断られたけど…… (※玲奈視点)
私は、徳永玲奈。
友達とのゲームに負けて罰ゲームで告白をすることになった。
しかも、その相手がクラス一のオタクである吉武良一だった。
なんで私があんなオタクに告白なんか……。
そう思いつつも、罰ゲームなので仕方なく、翌日、オタクを屋上へ連れていき、そこで告白した。
すると、オタクは予想外の返事をしてきた。
『僕なんかに告白していただいて、ありがとうございました。でも、罰ゲームなんですよね?』
『昨日、放課後に教室で話してるのを聞いてたので。ですから、何事もなかったことにして、もう教室に戻りましょう。僕なんかに恋人なんかできるわけがないんです。知っての通りオタクで地味な男ですし、一生独り身なのは覚悟してます。なので、告白の疑似体験をさせていただいてありがとうございました。では、僕はもう戻りますね』
って。
そう言ってオタクは去っていった。
呼び止めても振り返ることなく。
私は、オタクの言葉をもう一度思い出す。
……言ってて悲しくならないのか、ということしか言ってない。
しかもそれを、なんの陰りもない笑顔でさらっと言ってのけた。
あんな一面もあったんだ。……カッコいいじゃん。
そう思うと、なぜかオタクのことをもっと知りたいと思った。
◇
教室に戻ると、オタクは本当に何事もなかったかのように自分の席でいつも通り本を読んでいた。
オタクを見ていると、友達である一美と乃梨子が迫ってきた。
小声で。
「ねぇ、オタクくん、何事もなかったかのように戻ってきたんだけど!」
「告白したんだよね⁉」
「したよ。したけど……」
私は、なにがあったのかを二人に話した。
「あちゃー、聞かれてたんだ。じゃあ仕方ないけど……」
「まさかそんなこと言うなんてねぇ。意外とカッコいいとこあんじゃん」
「カッコいいかなぁ? 自虐的なことしか言ってないじゃん」
「わかんないの? 自分のせいで玲奈に変な噂が立たないように、告白したことをなかったことにしたんだよ。それに、戻ってきたとき玲奈にパシりを頼まれただけだって言ってたし」
「ま、まぁ、確かに……」
えっ、そんなことまで言ってたの?
自然とオタクの方を見る。
相変わらず本とにらめっこしていて、たまに口元が緩んだり表情を歪めたり涙目になったりとコロコロと表情を変えている。
本の文章だけであそこまで表情を変えるなんて、感情豊かなんだなぁ。
「玲奈、もしかして、オタクのこと気になるの?」
「えっ⁉ い、いや、そんなわけないでしょ……! あんなオタクに興味なんかあるわけない!」
「必死すぎだよ。それだと興味あるって言ってるようなもんだよ?」
うぐっ……一美、鋭い。
「そんなに気になるならこうしちゃえばいいんだよ」
そう言って一美が私に耳打ちをして、その耳打ちに私は目を見開いた。
◇
放課後、正門のところでオタクを待ち伏せした。
一美が耳打ちしたこと。
それは――
『放課後、二人っきりでどこか行ってきなよ』
というものだった。
二人っきりで少し話をしろということだろう。
私はその案を採用し、今に至る。
待っていると、本片手にこちらに向かってくるオタクの姿を発見した。
マジか。本読みながら歩いてる。
しかも、全く誰にもぶつからず、ぶつかりそうになってもさらっと避けて歩いている。
なにその達人技……。
そんなオタクの前に立ちはだかる。
すると、オタクは立ちはだかった私の左横を通りすぎていった。
…………えっ?
何が起きたかわからなかった。
確かに私はオタクの前に立ちはだかったはず。
それなのに、オタクは私の左横を通りすぎていった。
ど、どうなってんの?
い、いや、とにかく、呼び止めなきゃ!
「ちょ、ちょっと、オタク!」
「はい? あっ、徳永さん……まだなにか?」
暗に自分とはもう関わらないでと言われているようで、少しムカッときた。
「今からちょっと付き合って」
だから少しキツめの言い方になっても仕方ないと思う。
「す、すみません。僕、今から用事があって……」
「用事?」
「本屋に行きたいんです。買いたい本があるので」
「……じゃあ、私も行く」
なんの本を買ってるのか気になるし。
「えっ? ま、まぁ、いいですけど……付いてきてもつまらないと思いますよ?」
「私は、オタクのことを知りたいだけだから」
私がそう言った瞬間、オタクの顔が〝なに言ってんの、この人?〟みたいな顔になった。
信じられないかもしれないけど、私の目的はこれしかないからそう言っただけ。
「本屋、行くんでしょ? 行こ」
そう言いながら、オタクの手を掴む。
「えっ? あっ、はい、ソウデスネ……」
困惑しているオタクの手を引いて、本屋に向かった。
書き溜めておいた、あと6話を今日の8時、12時、16時に2話ずつ予約更新を行いますので、お楽しみに。