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89 黒い点






室内に籠ったような雨の音が轟く。

床から伝わるその煩さを肌で感じながら、自分の口元を『浄化魔法』で拭う。


ラクリマが去った窓を見上げたままゆっくりと立ち上がると、廊下へ続く扉からすでに白服の科学者たちが集まって来ていた。


『……!!』

「お前だな、黒い雨の元凶は……!!」

「もしかしてあれって」

「総裁っ!アーノルド・ミサ様か!」


驚くライムを焦燥感に満ちた科学者たちは非難する。彼らの視線の先にはすでに亡骸になってしまったアーノルド・ミサの姿があった。


「お前が……やったのか!!」

『違う。あなたたちは間違ってるーー』

「総裁から全て聞いている。いくら子どものなりをしているからと言って容赦はしない」

「こいつを殺れ!そうすれば、総裁の無念もこの黒い雨も止むはずだ!」


(そんな……っ)

私の言葉など届くはずもなく。

アーノルド・ミサの息子になりすましたラクリマは、父親の権限を使って私を犯人に仕立て上げているのだ。


彼らはオートマターかと思われる特別製の紙を構え魔力を込めると、次々に魔法を仕掛けて来た!


「ぐっ、全く効いていないのか……?」


もちろん、『防御魔法』を纏った私にはつゆひとつのダメージも効かない。

だけれども、こうやって囲まれていては何も行動できないし、


『早く止ませないと……!』


学園入学試験の際に降った黒い雨。

それと同じだとするならば……。


「報告があります!黒い雨による被害多数!魔法陣の消失を確認。さらに、人体に悪影響ありとの報告!」

「なんだって……!!」


彼らは言葉を失う。

やっぱり黒い雨はミザリの研究の一部じゃなかったんだ。

化学魔法研究の一部だと考えられていたけれど、彼らの言動からしてそうではないらしい。


どうしたら、黒い雨を止ませられる?

みんなを助けなきゃ……。

私の受ける絶望なんて、、大したことじゃない。

そう言い聞かせる。


……アレスさん!リエード先生!みんなは?!

シオンやジュエルたちは無事なのだろうか?


こうしてはいられない。

止まらない科学者からの魔法攻撃はライムの視界を奪う。ここの科学者たちだけでも動きを制御しないと、と思った矢先。


「黒魔法展開!『束縛魔法』」

『えっ!!』


なんと彼らが新たに手にしているのは、黒いオートマター。


ーーーー

化学魔法で得た魔力を『オートマター』と呼ばれる紙に含め、魔法を展開しています。

通常の魔法より強力なため、代償が必要。

『束縛魔法』を展開した人物を特定。

……代償:左手の運動機能。

ーーーー


その人は左手をぶら下げ、もう片方の生きている手でオートマターを発動する。


(左手はもう……)

すると、シオンや私が使った魔法と同じように鉄の鎖が手にしたオートマターから弾け、私にきつく巻きつこうとする。


それを私も同じ黒魔法で制御。

黒魔法は黒魔法でしか対応できない。

両者に代償がつく、強力な魔法。


私だって寿命が尽きるまであと何度使えるかわからない……。


『何度だって言うわ!私を倒したって黒い雨は止まないの!!』

「嘘だ!!それ以外にどんな方法がある?!」

『それを探したいの!!』

「総裁を殺したお前を信用なんかできるはずがない!!殺せ!追い詰めろ!!いつかは魔力切れをするはずだ」


彼らは必死だ。

叫び、声を枯らして、代償を払って私を追い詰めようとする。

そして、さらにーー


私の背後から束縛したはずの黒い影が再び姿を現していた。

(何度も何度もーー!)


この場を収めることはできない。

そう察知したライムは、彼と同じように窓の淵に足を踏み出す。


『身体強化』を纏い軽く力を入れてタンッと弾ませると、私は黒い雨の降る空へ駆けた。

「待てーー!」


身体が外の空気と雨に触れた瞬間ーー。



バチバチバチッーー!!



私の『魔法防御』と黒い雨が相殺する金属の擦れるような音が響く。

轟音の中、


「私たちは、お前を必ず、殺すーー!!」


悲痛な科学者の声の掠れる程の叫びが、ライムの後を追ったのだった。


『私は必ず!!この世界を救う!!!』


聞こえたかはわからない。

聞こえなくてもいい。

私はただ闇雲に、暗闇の中を叫んだ。





ーーーー




空中を跳ぶのはあまり効率的ではないらしい。

黒い雨に触れるたびに大きく魔力を消費しているのがわかる。

肩を動かして荒く呼吸をする。


……両手の侵食もだいぶ進んでいるようだ。

感覚からして、もう腕のところまできているだろう。

きっと黒く灰になっているはずだ。


闊歩する上空から陸地に着地することを決めて、ミザリの街を見下ろした。

見下ろしてしまったーー。




初めは細かい黒い点だった。




……黒い点が無数にある。


心当たりはあったが、頭のどこかで考えないようにしていたのだと思う。


地上へ近づく程、その姿ははっきりしてくる。


黒い点。


点。点。点。



それはーー人の、形をしている。



無数に、数え切れないほどに、地上に散らばった点は、ミザリの人々だーー。






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