嘘でしょ? (※良一視点)
買いたかったラノベをやっとのことで買い終えた後、僕は徳永さんを連れて我が家に向かった。
家に向かう道中、徳永さんは結構な上機嫌で僕の隣を歩いていた。
……やっぱりおかしいよ。
なんで僕の隣に徳永さんがいるんだ?
こんなところを徳永さんを狙ってる男達に見られたら、袋叩きにされる未来しか見えない。
そんなことを考えているうちに、我が家に着いた。
すると、徳永さんが驚いた。
「えっ、ここが良一の家だったの⁉」
「はい、そうですけど……知ってたんですか?」
「知ってるもなにも、うちの家、これだし……」
そう言ってうちの向かい側の家を指差す徳永さん。
――嘘でしょ?
確かに表札は〝TOKUNAGA〟になってるけど、まさか徳永さんの家だったとは夢にも思わなかった。
やけに高級住宅だなぁとは思ってたけど、徳永さんの家っていうなら納得だ。
お医者さんって収入すごいって聞くし。
「よく今まで会わなかったよね」
「そうですね。でも、僕は平日は早めに出てますし、休日は一歩も外に出ないので、会わなかったのも不思議じゃないですよ」
「……良一って、ガチのインドア派なんだね」
「欲しいものはだいたい放課後に買いに行くので、休日は一歩も出なくて済むんです」
「あぁ、なるほどね」
と、そんなやり取りをしつつ、家の中に入ろうとしたところでふと気づく。
車が駐車スペースに停まっていることに。
母さん、もう帰ってきてるのか。
そういえば、いつもは9時~17時の出勤だから7時までは寝てるんだけど、今日は珍しく6時におきてたな。
ってことは早番だったのかな? と思いながら、玄関の戸を開ける。
「ただいま~」
「にぃに! お帰……り⁉ ママぁ! にぃにが友達どころか女の人連れてきたぁ!」
妹の結愛が徳永さんを目にした瞬間、家の奥に向かってそう叫んだ。
「えっ⁉ りょうちゃんが⁉」
そんな声が聞こえたかと思うと、遠くからドタドタという足音とともに、母さんがものすごい形相で僕のところにやってきた。
「りょうちゃん、もしかして、欲求不満なの? 配慮できなくてごめんね? 今後はちゃんと配慮するから、お金で女の人を連れてくるようなことはしちゃダメよっ?」
このものすごい勘違いを炸裂させているこの人こそ、何を隠そう、うちの母親である。
「母さん、落ち着いて。欲求不満という問題を抱えたことは一度もないから」
「じゃあなんで女の人を連れてるの? 隠さなくていいのよ? 男の子はそういうものなんだから」
毎日純粋な子どもたちと関わっているからなのか、この母親は下品なことでも卑猥なことでも平気で言ってくる。
こっちの年齢を考えてほしい。
「家に来てみたいって言うから連れてきただけだよ。同じクラスの徳永玲奈さん」
「は、初めまして。良一の友達の徳永玲奈です」
気圧されたのだろう。
若干頬がひきつっている。
うちの母親がすみません!
「りょうちゃんの、友達?」
「あ、いえ、今のところは友達というだけで、将来的には友達以上の関係になるつもりです」
なに言い終えた後に〝やり遂げたぜ!〟みたいなスッキリとした顔してんの⁉
やっぱり付き合う気満々じゃないですかヤダー。
そっちがその気でも、僕にその気は全くないんだよなぁ。
「りょ、りょうちゃん!」
「な、なに?」
「いくら払ったのっ?」
母よ、またそれか。
その思考は、なんとかならないのか?
「そうだよ! じゃなきゃこんな美人な人がにぃにを好きになるはずない! というか、にぃにを好きになる人なんていないでしょ⁉ いくら貢いだの⁉」
妹よ、言ってることは尤もなのに、なぜそんなに焦ったように迫ってくるんだ?
それじゃまるで他の女に取られるのを恐れているみたいじゃないか。
あ、いや、そうか。
もし彼女ができてしまったらこき使えないから、その心配をしてるんだな?
そんなに僕をこき使いたいのか。
って、そんなことより、二人の誤解を解かないと……。
「まず、そのすぐ〝お金払ったんでしょ〟思考になるのやめようか。徳永さんに失礼だから」
「そうですよ。私は自分の意思で良一に興味を持ったんです。私はお金を払われて他人を好きになるような尻軽女じゃありません。それに、私が初めて興味を持った男なんですよ? 良一は」
『えっ?』
僕、母さん、結愛が一斉に耳を疑った。
――嘘でしょ?
恋愛経験豊富だと勝手に思ってたんだけど……ただの僕の偏見だったのか……。
驚いていたということは、母さんも結愛も僕と同じことを思っていたのだろう。
ギャルって恋愛経験豊富なんでしょ、っていう先入観あるもんなぁ。
先入観というか偏見って言った方が正しいかもだけど。