81 暗躍
宿屋を離れ、ミザリの中央に近づいていくと景色はどんどん変わっていった。
真四角の重々しい建物は複雑な建築物になり、化学魔法の影響かと思われる蒼白い蒸気が上空を満たしている。
筒のように長い管から蒸気が舞い、街のあちこちでは『マキア』が光り、繁華街と呼ばれる大きな道には大勢の人々が賑わっていた。
「す、凄い人の数と建物ですね……」
「ミザリはこの国で一番魔法が発展していル。特に化学魔法が大きく飛躍を遂げていて、技術の進歩が著しいんダ」
あまりの人の多さに圧倒され目を丸くしたライムに、ミザリに住んでいたことがあるというリエードが律儀に解説をする。その姿はなんだか生き生きしているように見えた。
「授業で習った通り化学魔法は最近になって発案された魔法の一つダ。人に秘められた魔力の代替品とも言われていル。簡単に言うと魔力回路を構築する魔法だナ。様々な応用ができるから『マキア』なんかも学園で取り入れているヨ」
言われて『魔力感知』をしてみると周りのほとんどに化学魔法が使われているのがわかる。
管がたくさんあって何かを作っているだろう建物には部屋中に魔力が充満しているし、露店にもひとつひとつ魔力が込められている。
『ま、魔力酔いしそうだわ……』
「ははは、魔力をそこまで感じるのはライムだけだろウ」
(魔力の多さもそうだけど、よくわからない気持ち悪さが凄いわ……)
なぜだろうと思案すると、そうだわ……化学魔法はーー。
『叡智魔法』を発動し、カチリという合図で頭の中に声が響いてきた。
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化学魔法の根源は、15歳以下の子どもから搾取した魔力によって作られています。
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『ーーっ!』
「どうしタ?顔が青いぞ。魔力にやられたカ?」
フラッとよろめくとすかさずリエード先生が肩を掴んで助けてくれる。
(あぁ……。それもこれもーー全部、子どもたちから奪ったものなのね)
改めて間近に感じる現実。
ミザリのこの素晴らしい魔法と発展は全て、子どもたちの魔力で出来ている。
気付いてみれば、子どもがほとんどいないではないか。ミザリノースよりも影響が少ないとはいえ、建物内の至るところで『魔力感知』に引っかかる黒き魔法の魔力が感じられた。
(苦しんでいる子どもたちがいるーー)
ライムの顔はさらに血の気が引き、それを心配そうに大人2人は見ていたが、何も声をかけることはできなかった。
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『ちょっぴり出かけてくるわ』
意気揚々と発言したのはライムだ。
繁華街より少し離れた路地裏で3人は話し合っていた。
アレスは壁にもたれながら、やっぱり……という苦渋に満ちた顔をする。
「ええ……わかっていましたよ。何も言いませんとも」
『アレスさん?なんだか皮肉のように聞こえるのだけれど』
(助けに行くなんてまだ何も言ってないわ。なんで不服そうな顔するのかしら)
助けてあげられる子をそのまま放っておくなんてもちろんできない。かと言って、正直にアレスさんたちに心配をかけるなんて絶対しない。
だからこれも半分嘘なのだ。
というか出かけることに嘘はついていないわ。
『夕刻までには戻ってくる。えと、その間ーー』
「フヒヒ、私たちはミザリの内部へスムーズに入り込めるように情報収集しておきますよ」
「任せておけ」
なんて頼もしいのだろう!
本当に心強いわ。
『わかったわ!お願いね』
ミザリの実験の詳細の把握と、黒い雨を止めるために着実に動いていかなければならない。それと、最後の『創生の魔術書』もーー。
国王に動きがなければ、彼が所持しているはず。でも学園の卒業を条件に魔術書をくれるっていう約束だったから、どちらにせよ会いに行かなければならないだろう。
バタバタして出てきちゃったからね。
そうして、私たちは2つに分かれて各々行動することになった。
魔法の使い方もだいぶ身についてきて、どの程度の魔法だと身体に負担がかからないかとか、人目につかないための魔法だとか、私も程度っていうのを学んだわ。
存在自体も薄めるんじゃなくて、見え辛くすればいいのよ!
『えと……『存在錯乱』、『身体強化』、『防御結界』、それと何かあった時のためにすぐ逃げ込める世界でも作っておこうかしら?』
「……ライム、またとんでもないことしてるナ。本当に自覚あるんだよナ?」
「ヒヒヒ、本人はあるつもりでしょうが、まぁ慎重に行ってくれるみたいなのでよしとしましょう」
パタパタと最上級の魔法を駆使するその姿に2人は呆れている様子だったが、ライムは気にも留めていないようだった。
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ーー影が追ってきていた。
(誰かが搾取体の黒き魔法を吸収している?
収奪魔力がここ最近減ってきているな。
使いに出したパトロフもアリスも一向に連絡がない。
何故……?
もしかしてーーあの子か?)
長い黒髪の男はどんよりした藍色の瞳を輝かせ、にやりと口角を上げた。




