積極的な徳永さん
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お待たせしました。すみません。
弁当を食べ始めて少しすると、徳永さんが妙な行動に出た。
「はい、良一。あーん」
「……はい?」
僕が呆けるのと同時に、周りから「はぁ⁉」という信じられなさそうな驚きの声が聞こえてきた。
あの徳永さんが、僕という人種に対して〝あーん〟をしているのだから、その反応は自然だ。
一番信じられないのは僕なんだけどなぁ。
でも、理由を一番知ってるのも僕なんだよなぁ。
理由は恐らく、結愛の〝愛妹弁当〟に対抗するためだろう。
というか、召使いとしての僕を取られたくないからって徳永さんに対抗意識を燃やしている結愛も結愛だ。
帰ったらその辺きちんと話をつけないとな……。
「良一。はい、あーん」
僕が考え事をしているのを見抜いたのか、笑顔でもう一度言って差し出してきた。
けど、目が全く笑ってない。
怒ってるよね、絶対。
けどここは、お断りしなければならない。
なぜなら、周りの目が凄まじいことになっているからだ。
「えっと……男としてはとてもありがたいんですけど、それは少し、順序を飛ばしていると思います」
言い終えるや否や、徳永さんがこの世の終わりのような顔をして落ち込んだ。
そこまで〝あーん〟がしたかったのか……。
これで、ますます、徳永さんが本気で僕のことを好いていることがわかってしまった。
「良一が、食べてくれない……」
況してや、目尻に涙を溜めてそんなことを呟かれたら、理解せずにはいられない。
いや、今はそれよりも、徳永さんを宥めないと!
そう意気込んだ僕は、徳永さんを宥めにかかった。
「え、えっと、徳永さん、周りを見てください」
「えっ……? う、うん」
返事をした徳永さんがチラッと周りを見る。
そこには、こちらを凝視しているクラスメイト達の姿があったことだろう。
僕のことを射殺さんばかりの視線を向けてきているのだから。
それを見た徳永さんが、ゆっくりとこちらに顔を向き直した。
そして、小声で
「ご、ごめんね。私、考えなしだった……」
そう謝ってきた。
「いえ、わかってもらえればいいんです。わかってもらえれば」
よかった。これでなんとか機嫌は直ったかな。
そう思った矢先、次なる試練が舞い込んできた。
「人のいないところならいいんだよね? じゃあ、今から屋上行こ?」
なん……だと?
そう来たか……。
しかし、ちゃんと説明しなかったツケが返ってきた。
ただそれだけのことだ。
「良一? もしかして……行きたくない?」
はい、出ました。上目遣い。
ちょっと耐性が付いてきたから、まだ耐えられる。
「そっか……行きたくないんだ……」
本当に残念そうにしょんぼりする徳永さん。
いつの間にそんな武器まで……だがしかし、まだ耐えられる。……はず。
「行こ?」
そして2度目の上目遣い。
ぐふぅ……いや、まだだ、まだ耐えられる。
しかし、今のうちに手を打たなければ、次はやられる……!
「え、えっと……もう弁当広げちゃってますし、屋上に行くまでに昼休みの3分の1を消化してしまいますから、日を改めましょう」
「! 行ってくれるの⁉ やった! ありがとう、良一!」
そして浮かべる嬉しそうな笑顔。
よし、成功だ!
今回は上目遣いを耐え切ったから、笑顔が癒やしに感じられる。
話の流れさえ無ければ、徳永さんの笑顔はとても癒やされる笑顔だったから、今回はラッキーと言える。
もし、また上目遣いに負けていたら、この笑顔は今まで感じていた〝勝ち誇った笑顔〟としてしか認識できなかっただろう。
だからこそ、ラッキーなのだ。
「じゃあ、明日のお昼は屋上ね!」
「……わかりました」
まさかの明日……。
まぁ、日を改めてはいるから、良しとしよう。




