そう言われても……
誤字・脱字等の報告は、誤字報告からお願いいたします。
今回、少し暴力的描写ありかつシリアスな場面となっております。ご注意ください。
弁当を食べ終わると、徳永さんはさっさと自分の席へと戻っていった。
そこへ片倉さんと真辺さんが話し掛けた。
ということは、二人とも、徳永さんが僕を落とせるように何かしら協力しているんだろう。
二人は恋愛に関しては百戦錬磨の強者だと噂に聞いているけど、もし本当なら、相当厄介な相手だ。
恋愛経験豊富な二人の助力と、徳永さんのあの破壊力抜群の上目遣い&笑顔があれば、鬼に金棒、弁慶に薙刀だ。
僕がなにを危惧しているのかと言えば、付き合ってもないのに、今後も恋人同士がやるようなことをしてくると、必ず徳永さんを恋愛対象として見ている男子達から目の敵にされ、果ては脅しや暴行をする可能性があることだ。
「なぁ、オタク。ちょっと面貸してくんね?」
こんなふうに。
「は、はい……わかりました」
数人の男子達に囲まれ、まるで護送される犯罪者のように教室を連れ出された。
◆
やってきたのは、徳永さんに呼び出された時と同じく屋上だった。
それはそうと、逃げないように周りを囲うのはやめてほしい。
僕にそんな度胸はないのに。
そもそも、僕は喧嘩に強くない。
運動でさえ、そんなに得意ではない。
そんな僕が逃げ出したところで、すぐに捕まるのだから、こんなふうに囲わなくてもいいと思うんだけど……。
「おい、オタク。てめぇ、調子に乗んなよ?」
代表の男子――クラス一のイケメンである橋口陽介――がそう言った。
「えっと……調子に乗った覚えは1ミリたりともないのですが……」
――パァンッ!!!!
平手打ちの音ではない。
殴られた音だ。頬を。
それに気づいたのは、床に尻餅をついてからだ。
殴った後の姿勢の彼を見れば一目瞭然だった。
そして、殴られた時に口内を切ってしまったのか、口の端から血がタラリと流れた。
「それが調子に乗ってるんだってんだよ! 馬鹿じゃねぇのか、てめぇ!」
その言葉に、周りの男子が同調したように「そうだそうだ!」と叫んだ。
僕は口の端から垂れる血を手の甲で拭って立ち上がる。
「僕がなにをしたって言うんですか……」
「あ゛? トボケんじゃねぇよ! 俺の玲奈を取ろうとしてるくせに!」
『そうだそうだ! トボケんじゃねぇ!』
――そう言われても……。
「そう言われても、徳永さんから話し掛けてくるので、僕にはどうしようもないんですが……」
「うるせぇ!」
また殴られた。
今度は、尻餅をつかないように踏ん張る。
が、よろめいた拍子に後ろにいた男子の方に振り向いてぶつかりそうになると、その男子が僕の腹を思いっきり蹴ってきた。
それによって再び尻餅をつく。
そんな無様な僕の様子を見て、全員が僕のことを嘲笑う。
やっぱり、僕が徳永さんが付き合うことを他の男子が許してくれるはずがない。
徳永さんには悪いけど、きっぱりと諦めてもらうしか……。
そう思ったところへ、生活指導の赤松先生の声が聞こえてきた。
「おい、お前ら、何してる!」
「やべ、赤松だ!」
「おい、逃げるぞ!」
そう言って、屋上の入り口に立つ赤松先生の横をすり抜けて逃げていこうとした。
そこへ、
「顔覚えたから、逃げても無駄だぞ!」
そんな言葉が掛けられる。
逃げていく男子達の足が止まる。
「じゃあ、先生はこいつらと話をするから、吉武のことは頼むぞ」
屋上の入り口の向こう側でそんなやり取りをして、赤松先生は男子達を連れて去っていった。
というか、赤松先生の言葉から察するに、他にも誰かいるってことだよね?
こんな情けない姿を見せるなんて、嫌なんだけど……一体誰が……。
そう思った矢先、その誰かが、入り口からこちらに顔を覗かせた。
それは、いま一番この姿を見せたくない人だった。
「……徳永さん」




