それって、タイプじゃなくね? (※良一視点)
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『良一がしたいなら、キス、本当にしてもいいけど?』
そう言われた僕は、頭を抱える。
いろいろ過程をすっ飛ばしすぎだろ! と。
そもそも僕達、今日、友達になったばかりなわけで、況してやキスをするような間柄じゃ決してない。
いや、それ以前に、友達ですら、なっていいの感が拭えてない。
「徳永さん、正気に戻ってください」
「む……良一は、私とキス、したくないの?」
ここぞとばかりに上目遣いをしてくるけど、心を鬼にしてスルーする。
「そもそも、僕と徳永さんは、そんな関係じゃないはずです」
「それはそうだけど、私はしてもいいって思ってるよ?」
今日1日で、僕への態度、変わり過ぎじゃないか?
劇○ビフォーアフターと言っても過言じゃない変わり様だ。
……もしかして徳永さんって、恋愛系ラノベで偶にいる〝チョロイン〟属性……なのか?
興味を持った男は僕が初めてって言ってたし、その可能性は充分にありそうだ。
だとしたら、対応の仕方もある。
試してみるか。
「徳永さんは、僕のことを知りたいからうちに来たんですよね? 聞かれれば答えられる範囲で答えますから、キスのことは忘れてください」
「ほんと⁉ じゃあ、忘れる!」
成功だ。
そしてものすごく嬉しそう……。
「じゃ、じゃあ、まず生年月日と血液型と星座を教えて!」
鞄からメモ帳とペンを取り出し、目をキラキラさせながらそう訊ねてきた。
……占いでもするのかな?
「えっと、生年月日は2111年8月22日で、血液型はA型、星座は獅子座です」
「2111年8月22日、A型、獅子座……っと。へぇ、8月なんだ。私はねぇ、2111年7月7日で、B型、蟹座だよ」
「誕生日が七夕だと覚えてもらいやすそうでいいですね。僕の誕生日は夏休み中なので、家族以外に祝ってもらったことがないんですよ。まぁ、そもそも、祝ってくれる友達がいないんですけどね」
頭の後ろを搔きながら笑ってみせる。
「大丈夫、今年は私も祝ってあげる。だから、期待しておいて?」
「ハハハ、べつに無理して祝う必要はないですよ? 片倉さんや真辺さんとの用事があれば、そちらを優先させてください」
たとえ祝ってもらえなくても、いつも通りの誕生日を迎えるだけだから。
そう思って言ったんだけど、徳永さんはなぜか不機嫌になった。
「祝うったら祝うの! 良一の誕生日は絶対に祝うから、覚悟してね?」
「ただ誕生日を祝ってもらうだけなのに、覚悟が必要なんですか?」
「それは、誕生日になってからのお楽しみ」
そう言っていたずらっ子のような笑みを浮かべる。
一抹の不安を覚えるけど、今年の誕生日は、徳永さんのお陰で一味違う誕生日になりそうだ。
「では、嫌かもしれませんが、徳永さんの誕生日のときは、僕もお祝いさせてください」
「えっ、ほんと⁉ ぜんぜん! ぜんっぜん、嫌じゃないよ! むしろ大歓迎!」
僕に祝ってもらえると知って、ものすごく嬉しそうにはしゃぐ徳永さん。
徳永さんにとって、僕が祝うことにどれだけの価値があるんだか……。
僕の価値なんて、路肩にある石ころ同然だろうに。
◆
それからいくつか質問をされ、それに答えた。
聞かれたのはどれもありきたりなものだった。
『好きな食べ物と嫌いな食べ物は?』
『好きなものと嫌いなものは?』
『趣味は?』
『特技は?』
けど、次の質問は答えづらかった。
質問が、
『好きな人のタイプは?』
だったから。
そもそも恋愛対象として見られない僕が希望のタイプを望んだところで手に入るわけがない。
そう思ってたから、全く考えもしてなかった。
なので、
「ちなみに、徳永さんはどういうタイプが好みなんですか?」
そう聞き返した。
「私? 私はねぇ、告白を傷つけないように断ってくれる人、かな?」
――それって、タイプじゃなくね?
完全に僕のことじゃないですかヤダー。
ここは、気づかないふりをしよう、そうしよう。
「そ、ソウナンデスネー。いやぁ、そんな人が見つかるといいですね!」
「絶対わかってて言ってるよね?」
「さ、さぁ? なんのことだかさっぱりですね。そんなことより、他には聞きたいことないんですか?」
そう訊ねると、徳永さんはムスッとした顔になった。
その後、渋々といった感じで訊ねてきた。
「良一のお母さんって、若く見えるけど、何歳?」




