95 精製
王室の奥の扉を開けると、ひとつだけ起動していない魔法陣があった。
回路を見るに移動用の魔法陣らしい。
王宮にはこういった特殊な移動用魔法陣がいくつもある。
ルドルフは手で側近を制すると、ライムに部屋へ入るように切れ長の鋭い目で促す。
「ここは私が許可した人物しか入ることができないーー」
『自分はいいのですか?』
「愚問だな。国の命運が君の手にかかっているのだ』
険しい顔をした彼は軽々と重厚な扉を閉じる。
すると一瞬暗くなった室内が、瞬く間に魔法陣の光に溢れた。
眩しさもつかの間。
私たちは先程の景色とはうって変わって、広々とした空間に転移していた。
『なんて、大きい……』
思わず声が漏れる。
「ここで好きなだけ作るといい。本来なら関係者しか立ち入れないんだが、何せ緊急事態だ」
何を?という質問は不要だ。
目の前には広大が魔法陣が広がっており、形からすぐに理解したからだ。
通常の魔法陣が両手を広げたくらいあるとして、10倍はくだらないだろう。
それを歴史を感じさせる豪華な壁と低い天井が取り囲んでいた。
一つの巨大な魔法陣を中心に、周りを囲むように小さな魔法陣が連なっている。
一目見てわかった。
これは……
『オートマターを作るための魔力回路ーー』
「正解だ。初見でわかるなんて君くらいだよ。……正確には魔法硝子もここで作られているが」
国王ルドルフは薄らと笑みをこぼして、ライムを見つめる。
蒼白く光を放つ記号と文字……『オートマター』に描かれているものと似ている。
そして、中心にある魔法陣が魔法効果を紙に移しとる役目をしているのも把握した。
これがあればいくつもの『オートマター』を作ることが可能だろう。
(でもいったいどこから、魔力が……?)
『まさかーー』
「君が考えているものとは違うな」
『……?』
私の考える最悪な回答ではないらしい。
(もしかしたら、魔力量の多い幼い子たちから集めているかとも考えたけどーー)
自身の服の裾を掴みじっと国王を答えを待つ。
「魔力はもともと『創生の魔術書』から得ていたのだ。特に重要なオートマターや必要性の高い魔法硝子は、膨大な魔力を消費するから、元となる動力源もそれなりのものが必要だった」
得ていたーーということは、ラクリマから奪われるまでは『創生の魔術書』を使っていたということ。
(待って、そうしたらもう作れないじゃない?)
『得ていた……?じゃあ、今は』
「今は、ない」
『魔力の供給がないのですか……?!』
「ああ、でもーー」
国王は薄らとした笑みを崩さないまま、
「君なら、心配ないだろう?」
はっと息を呑んだ。
確かに代償の要らない私の無尽蔵といえる魔力があれば、オートマターの生成は容易だろう。
そこでふと、疑問が残る。
『私の魔力で代替できるとわかるのも未来予知ですか?それともーー全知王色のアビリティでしょうか?』
国王様は全てをお見通しになる。
そのアビリティはどのくらい精度の高いものなのだろう。
場合によっては知られたくない私のステータスも丸見えということになるけれど……。
「………ほう。君に全知王色のアビリティについて話したことはあったかな?」
『あ……い、いえ、アレスさんが話してくれたので』
「ふむ、アレスが他人に詳細を教えることはないと思うが……?」
『え、えとーー憶測です!……私も自身のことをあまり知られたくないもので』
(ああ!『叡智魔法』を取得していることをご存知ない?あれ、でも『全知王色』があれば全てのステータスをお見通しだし……)
手をあせあせと動かしていると、
「まぁ、いい。それより私は創生の魔術書を動力源としている事実に驚いて欲しかったんだがな」
『…………』
国王はふふっと小さく口角を上げると、何も気にしていないような素振りを見せた。
(もしかしてちょっとだけ、からかわれたのかしら?)
むっと顔をしかめるが、ルドルフは構わず魔法陣の中に足を進める。
「作ってみるか?……君に今から必要になる魔法を形にするんだ。紙や硝子でなくていい。君なら思うような形にできるだろう」
ごくりと喉を鳴らす。
(私に必要なものーー)
これからのラクリマとの戦いではきっと、精神的にも肉体的にもダメージを負うと思う。
それはラクリマの用意周到さから考えればすぐわかることだ。
いくら私が強い魔法を使えても、行使できなければ意味がない。
吐瀉物で魔法を唱えられないことがあったし、深淵に呑まれそうになる場面も幾度とあった。
加えて魔術書による絶望の付与。
強固な精神は、強大な魔法行使に必要不可欠だし、黒き魔法でどんな痛みを伴うかわからない。
そうしてしばらく考えた後、ライムは魔法陣の中央に立つと頭の中で魔力回路を構築し、魔法の全体像をイメージする。
出来上がった魔法を形にしていくーー。
……私に必要な魔法の形はーー




