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76 声




『あはハハはハ!!!神の子、殺シの子見つケた見ツけた!!』


大きく開けられた少女の口からは、絶叫とも言える酷くおぞましい声が発せられる。

ガチャガチャと鎖を鳴らすと少女の瞳はぐぐっと上を向き、白目があらわになる。


「なんで……っ!」


半歩後退りしたライムは目を見開き、その少女の姿に驚愕した。


これはあの時の声と一緒だ!

旧魔法化学室に積み上げられていた本。

そして、ライラさんが扱っていた本。

どちらも黒い魔力を帯び、私を呼んだ。


『みつけた』と。


恐怖に駆られ冷や汗を流しながら、素早く辺りに『防御魔法』を張る。

そして、『鑑定魔法』で魔力を探ると同時に『叡智魔法』に問う。


(この少女に取り憑いているものの正体は?!)


ライムの魔力回路が頭の中で歯車のようにかみ合うと、すぐに声が響いた。


ーーー

対象に高濃度の黒き魔法を感知。正体不明。

『神を殺す者』が接近したことで、内在する魔力に特殊反応が見られます。

……遠隔魔法陣の発動を確認。


備考:追尾には知的好奇心度が不足しています。

ーーー


(誰かが……私の存在を知っている?)

『鑑定魔法』の方も結果がすぐに出た。


『……魔力がどんどん濃くなってるわ!このままだと……っ!』

『あハはハハ!!早くおいでェぇ!?』


全身に『防御魔法』を施したライムは少女の身体にのしかかり、口を封じ、物理的に押さえ込む。

発狂する少女は腕を思い切り振り、さらに鎖を引きちぎろうとする。


元の原因が魔力の暴走と、私が接触したことによる魔法陣の変化なら、魔力そのものを引き取って仕舞えばいい。

掲げた右手を少女に向け、


『魔力吸収ーー』


そう唱えようとした時、宿の主人がドカンと扉を蹴り部屋へ入ってきた!


「何をしているんだ?!」

『来ちゃだめ!!』


精一杯叫んだが、目の前の娘の姿を見た店主など止めることはできない。

はずだった。


部屋にも『防御魔法』がかけられている。


見えない壁と愛娘が少女に馬乗りにされている事実に店主は驚いた顔をし、ひたすらに少女の名を呼んだ。


「クレア!大丈夫かクレア!お前はいったい何をしている!クレアを離すんだ!!」

『大丈夫ーーもう終わるわ』

「クレア……?」


手袋を外した黒い右手で、クレアと呼ばれた少女の魔力を吸い取る。すると、すーっと覇気がなくなって瞳に生気が戻り、千切れそうなくらいに力が入っていた腕が静かに沈んだ。


『はぁっ……』


安堵のため息とともにベッドを降りると、店主は一目散に少女の元へ駆け寄る。


「クレア、クレア……」

「おとうさん」

「あぁ……クレア」


ずいぶん魔力が強い子だったから、魔法化学の影響も受けやすかったんだろう。

『叡智魔法』でもっと知識を得ないといけない。

事が起こってからでは遅いんだということ、今ライムは改めて思った。


間に合って良かった。

(あのまま影響を受け続けていたら、魂が耐えきれなくてレイラのようになっていたかもしれないわ)

そう思うと背筋がぞわっとした。


「あんたが助けてくれたのか?」

「うん。過剰な魔力をとったから、もう影響を受けることはないと思うわ、安心して」


話しながら、自分の黒く塗られた手が見られないように手袋をする。

(なんだか胸やけがするわーー)


「なんて、お礼を言ったらいいか……。クレアはずっと寝たきりだったんだ。時折、大きな声を出したり、暴れたりして手のつけられないこともあったが、ずっと可愛い娘でな。奇妙に笑うようになったら末期だと巷で言われていたから、もうダメかと思ったんだ……さっきは誤解して悪かった」


泣きそうな店主は深く頭を下げてライムに謝罪する。一方ライムの態度は素っ気ない。


「気にしてないわ。それより、今は娘さんとの時間でしょ」

「あ、あぁ。恩にきる。すごいな君は……名のある魔術師なんだろう……?」

「……」


気にも留めないようなライムに店主は違和感を覚えつつも、目の前にいる娘を抱き寄せる。

尊敬の眼差しにこそばゆさを感じながらライムはそっと部屋の扉を閉じる。



次の瞬間、ライムは足から崩れ落ち片膝になる。

今にも溢れ出しそうなものを塞き止めるように、両手を首元に押し付けた。


『うぅっ、あ“ぁっ』


襲ってくるのは今まで我慢していた吐き気だった。

『治療魔法』を使いたい、が……吐き気のせいで声が出ない。


(さっき魔力を吸い取ったせい……?

うっ……気持ち悪い。)


フラフラとした足取りで自分たちの部屋の前に立つ。

また吐き気。

ゆっくりと扉を開ける。


いや……?扉が開いた。





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