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97 新たな絶望




『創生の魔術書』のあらゆる情報が脳内に流れ込み、同時にとてつもない虚無感がずしりと背中にのしかかる。


『ん゛あ゛……』


やがてそれは蒼い焔に焼かれ、塵になり、ライムの足元にパラパラと散ったからと思えば消えて無くなった。


「立てるか……?」


『…………』


国王陛下自ら手を差し出してくれたが、ガタガタと震えて動けない。下を向いたまま、ライムは振り絞って声を出す。


『あり、がとうございます』


見かねた彼はライムの肩を持ち上げ、そっと立たせてくれた。細身の見た目からは予想外にがっちりとした肉体だ。


「魔術書を実際に解放して見せたのを、その前で見るのは初めてだな」


(…………?)


そこでふと違和感が襲う。

今までになかった感覚だったからだ。


(絶望の効果はすぐ出るとは限らない。けれど、今すぐ出る可能性もあるーー)


ーーーー

新たな絶望が付与されています。

解析しますか?

ーーーー


(お願い……)


「大丈夫か………。ずいぶん辛そうだ。私に寄りかかるといい。少し休め。ベッドへ連れて行く」


ぼやっとする頭に『叡智魔法』が語りかけてくるが、ルドルフの言葉と重なり、上手く拾えない。


苦い思いもつかの間。

今度は猛烈な空腹感と眠気に襲われる。

(もしかして、絶望の効果が発動しているっていうの?)


だとしたら、すぐにこの白い魔術書に吸い取ってもらわないといけない。

絶望なんて早く、なくなればいい……!


『………っ』


「しっかりしろ。さっきの魔術書は使えないのか?」


今すぐに、と答えるつもりだった。

が、口から出たのはそれと真逆の答えだった。


『まだ使いたく、ない、、、?』


自身の発言に驚き、ルドルフはそれを奇妙な顔で見ている。

しかし、魔術書の影響だと思ったのか気にせずにライムの腰に手を回し、軽々と抱えてみせた。

そのままベッドへ運び、休ませるつもりだろう。


『……すみま…せん』


「気にするな。私もこうやって疲れ果てて眠ったピアノを抱えることもあった。今はとにかく休め」


優しく語りかけてくるルドルフの口調と、ライムを抱えている両手、胸板、鼓動になんとも言えない高揚感が充満する。


(すぐにでも白い魔術書を使って、絶望を吸い取るべきなのに……)


それをしたくないと思った。


(頭痛が酷いせい?)


自分が正常な判断ができているとも思えない。

ただ、この高揚感を手放したくないという感情が無意識にライムを支配していたのだ。


次の瞬間ーー。


何を思ったのか、ルドルフの胸元に顔を埋め、背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめたーー。


「怖かったな。大丈夫だ」


抱きしめられたルドルフはライムの気持ちに寄り添うように、声をかけるとそっとライムをベッドへ降ろす。


ーーーー

解析完了。

『食欲・睡眠欲・性欲以外の欲求の欠如、及びこれら三大欲求が誇張する絶望』が付与されています。

自身の欲のうち、これら三大欲求が全てを占めます。

ーーーー


(そっか、この高揚感は性欲……。そして、魔術書を使いたくないのもその欲求が勝っているから……)


おぼろげな頭でなんとか思考するが、すでに限界が近い感覚だ。


(あぁ、だめ、今度は眠気が……)


まどろみの中で、眠りにつこうと目を閉じると、別の絶望が蔓延る。


それは『死の恐怖』。


瞼を閉じるものの、穴という穴から冷や汗が止まらない。怖い。眠い。怠い。痛い。辛い。怖い。眠い。怖い怖い怖いっ……!!


『…………っ!!!』


ジタバタと四肢を放り投げ、悶絶し、恐怖し、自分が自分でなくなるような絶望感が共存し、呻き、あがらい、苦悩する。


最悪はそれからだった。


ルドルフが驚愕の眼をしている。

ライムにではない。

後ろへ向かってだ。


……すぐにわかった。


こんな王宮に侵入し、国王の後ろへ気配もなく近づけるなんてヤツしかいない。


(こんな……時に!!)


眠りたい。食べたい。抱きつきたい。

怖い。痛い。辛い。


そんな感情を差し置いて、私は、すぐに、戦わなくちゃいけない……!


『私、が……』


苦痛の中、鋭い眼光を向けてわずかに顔を上げる。

すると、予想外の魔力がして、目を見開く。



おかしい。

……ドーマではない?

ラクリマでも……ないわ。

彼は誰……?

いや、彼らは。



時間はそんなに経っていないのに、ずいぶんと懐かしい声がした。





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