い、今のって? (※良一視点)
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食事を始めると、結愛が「ねぇにぃに、これ食べさせて」と言って口をあーんと開けた。
「もう10歳なんだから、食べ物くらい自分で食べなよ……」
「ダメなの?」
またもや上目遣いをする結愛。
「……はぁ、仕方ないなぁ。はい」
「やったぁ! にぃに、ありがとう!」
そう言って僕が差し出した食べ物を嬉しそうに口に入れて咀嚼した。
ふと向かい側にいる徳永さんを見ると、口を半開きにさせて唖然としていた。
「あ、すみません。これはいつものことなので、気になさらないでください」
「いつもの……こと?」
「そうそう。結愛ったら、いっつもりょうちゃんに食べさせてもらってるの」
母さんが苦笑いしながら補足する。
ところが、それを聞いた徳永さんの顔が唖然としたものから驚愕したものへと変わった。
「いつも……食べさせて……」
「徳永さん? どうしました? 徳永さん?」
「良一、それは……普通じゃ、ない」
片言のように呟く徳永さん。
「えっ? 妹を甘やかすのは普通じゃないんですか?」
そう言うと、表情がますます驚愕したものへと変わった。
えっ、もしかして、本当に普通じゃない?
「にぃにとはお風呂も一緒に入るんですよ!」
「お風呂も⁉」
「洗ってほしいって言われて一緒に入るんですけど、妹とお風呂入るのは、普通ですよね?」
僕が訊ねると、
「良一、それも、普通じゃない……」
またもや片言でそう言われた。
これもか……。
「にぃには、結愛のこと、お客様よりも大切にしてくれてますから!」
「妹だからね」
「……」
「ぷっ……!」
「な、なんで笑うんですか⁉」
「ううん、なんでもないよ?」
そう言ってニコニコ満面の笑みを浮かべる徳永さん。
それに対して、結愛は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
これは……なんの攻防が繰り広げられてるんだ?
考えられるところとしては、召使いの僕を取られたくない結愛と、僕と付き合おうと思っている徳永さんという構図だけど……。
未だに、半信半疑なんだよなぁ。
徳永さんが僕と付き合おうと思ってること。
いや、徳永さんが本気なのは理解してるんだけど、なんというか、心の整理がつかないと言うか……。
まぁ、そんな感じだ。(どんな感じだ)
◆
食事も終わり、8時になったため、徳永さんを家に送ることになった。
と言っても向かいだから見送るだけなんだけど……。
「今日は私のわがままを聞いてくれてありがとね、良一」
「いえ、僕にとっては夢のような時間でした。明日から疎遠になったとしても、今日のことは忘れません」
「もう、まだ私が良一のことが好きなのかどうか疑ってるの?」
「あ、いえ、そういうわけでは……。ただ、その、まだ心の整理がつかないと言うk……むぐ⁉」
言い終える前に、徳永さんに口を塞がれた。
――口で。
「んー⁉ んーんー!(徳永さん⁉ なにやってるんですか!)……ぷはっ、ちょっ、徳永さん⁉」
――い、今のって?
「良一があまりにも疑うから証明しちゃった!」
そう言って、えへっ、と笑う徳永さんの顔は、月明かりに照らされて真っ赤なことがバレバレだ。
かくいう僕も、恐らく赤くなっている。
もう、心臓がバクバクで、顔が火照ってることを自覚できるから。
すっ飛ばしすぎ……! 工程をすっ飛ばしすぎ!
そもそも家に来たこともそうだけど、どこの恋愛に、まだ友達にもなってるかどうか怪しい関係の男女が色々とすっ飛ばしてキスする人がいるんだよ……。
居たけどね! ここに! 色々とすっ飛ばした人が!
「じ、じゃあね、良一! また明日!」
「えっ、あ、はい……。また、明日……」
挨拶を済ませた徳永さんは、疾風の如く自分の家に入っていった。
それを僕は、心ここにあらずの状態で見ていたのだった。




