紛糾の中、波乱な入学式は閉会した。

 皆、この不可解な状況を飲み込めずにいるのだ。

 俺が席に着いたまま、様々な憶測を思考していると、後ろから誰かに肩をポンと叩かれた。

 微笑みながら右手を挙げていたのは心都だった。

 俺たちはとにかく混乱の嵐から抜け出そうとレンガ風のホールを後にした。




「いやぁ、なんだか大変なことになってきたね」


 そう言いながら心都は、自販機から缶コーヒーを二本取り出し、俺と凪音に一本ずつ渡す。

 自分もペットボトルタイプのオレンジジュースを購入し、乾いた喉を潤した。

 俺と凪音は渡された缶を握りしめ、今の状況を考え込む。


「ね、もう決定したことだから考えても仕方がないよ。私たちにできることは、ただ対策して基準に達することだけだし……」


 何とか場を和ませようという雰囲気を察したのか、凪音も同調する。


「……それもそうだね。まずは序列の発表を待とうか」


 凪音はそう言うと、カシュッと缶コーヒーを開けて、甘いなぁと呟きつつ、ちびちびと飲み始めた。

 だが、俺はまだ受け入れられない。学校のことも、心都のことも。

 俺が難しい顔をしていると、心都が話題を振ってきた。


「そういえば、八女君はどうして入学式前から喧嘩してたの?……もしかして、八女君ってヤンキーさん?」


 あらぬ疑いをかけられた。

 これだから変な奴の相手はするもんじゃない。

 ここは、自分は弱いアピールをしておこう。

 俺は慎重に彼女の問いに答える。


「全然知らない人に因縁付けられたんだ。心当たりもないし、体格だって差があったから、あのままだったら負けてた。大川……さんが助けてくれなかったら危なかった、ありがとう」


「『みやこ』でいいよ!そっかぁ、助けられたのなら良かった。これも何かの縁だし、新入生同士これから仲良くしようねっ。あ、そうだ雫玖だから『しずくん』って呼ぶね!若松君は『なおくん』ね!」


 そう言って心都が顔をのぞかせるので、俺は困ってしまう。

 あの頃に戻ったようで。でも、もう忘れなきゃいけない。

 チラッと目線を外し、凪音の方にアイコンタクトする。

 彼もまた、よろしくねと微笑みながら頷いた。


 そうして、俺たちが心都の勢いに押されそうになった時、ピンポンパンポン♪と軽快なリズムが鳴り、アナウンスが始まった。


「新入生の皆さん。序列発表の準備が整いました。学内にいる生徒はすぐに中央広場の電光掲示板で、自分の順位を確認するようにしてください。繰り返します———」


 俺たちは互いに頷き合い、一斉に中央広場へと駆け出した。



 こんなことあっていいのだろうか。

 中央広場へ走りながらも俺は考える。

 入学式での説明を搔い摘めば、『心の本質(ウーシア)』の強さが進級、ないしは卒業に直結するという話だ。

 大学とは本来、学問を研究する機関であり、直接的に心を育む場所ではない。

 心がそのまま単位として数値化されて良いものか。

 だが、理解できる部分もある。

 確かに、学力だけの良い人物が社会に出たとして、良い人材として働けるかといえばそうではない。

 新社会人は皆平等に初心者なのだ。

 如何にして即戦力となるかは、結局のところ精神的な話となってくる。

 そういった意味では、ウーシアナンバーの上昇がその人物の優秀さを表すといっても過言ではない。

 それにしても、単位と直結するのは少々、やりすぎのような気がするのだが……。


 学内は見た目より狭いらしく、案外すぐに中央広場へと着いた。電光掲示板は一台のみと思っていたが、5台も用意されており、人が密集しても見やすいようになっていた。

 それでもすでに多くの学生が食い入るように序列を確認している。

 3人は一番右側の掲示板に向かい、人の間から覗きこむように確認した。



 大川心都 4位



 若松凪音 572位



 八女雫玖 1200位



「うわぁ。コメントしづらい順位……」

 と、凪音。

「えっっっ!4位ってすごくない!?」

 と、心都。

「……分かってても最下位はつらいな」

 と、俺。


「ミヤコさん、君の能力を見たときに只者じゃないとは思っていたけど……。すごいね」


 凪音が素直にそう言うと、心都は得意げなVサインで応えた。


「順位も確認できたし、とりあえず移動してゆっくり話そうか」


 そう凪音が切り出すので、俺は左手で後ろにいる二人を制止する。


「待て、まだ何か書いてある」


 序列表の隣には、さらに注意書きが掲載されていた。


 曰く。


 1.序列は現時点での暫定であり、確定ではない。


 2.序列更新は月に一度のウーシア測定に準ずるものとする。


 3.今後のウーシア測定は「サークル」に入部していることを前提とする。(学部は問わない)


 4.全生徒、何らかのサークルに入ることを義務化し、サークル内でウーシアを高めあうこととする。


 5.現在のサークルに希望がない場合は、新たなサークルを作ることを許可する。

 ただし、メンバーが5人以上であることとする。


 6.大学内でのみ『能力』の使用を許可する。

 その活動または戦闘において発生した損害の一切の責任を大学側が負担するものとする。



 以上。


 こうして、俺たちの波乱の大学生活一日目は終了した。







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