71 世界の知識
「このやろぉおおおおお!!!」
雄叫びをあげるパトロフ。
その声は次第に小さくなっていき、ライムの『束縛魔法』によって全身が魔力の鎖で締め付けられる。
アリスの方もメキメキと音を立ててすぐに鎖が交差していき、身体は身動き一つ取れなくなる。
「…………っ!!」
『私の勝ちよ』
「はははっ……」
縛られながらアリスは引き攣った笑いを浮かべ、
「あーあーやられたよ、神様。ははは、神様は強いねぇ。……あのさぁ最後にひとつだけ、聞いてくれる?」
彼から魔力の発動は感じられなかったから、
『一言だけ』
と私は許可した。
「この世界は神を欲している。僕たちのような、ね」
『?』
「神様がいない世界はいずれ滅びる。ミザリはね、神を作ろうしているんだ」
神を作る。
どういうことだろう?
『あなたも神様だって言いたいの……?何を言ってるのか、さっぱりだわ……』
「神様なら、すぐわかるでしょ」
『…………』
アリスの話をもっと聞くべきかとも思ったが、私には時間がない。
鎖はアリスの全てを包み込んだ。
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『はぁっ、ピアノ、アレスさん、リエード先生……っ!!』
自分でも気がつかないうちに息が上がっていたらしい。
『はぁっはぁ……『完全回復魔法』!』
弧を描いて部屋に魔力を散乱させる。
ぱぁあっと光の粒が飛ぶ。
これでみんなは元どおり。
時期に目も覚めるだろう。
本当に、良かった。危なかった……。
汗びっしょりだし、眠気もすごい。
慣れないことをしたからだろうか。
むかむかするような嫌な感じは落ち着いてきたけれど、まだ胸焼けがする。
『はぁ、えーと、この人達は……』
アリスとパトロフ。
黒い鎖にがんじがらめにして口も封じておいた。今の状態じゃ魔法も使えないし、話すことだってできない。強力な『束縛魔法』だ。シオンさまさまね。
『このまま放っておくのも危険な気がするわね』
そう思って、『世界の創生』を行う。
トードリッヒさんたちがいる世界とはまた別の世界。何もない無の世界を作ることにした。
魔力の粒が塊になって、背丈より高い大きなゲートになる。そこから、2人を入れて何者も干渉できないようにした。
それにしても……気になるのは『創生の魔術書』の副作用だ。
これまでの経験上、絶望に関することが付与されるから事前に知っておきたい。
それに覚悟も……決めておきたい。
『あれを……使ってみよう。『叡智魔法』。私に何でもいいから教えて……?』
カチリ、と魔力回路が合わさったような感覚。と同時に頭の中に言葉が響く。
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『叡智魔法』が発動されました。
黒のプレート及び、世界の知識の一部を再生できます。
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『創生の魔術書』について。
今回獲得した魔術書により、以下の効果が発動しています。
効果1:絶望付与
《黒き魔法の発動のたび、身体が黒く灰になる》
《定期的な絶望を得る》
《眠るたびに絶望的な死の恐怖を得る》
効果2: 特殊魔法
『世界の創造』
『黒き魔法』
『創造主』
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ライムは息を飲んだ。
今までの知識が経験が本当にちっぽけに思えるくらいに、『叡智魔法』はなんでも開示してくれる。
絶望の効果で死に直結するものはないようだった。
黒き魔法も使い過ぎなければ大丈夫だし。
『あとは……。そうね、アリスは神様なのかしら?』
先ほどの疑問だった。
彼は僕たちのような神様、と言った。
あれがどういう意味かわかったりする?
答えはすぐにやってきた。
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アリスは、魔法化学発展区ミザリにより産み出された人工神です。完全ではなく、神特有のほとんどの力は内包していません。
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『人工神って……?!』
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神を模した人間です。
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『神様がいないと世界が滅びるって本当なの?!』
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世界の知識を再生できません。
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『………そう。あくまで彼の憶測ってことなのね』
どうやら、『叡智魔法』は既存の事実は教えてくれるけど、人の考えや思いは教えてくれないようだ。
便利な辞書みたいだなとライムは思った。
アリスが人工神っていうのも気になる。
やっぱりミザリに行って確かめなきゃいけない。みんなを苦しめる黒い雨とも関係があるかもしれない。
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…………。
あぁどうしよう。
……すごく疲れた。眠い。
今は寝る時じゃないのはわかってる。
わかってるけど、そういえば今どれくらい時が経ったのだろう。
ずいぶん長く戦ってたのだと思う。
ちょっとだけ。
ちょっとだけだから、少し休んでもいいよね。
私は『防御魔法』を周囲に貼って、ピアノたちの安否を確認した後、深い眠りについた。




