依存症のお医者さん
注意、本作品はフィクションです。
作品内において医学を扱っていますが、これを鵜呑みにしないで頂けると幸いです。
依存症、誰もが一度は聞いたことがあるであろう。
ギャンブルに依存する者、アルコールに依存する者、人間に依存症をする者。
現代社会において、依存症と呼ばれるものは様々なものが確認されている。
時代は進み近未来、依存症が大きな社会問題となりそれと判断された患者は依存症病棟へ次々と送られていた。
依存症の人間がいれば、依存症を診断をする医者が必要なのは必然の事だ。
白を基調とした、診察室。
部屋には診察に必要な最低限の道具しか置いておらず、よく言えば簡素な診察室と言った所だろうか。
診察室には、白衣はパッチリしているが髪が伸びきりややボサボサの男が次に診察をする患者のデータを読み込んでいる。
彼の名前は加賀先。依存症を専門とする医者で、今日も診察室で患者達と向き合っていたのだ。
「次の方、どうぞ」
加賀先の呼び掛けに、患者と思わしき男性が部屋に入る。
「なるほど、これは対人関係依存から生じるストーカーですね。1ヶ月程になりますが依存症病棟で治療を受けてください」
依存症病棟と言う言葉に、顔が強ばる患者。
退院が決まるまで外部との接触や連絡が一切取れなくなると言われているのだから、顔が強ばるのは当然の事であろう。
「そんなに不安な顔をしないでください、貴方の為ですから。だから安心してください」
患者の肩に手を置き、優しく語りかける加賀先
彼の真摯かつ優しい言葉に安心をしたのか、強ばった顔は普段の顔の落ち着いた顔に戻る。
患者は依存症病棟の職員と共に、病室を後にした。
「次の方どうぞ」
すると今度は、女性の患者が病室に入る。
何でも彼女は、ゲームを長時間止めることが出来ず生活に支障が出ていると加賀先に打ち明ける。
「ゲームを長時間やめられない?これは難しいですね」
「私、重症なのですか?」
「誤解を与えたのなら申し訳ない。
難しいと言ったのは、依存症の原因となった事を取り除く必要があるのと。貴女が何に依存をしているのか再調査をしなくてはいけないと言う事です」
「ゲームをやめられないのですから、ゲーム依存症なのでは?」
「ゲームの依存症と言っても、ゲームをすると言う行動に依存をしているのか?対人関係に依存をしているのか?ゲーム内での買い物やガチャに依存しているのか?
ゲーム内でのコンテンツをクリアする事での、仲間からの称賛に依存をしているのか?
貴女がゲームに依存をしているのではなく、それらの物に依存している可能性があります」
「なるほど」
「なので、貴女が何に依存をしているのか再調査をしなくてはなりません。
依存症病棟への入院は現時点で保留、私と一緒に原因を調査していきましょう」
「先生、ありがとうございます」
「お大事に」
依存症病棟に入院をしなくて済んだ為か、入室前と比べて表情は明るく、ホッとした表情で退出したのであった。
「次の方どうぞ」
「性行為への依存がやめられず、10人以上と付き合っている?性依存ですね」
「次の方」
「それは、仕事依存症です」
「次の方」
「貴方は活字中毒ですね。本の収集癖なのか、文字を読むことに固執しているのか。或いは両方か?これは悩ましい」
その後も彼は訪れた人々を診断し、患者に応じた病名をつけていく。
「貴方は糖質への依存の傾向がある、注意するように。
貴女は、貴方は、貴方は、貴方貴方貴女貴方貴方貴女貴女貴女貴方貴方は依存症です!」
診療時間が過ぎ、最後の患者と依存症病棟の職員を見送った加賀先。
椅子に座りっぱなしで凝り固まった筋肉を伸ばすため、彼は立ち上がり腕を伸ばしストレッチをする。
「ふー、今日も1日フルで働いた。カルテをチェックして論文を纏めたら、2週間ぶりに家に帰ろうか」
机に置いてあるマウスを手に取りパソコンをの電源を落とした時、コンコンと言う軽く乾いた音が診察室に鳴り響く。
もう診療も終わった筈だし、こんな時間に誰だ?
「加賀先先生、失礼します」
「おおー、松岡じゃないか!久しぶりだな。依存症病棟のドクターが、こんな時間に何のようだ。
立ったままで話すのもなんだ。コーヒーでも飲むか?」
「ありがとうございます。では・・・ブラックで」
「ほいさっ」
安物のインスタントコーヒーであったが、仕事を終え疲れた体には安物のコーヒーでも鼻腔をくすぐる。
疲労は最高のスパイスと言う人間も居るが、安物のコーヒーを最高級コーヒーに変えているのだから、あながち間違えではないだろう。
「で、松岡。今日は何のようだ?同窓会の誘いにでも来たのか?て、顔じゃないな」
フラりと現れた同期の顔は、深刻な事態を想像させる。
「先生、貴方も依存症だと分かりました。即刻治療を受けてください」
「私が依存症だと?お前面白いジョークを言う様になったな」
「先生の病名は、病名捏造依存症です」
「何だ、その奇妙な病名は?」
「貴方は依存症でない人を患者に仕立てあげ、依存症病棟に送り込んでいました。
依存症だと診断をする行為に、依存しているのですよ」
「・・・・・・」
「最近、依存症病棟に送られている患者が、明らかに依存症ではない患者が送られてくる。
誰がその様な事をしているのか調べると、貴方でした。
しかもカルテを改竄して、基準に満たない患者を依存症病棟に送り込んでいる。
今度は貴方の番ですよ、加賀先先生。病棟に行きましょうか」
「ふー、改竄までしていたのがバレたら言い逃れのしようがないな。あー失敗したぜ、コンチクショウ!」
自身の行いがばれ少しばかりイラついているのか、ガシガシと頭をかく加賀先。
「そんなに不安な顔をしないでください。貴方の為ですから。依存症病棟に行きましょうか」
「ああ・・・・・・頼む」
予め手筈をしていたのか、依存症病棟の職員二人が加賀先の両肩を掴み、加賀先を連行していく。
診察室から立ち去る、加賀先達を見送った松岡。
この部屋の元の主が出してくれた冷め欠けのコーヒーを、松岡はグイッと飲み干す。
「依存症とは、自身が患っていると言う自覚がありませんからね。まったく厄介なものです。
もしかしたら、私も依存症なのかも知れませんね」
空になったカップに、再びコーヒーを注ぐ。
ブラックコーヒーが空腹の胃袋をより痛め付ける。
「加賀先先生にとっては、少しばかり長い入院にはなりそうですかね」




