今、なんて? (※良一視点)
誤字・脱字等の報告は、誤字報告からお願いいたします。
昨日すでに90位代に入っていたのですが、お陰様で日間ランキング30位代に載ることができました。ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
「えっと、じゃあ……徳永さん、だったよね? どうぞ上がってください」
「はい。お邪魔します」
戸惑いを隠せていない母さんと、そんな母さん促されても笑顔で家に上がる徳永さん。
その対比に内心笑みを浮かべながら、僕も靴を脱ぎ家に上がる。
「とりあえず、一番片付いてるりょうちゃんの部屋でいいよね?」
「あぁ、うん、そうだね」
「えっ?」
板挟みになって僕と母さんの会話を聞いていた徳永さんが、立ち止まって僕の方へ振り向いた。
「? どうかしましたか?」
「やっぱり、なんでもない」
「そうですか?」
明らかになにか言いたそうなんだけど……。
一抹の不安を抱えながら、母さんの案内のもと、徳永さんと自分の部屋にやってきた。
「ごゆっくり。今、飲み物を持ってくるからね」
「あっ、お構いなく!」
「いいのよ、飲み物だから」
よくわからない理由付けをした母さんは、部屋の扉を閉めて飲み物を取りに行った。
僕は気にせず真っ先に座布団を出して床に置き、徳永さんに座るよう促す。
徳永さんが座るのを尻目に鞄を下ろし、勉強机の上に置いて徳永さんの正面に座る。
そこでふと気づく。
あれ? よく考えたら、なんで僕は徳永さんと一つの部屋で二人っきりになってるんだ?
異性を自分の部屋に呼ぶとか、完全にカップルの所業じゃないか。
ハッ、そうか! さっき徳永さんが振り返ったのはこれが理由か……!
やってしまった……!
母さんにあぁ言われたから、ついオーケーを出してしまった……。
でも、一番片付いてる部屋が僕の部屋っていうのは事実だから、仕方ない。
だって、リビングでさえ色々なものが各所に点在してて、お客様を入れられないくらい見苦しいことになってるから。
とはいえ、これは謝らないといけない。
「すみません、徳永さん。母が言った通り、一番片付いてるのが僕の部屋だったからこの部屋なだけであって、それ以外の意味は全くないので……」
「わ、わかってるよ⁉ だいたい、私、弟の部屋に入ったことあるから、男の子の部屋に抵抗とかないし?」
身内とそうでない男って違うと思うけどなぁ。
というか、わかってると言いつつ残念そうな雰囲気を醸し出さないでほしい。
そう思っていると、
「それよりも、私は良一のことが知りたいな!」
そう言ってきた。
やめてほしい。
嫌でも僕に気があることを認識させられるから。
本当に不思議でならない。
なんで、こんな僕のことを……と思わずにはいられない。
まぁ、きっかけについてはわかってるよ?
『良一さ。告白を、私が傷つかないように断ってくれたでしょ? それが、私的にはキュンと来ちゃってさ。まずは良一のこと知ろうと思って』
って言ってたから。
確かに、傷つかないように懇切丁寧に断ったよ?
けど、それがどうキュンとすることに繋がるのか、そこが謎だ。
「ねぇ、良一。聞いてる? また考え事?」
「───ッ⁉ す、すみません……また考え事をしてました……」
今度は正面だからか、ぐいっと僕に顔を近づけていた。
拳一個分くらいの距離しかなく、気づいたらその距離だったため、また驚いてしまった。
そして、間の悪いことに、そこへ母さんが戻ってきてしまった。
――ガチャ。
「あれ? あれれれれれれ? 見ーちゃった、見ーちゃった♪ りょうちゃんもすみに置けないね〜。飲み物、ここに置いとくね。ごゆっくり〜」
「ちょっ、母さん、これは誤解……」
――バタン。
あ、くそっ、聞く耳持たなかった……!
ノリが高校生だったけど、もう34歳なんだから家でくらい、それっぽい言動を心がけてほしい。
結愛はまだ10歳だからいいだろうけど、僕はもう17歳だから、自分の母親にあのノリで話されると複雑な気分になる。
まぁ、帰ってきてからのやり取りでわかると思うけど、あのノリが通常運転だから、7割くらい諦めてる。
はぁ、完全にキスしたと思い込んでるよなぁ、あれは。
「良一? お母さんもしかして、私と良一がキスしたと思った?」
徳永さんも同じことを思ったのかそう聞いてきたので、僕は頷いて答えた。
「……りょ、良一がしたいなら、き、キス、本当にしてもいいけど……?」
――今、なんて?
「あ、あの、聞き間違いかもしれないので、もう一度言ってもらってもいいですか?」
「えっ? うっ、まぁ、いいけど……」
徳永さんには悪いけど、これは確認するべき事項なので、悪しからず。
というか、頼む、聞き間違いであってくれ!
徳永さんがそんなこと言うはずが……
「良一がしたいなら、キス、本当にしてもいいけど?」
言ってたァァァァァ!!?