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82 少年




『いひヒひあはハハ!!!』

『いま!助けてあげるから、頑張って!!』


目の前の15歳に満たない少女が大きく口を開けて、痛いほどの叫びを浴びせてくる。

ーー何度目だろう。

ライムが化学魔法に侵されている少女と出会うたびに、眠っていた少女はライムに触発されて変質するのだ。


『おいデおイデ早くおいでぇエエ!!』

『魔力吸収!』


的確に胸の中に充満する黒き魔法を引き取ってあげる。

すると、少女はライムの腕の中に倒れ込みゆっくりと眠りにつくのだった。

受け止めたはいいものの、ぐらっと後ろへよろめいてしまう。

(さすがにちょうとシンドくなってきたわ……でもこの女の子はもう大丈夫)


丸一日街を駆け巡って手当たり次第子どもたちを助けてきたライムだったが、その精神と身体はボロボロだ。

なにせ、魔力を体内に溜め込んでいるのだからーー。

(この魔力をどこかで発散させなきゃいけないわね。辺りの魔力反応もなくなってきたし、次で最後……)


『あと1人は……南の方から反応があるからちょうど屋根を伝っていけるわね。……ゆっくりおやすみ。辛かったねーー』


そう言って少女を優しくベッドに寝かせてあげると、硬く閉ざされていた窓を魔法でゆるりと開け淵に足をかける。

ぐっと力を込めながら『飛躍魔法』を自身にかけると鮮やかな夕刻を跳んだ。


目立たないように『存在錯乱』をしているため、彼女の姿は夕陽によってさらに薄くなる。

ゴツゴツしたパイプの金属音を鳴らしながら、素早く駆けて反応がある建物まで近づく。


冷たい壁を背にしてそっと中の様子を伺うと、少年が三角座りをして本を読んでいたところだった。

(間違いないわ、保持している魔力がどの子よりも多い。黒き魔法も展開されているーー)


息を殺していると、少年はこちらに気付いたのか突然ぎょろりとこちらに顔を向けた!


(ひえっ!)


『誰?』


(『存在錯乱』してるのになんでわかったの?!)


ドキドキしているライムを他所に、少年は答え待たずに口を開く。


『この反応……候補者かな?いや、でもあの人だったら完璧な存在希釈をするはずだし……ねぇ、いるんでしょ?お話しようよ』


少年に促されてたライムは戸惑う。

候補者?……私を知っている?

わからない時はーー『叡智魔法』!


ーーーー

神候補の1人。アーノルド・ジョセフ。

それ以上は秘匿情報のため開示できません。

ーーーー


『神候補……?』

『わ、やっぱり!君も候補者だったんだね!』


声が聞こえると読んでいた本を投げ捨て、いきなり窓を開けてライムの手を取る少年、アーノルド。


アーノルドの赴くまま手を引かれ、室内へと促されるとそこにはいくつもの本と魔法道具、オートマターが乱雑に積み重なっていた。


『候補者と会ったのは初めてだ!本ばかりの生活に飽き飽きしてたところだからさ、嬉しいな!』

『え、ちょっとまってアーノルド。あなたは神候補と言ったわね……?』

『うん!……あれ、僕お姉さんに名前教えたっけ?』


無邪気にはしゃぐ彼は私とそう歳も変わらない。青い髪、深い藍色の瞳。

(この子何か知っているのかも……。今まで治してきた子たちとなんというか雰囲気が違うーー。魔力量も桁違い)


『私あんまり……神候補?についてわからなくて、教えてくれる?』

『もちろん!僕もね、最近読んだ本に書いてあったから知ったんだけど……お姉さんにも貸してあげる』


そう言って、彼は奥の戸棚から分厚い本を引っ張り出す。


『これにはね!いろんなことが書いてあって、面白いんだよ!嘘みたいなことでも、本当に思えてくるーー』


少年が抱えて持ってきた重たい本。

真っ黒な表紙は蒼白くほのかに光る。


『え、ちょっと待ってーーそれを、、どこから……?』


それはーー。


『これはね、お父さんに貸してもらったんだ!』


学園に保管されているはずの最後の一冊。

『創生の魔術書 第5巻 ラクリマの伝記』と記されていた。



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