妹の温もり
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なんでここに……。
「ごめんね、良一! 私のせいでこんなことに……ほんとに、ごめんね……」
駆け寄ってきた徳永さんが、今にも泣き出しそうな顔で謝ってきた。
うん、やっぱり、諦めてもらうしかないな。
この際だはっきり言ってしまおう。
「保健室行こ? ね?」
「これでわかったでしょう?」
「へ?」
「僕みたいな人種に関わると、ロクなことがないんです。僕のことは諦めて、他の……もっと徳永さんに釣り合った人を探してください。保健室へは、一人で行けますから」
そう言って僕は立ち上がり、蹴られた腹を押さえながら屋上の入り口へと向かった。
◆
保健室には結局行かず、教室に行き荷物を持って帰宅の途についた。
あんなことを言った後でずっと学校にいれる自信がなかったからだ。
まぁ、家が向かいにあるけど、玄関というバリケードがあるから大丈夫だろう。
「はぁ、言っちゃったなぁ。けど、今までのなんでもない日常に戻るだけだ。後悔はしてない」
そう呟きながら、家の中に入る。
「えっ、にぃに⁉ どうしたの、その顔!」
「結愛こそ、なんで帰ってきてるんだ……?」
「今日は避難訓練って言ったでしょ! お母さんは迎えだけ来てまた仕事に行っちゃったけど」
「あ、そっか。そうだった」
納得しながら靴を脱いで家に上がる。
「それで、どうしたの? 何があったの? 結愛に聞かせて?」
「いや、それが……」
妹に話すのは兄的にどうなんだと言われそうだけど、今の僕は妹でもいいくらいに誰かに話したい気分だった。
「それは言って当然だよ! なんなら結愛が一生にぃにの傍にいてあげるから、彼女なんて作らなくていいよ!」
話を聞いた結愛は、なぜか上機嫌でそう言った。
「いや、結愛の人生なんだから、兄ちゃんに構わず彼氏作っていいんだぞ」
「その結愛がそう決めたんだから、口出ししないでくださいぃ!」
そう言いつつ、そのうち思春期が来て〝にぃに〟と呼ばなくなって「クソ兄貴」とか「バカ兄貴」とか言うかもしれない。
いや、「キモオタ陰キャ」とか「キモオタ」とか「オタ陰キャ」とか言われるようになるかもしれない。
さらには、「は? あんたが兄とか信じらんないんだけど!」みたいな兄とも思われないようになるかも……。
あ、やばい、いま通常の半分以下の精神力だから、それを考えただけで萎えてくる。
「にぃに、あなた疲れてるのよ。結愛がにぃにのことを嫌いになるわけないでしょ。ほら、こっち来て!」
リビングにあるソファーに座って僕を呼ぶ結愛。
そのネタ、どこで覚えたんだ?
そう思いながらソファーに腰掛ける。
すると、結愛が自分の太ももをぽんぽんし始めた。
「えっ?」
「ほら、にぃに、頭」
「いや、妹にやってもらうのは違うだろ?」
「いいから、ほら、頭」
「……わかった」
渋々、頭を結愛の太ももの上に乗せ、ソファーに寝転がる。
「どう? 結愛の膝枕」
「柔らかい」
って、なに言ってるんだ⁉
今のは完全にセクハラ発言!
「えへへ、よかった」
そこで喜んじゃダメだろ……。
そこのところもちゃんと教えないとな。
「あ、そうだ。弁当ありがとう。美味しかった」
「ほんと⁉ じゃあ、これから毎日作るね!」
「毎日は辛いだろうから、2日に一回……いや、3日に一回でいいよ」
「やだ! 毎日作るの! にぃにが喜んでくれるなら、辛くない!」
「な、ならいいけど……」
「うん!」
そんなに作りたいなら作ってもらうか……。
そう思った矢先、欠伸が出た。
心なしか、眠気もある気がする。
「にぃに、このまま寝てもいいんだよ? お母さん帰り遅くなるって言ってたから」
結愛の優しげな声に導かれ、僕の意識は遠退いていった。




