家に着いたんだけど…… (※玲奈視点)
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おかしい。
私達って今、良一の家に向かってるんだよね?
なんで私の家のある方向に向って歩いてるの?
不思議に思いながら着いた先は、私の家の向かいにある家だった。
「えっ、ここが良一の家だったの⁉」
「はい、そうですけど……知ってたんですか?」
「知ってるもなにも、うちの家、これだし……」
言いながら向かいにある私の家を指差す。
そういえば、ここの表札〝YOSHITAKE〟だ。
全く結び付けてなかった。
いや、まぁ、今まで良一のこと知ろうともしてなかったことが原因なのはよくわかってる。
それにしても……
「よく今まで会わなかったよね」
それが不思議。
「そうですね。でも、僕は平日は早めに出てますし、休日は一歩も外に出ないので、会わなかったのも不思議じゃないですよ」
そんなことを臆面もなく笑顔で言ってしまう良一に、私は吹き出しそうになる。
「……良一って、ガチのインドア派なんだね」
笑いを必死に堪えながら言う。
「欲しいものはだいたい放課後に買いに行くので、休日は一歩も出なくて済むんです」
「あぁ、なるほどね」
でもさ、良一。
それを誇らしげに言うのはどうかと思うよ?
そんなやり取りをした後、私は良一に続いて家に入った。
家に入る直前、良一が駐車スペースを見てなにやら考え事をしていた。
その駐車スペースには1台車が停まっている。
たぶん、想定外にも、お父さんかお母さんが帰ってきているんだと思う。
そして、玄関の中に入ると、良一は考え事はきっぱり忘れた様子で「ただいま~」と言った。
私は、一美や乃梨子の家には行ったことあるけど、他の人の家――特に異性の家――に来たのはこれが初めてだから、実はすっごく緊張してる。
妹さんとか親御さんに嫌われたりしないかな?
そう思った矢先、小学生くらいの美少女がやってきた。
「にぃに! お帰……り⁉ ママぁ! にぃにが友達どころか女の人連れてきたぁ!」
私を見るなり、妹さんは驚いた様子でお母さんを呼んだ。
良一、〝にぃに〟って呼ばれてるんだ。
うちの中学生の弟は、私を呼ぶとき、生意気にも〝姉貴〟なんだけど、この差は一体……。
私の弟と違って、良一の妹さんは可愛いなぁ。
というか、友達すら連れてきたことないんだね、良一。
名前は忘れたけど、唯一話してるあの男子は、連れてくるほど仲がよくないのかな?
そんなことを思っていると、奥から「えっ⁉ りょうちゃんが⁉」という声と共に、お母さんとは思えないほど若い女性が焦った様子で良一のところまで走ってきた。
今度は〝りょうちゃん〟か。
その呼び方もいいなぁ。
でも、私は良一の方がしっくりくるから、このままで。
そんなことを考えていると、良一のお母さんがとんでもないことを言い出した。
「りょうちゃん、もしかして、欲求不満なの? 配慮できなくてごめんね? 今後はちゃんと配慮するから、お金で女の人を連れてくるようなことはしちゃダメよっ?」
思わず吹き出しそうになった。
良一のお母さんって、おもしろい人だなぁ。
というか良一って、そんなことを言われるほど人付き合いがないんだ。
まぁ、じゃなきゃお母さんがそんなことを言うわけないよね。
って、待って⁉
ということは、私は良一が初めて連れてきた他人ってこと⁉
ヤバい、嬉しい……!
「母さん、落ち着いて。欲求不満という問題を抱えたことは一度もないから」
良一が冷静に返事をする。
欲求不満がないってことは、いつも自分でなんとかしてるってこと?
それで満足してるってこと?
それが本当だとしたら、良一はよっぽど今の生活に満足してるってことになる。
もしかして、私の存在は邪魔、なのかな……。
そんな、密かで自分勝手な不安を抱く。
「じゃあなんで女の人を連れてるの? 隠さなくていいのよ? 男の子はそういうものなんだから」
良一の表情からして、本気で言ってると思います。たぶん。
というか、良一のお母さん、もう少し良一のことを信用してあげてください!(←盛大なブーメラン)
「家に来てみたいって言うから連れてきただけだよ。同じクラスの徳永玲奈さん」
紹介された私は、良一のお母さんや妹さんに同時に見られたことで、若干緊張しながら挨拶をする。
「は、初めまして。良一の友達の徳永玲奈です」
ヤバい、緊張してるからか、頬がピクピクする……!
「りょうちゃんの、友達?」
「あ、いえ、今のところは友達というだけで、将来的には友達以上の関係になるつもりです」
これは言っておかなきゃだよね。
今日はその第一歩なんだから。
「りょ、りょうちゃん!」
「な、なに?」
「いくら払ったのっ?」
良一のお母さん、またその反応ですか⁉
ほら、良一が呆れたような顔してますよ!
「そうだよ! じゃなきゃこんな美人な人がにぃにを好きになるはずない! というか、にぃにを好きになる人なんていないでしょ⁉ いくら貢いだの⁉」
妹さんは、やけに必死に良一のことを好きになる人がいないことを否定するなぁ。
私は本当に良一と今以上の……こ、恋人同士なれたらなぁ、とか、思ってるんだよ?
そこまで否定すると、恋人を作るなって言っているように聞こえてくるけど……まさかね。
私の曲解だよね、きっと。
でも、万が一のために、私の気持ちを伝えておこう。
そう思った矢先、良一が口を開いた。
「まず、そのすぐ〝お金払ったんでしょ〟思考になるのやめようか。徳永さんに失礼だから」
や、優しい……!
誰よ、良一をオタクで地味な男って敬遠してたのは!
喋りもしないで勝手に〝オタクだからキモい〟って決めつけて……!
全くもう、偏見にも程があるでしょ?
はい、ぜんぶ私です。ごめんなさい。
良一のこと、完全に見直した。
なろうかなぁ、じゃなくて、絶対に恋人になる!
外見? そんなものは時空の果てにポイ捨てした。
良一の内面の優しさに惹かれたんだから、外見は二の次。
必ず良一を落として見せる!
よし、ここはまず第一歩として、私の想いをぶつけよう。
「そうですよ。私は自分の意思で良一に興味を持ったんです。私はお金を払われて他人を好きになるような尻軽女じゃありません。それに、私が初めて興味を持った男なんですよ? 良一は」
『えっ?』
私の言葉に、良一まで驚く。
驚いた理由はなんとなく想像がつく。
たぶんだけど、ギャルである私が恋愛経験ゼロだったことに驚いてるんだと思う。
ギャルが恋愛経験豊富っていうのは、ギャルになる前の私もそう思ってたからわかる。
それに、一美や乃梨子が証明しているからこそ、良一は、私もそうだと思ってたんだと思う。
一美も乃梨子も、話を聞く限りでは今まで付き合った男は二桁はいるって言ってたし。
しかも、二人とも少し付き合ったら自分から振ったって言ってた。
私的には、
――それは、倫理的にどうなんだろう?
と思う。
私は、本当に好きになった人を一途に想い続けたいと思ってる。
だから、私は良一のことをもっと知って、今以上に好きになって、好きになってもらって、ゆくゆくは……。
コホン。とりあえずは、良一のことを知ることから。
――これから楽しくなりそう!