74 魔法化学の影響
「ライム殿はまた1人で納得されているようですねぇ」
『あ、いや、あとでちゃんと説明しますから!』
取り繕うようにあせあせと手を振るライム。
またですかとアレスさんの目線は冷たい。
うぅ……また1人で突っ走っていると思われたかしら。
今は怪しまれちゃうといけないから、『叡智魔法』のことは部屋に入ってから伝えるとしよう。
1人ずつ『マキア』に触れると魔力の一部が吸収されているような感覚があった。
魔力も改竄したし、身分がバレることはないだろう。
「おい、終わったら金だ。先払いだぞ。1部屋分で150ダルだ」
「なんだっテ?俺は3人で3部屋分頼んだはずだガ?」
「子どもがいるなら保護者同伴が規則だ。知らねぇのか?ミザリノースは魔法化学の影響を受けやすいし賊も多い。子どもは大切にしねぇと」
魔法化学の影響?
賊?
そんなに物騒なとこなの!?
やっぱりミザリってよくない研究をしているんだわ!
「……ふむ。この辺りは治安が悪いようですね。リエード先生?仕方がないようですねぇ」
ウッと痛い顔をするリエードをよそ目に仕方がないと割り切るアレス。
何か焦ることでもあるのかしら。
リエード先生はこちらを見て何か言いたげにしている。
一部屋借りられるだけでも十分だわ。
まぁ、1人の方が気が楽だけどさ。
それより……
(魔法化学の影響って?)
カチリ。
魔力回路の組み合わされる音にもだいぶ慣れてきた。
ーーー
ミザリ中央部で大規模な実験が行われており、その余波が周辺地域まで及んでいます。特に夜になるとその傾向が顕著のようです。
主に15歳以下の子どもに現れ、目眩、人格崩壊、頭痛などの症状が見られます。
ーーー
(ひぃ。私は15歳だから危険ってわけね。子ども……なんだよね?近くに賊が現れるっているのは?)
ーーー
15歳以下の子どもは魔力を蓄えやすく、非公式の研究機関に利用されることが多いようです。そのため広い地域で誘拐が多発しています。
ーーー
(……!怖。じゃあもしかしたら、私が研究対象になったのも子どもだからっていうのが大きかったのね。その研究っていうのはいったいーー)
疑問を『叡智魔法』に聞こうと思ったその時、隣で大きな声がした。
「やめダ!宿に泊まるのは辞めて、野宿でもしよう!」
『え、ちょっ、リエード先生?』
「フヒヒ、今更何を言っているのでしょうか?」
焦った様子で慌てふためくリエード。
いったい何事だろう。
よく見ると顔も赤いような?
「こいつと一緒の部屋なんて耐えられなイ!」
あら、リエード先生ってアレスさんと仲悪かったの?!知らなかったわ。入れてみれば、目もあまり合わせようとはしていなかったわね。
私がいるばっかりにごめんなさいっと言おうとしたが、よく見ると……。
指をさしているのは私の方じゃないの!
『へ?』
「お、おお俺はお前といると心拍数が上がり平常心を保てないようなんダ。お前の強い魔力の影響かもしれん。しばらく原因がつかめるまで別の部屋が良イ」
「ヒヒヒ……そう言われましてもねぇ」
早口で主張するリエード先生の意見は潔く却下。
結局私たちは同室での宿泊になった。
もし私のせいだったら、なんとかしないといけないのだけれど……。
まだ『叡智魔法』のことは話せていないし。
なんだか申し訳ない。
「ここがあんたらの部屋だ。何度も言うが、子どもちゃんはしっかり見張っておくことだ。何があってもおかしくねぇ」
「ええ、ありがとうございます」
「……俺の娘も頭がイカれちまってな。すぐに応急処置できれば良かったんだが、丁度来客の対応をしてて……いや、この話はいい。早く寝ろ」
バタン!と力強く部屋のドアが開く。
部屋を案内してくれた店主はお礼を言ったアレスさんにも目も合わせないで、足早に立ち去って行った。
娘さんも……被害者だったのね。
もし娘さんがいて、助けられるのであれば助けたい。あとでこっそり探してみようかしら。
「ヒッヒヒ……無闇やたらに人のプライベートに関わるものではありませんよ」
『わっ、なんで、心の声が読めたの?!』
わぁああ、心の声が筒抜けだわ!
アレスさんの勘の良さはどこからくるものなの?
「それより、良いのですか?」
『ん、何がですか?』
アレスさんとリエード先生に引き続き、部屋のドアを押しながら入室する。
思ったり広めだし、壁や床の素材は硬質で丈夫そう。設備もしっかりしてそうだし、悪くないと思うのだけれど。
「ベットは一つですね」
『あ、そうですね、ん?あ、、、』
大きなベットが一つ。
部屋の中央に置かれている。
「私は床で寝るのは耐えられませんよ?フヒヒヒ……ここは仲良く一緒に寝ましょうか?」




