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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

深紅

作者: 旭 河埜

 スカーレットは知ってしまったのだ。

 15歳のある夜、夕食後の軽い運動のつもりで広い広い家の中を散歩していた。

 両親の部屋の前を通ったとき、小さな話し声が聞こえ、彼女は耳をすました。聞かなければ良かったと今から後悔してももう遅い。盗み聞きは良くないとわかっていても、好奇心に負けて聞いてしまった!

 スカーレットは目を見開いたまま、しばらくの間身動きがとれなかった。彼女を動けなくしたのは、驚きと生まれて初めて感じる、不安と恐怖。この家に子供は彼女だけ。両親の死後はこの家のすべてが自分の物になると信じ切って、何の不安もなく彼女は日常を過ごしていたのだ。そんなときに聞いてしまった両親の一言に、放心状態から立ち直ったスカーレットは怒りと憎しみに震え、自分の部屋へと駆け戻った。


(あの女、どうしてくれよう!)

 机に向かい爪を噛みながらスカーレットは考えた。

(遺産はすべて私の物になるはずだったのに!あの女がすべて奪っていってしまった!)

彼女の怒りは両親と、自分が小さい頃から世話をしてくれた年の近い侍女のハリエットに向けられている。両親の会話は、自分たちの遺産はすべて侍女のハリエットに相続させるという話だった。しかもハリエットは両親の娘、つまりスカーレットの姉だというのだ。

 スカーレットはハリエットが嫌いだった。彼女の名前も、彼女自身も、何より自分によく似たその顔が!どれだけわがままを言っても何も言わずに従う彼女が気持ち悪かった。まして自分が引き継ぐはずだった遺産を奪ってしまうとなれば、もう憎まずにはいられない。

(どうすればいい。)

スカーレットはその後一日中考えた。食事以外は部屋を出ず、着替えなどの手伝いにやってくるハリエットにいつもよりも強い軽蔑の目を向けながら、必死で考えた。遺産を自分が受け継ぐにはどうすればいい?

(そうだ。)

 そして不意に考えついた。ハリエットを消せばいい。

 殺してしまえばいいのだ。


 次の日の朝。屋根を突き破りそうな雨の中、スカーレットはハリエットを部屋に呼び出した。

「ねえハリエット。」

化粧台の鏡の方を向いたまま、スカーレットは切り出した。

「何でしょうかお嬢様。」

「私ね、遺産を引き継げないの。」

「えっ!?なぜですか?」

「わからない?あんたのせいよ!」

突然叫んだ主人にハリエットは戸惑う。

「?・・・すみません、心当りがありませんが・・・。」

「父様と母様が言ってたのよ!あんたが本当は私の姉さんで、この家の長子だから遺産をあんたに受け継がせるんだって。私の物になるはずだったのに、あんたがとっていったのよ!」

「私が・・・お嬢様の姉?」

スカーレットは化粧台からあらかじめ用意していた燭台を握り振りかざした。

「お嬢様何を!?」

「あんたがいなくなれば、この家は私の物よ!」

鈍い音を立てて、燭台がハリエットの頭に振り下ろされ、彼女は頭から血を流して倒れた。スカーレットは侍女をなおも殴り続けた。

「あんたさえ・・・いなければ・・・私が・・・この家を!」


 熱が冷めたスカーレットは完全に息絶えた侍女の死体を隠そうと、死体を返り血を浴びたドレスと共に、いらなくなったトランクに入れて次の日海に捨てた。そして血の飛び散った絨毯を密かに掃除業者を呼んで血を拭き取り、凶器となった燭台後も拭い去った。

(これで完璧だわ。誰も私が殺したとは思わない。遺産は私の物よ!)


 それから約一年。その間スカーレットの罪は誰にもばれず、家の遺産は彼女の物ということで契約書にサインがされた。

 両親と共にスカーレットは海外のテーマパークに遊びに行った。一人で乗ったアトラクションの向かいの席には美しいバラの装飾が施された仮面をつけた奇妙な女性が座った。

「ライドが出発いたします。」

係員の声に続いて、ライドが出発した。そのとき、おもむろに向かいの女性が仮面を外し、微笑んだ。

「お久しぶりです、お嬢様。海の中はなかなか冷たかったです。風邪を引くかと思いました。」

その女性の髪には海藻がつき、よく見ると皮膚も所々水を吸って膨張しているように見える。荷物は一年前にスカーレットが捨てたトランクで、女性の着ている服は返り血のついたドレスだった。

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