66 行かなくちゃ、早く……!
「何故、私がいることがわかったんダ?」
リエード先生は首を傾げて興味深そうにしている。
『魔力感知』か『索敵魔法』か……方法は色々あるだろうけれど、リエード先生クラスにもなると魔力を一時的に抑えることもできる。
だから、『魔力感知』系の魔法は効かないはずだった。
何故、私がわかったのか……。
「視えるんだよね」
「視えル?何が?」
「最近わかったことなんだけど、なんとなく気配を感じる、なんとなく声が聞こえる……全部ひっくるめて、色々なものが視えるの」
ライムの紅い澄んだ瞳がリエードを捉える。
紅い色の中に僅かに曇り始めた眼差し。
理由は先ほどのやり取りを見たリエードには検討がついていた。
この少女は『創生の魔術書』を全て読むつもりだ。
もうすでに、絶望が自らの影になって付き纏い、黒き魔法によって身体はぼろぼろになり始めているというのに。
瞳の陰りは、その影響かもしれない。
魅力的な少女。
リエードは彼女のことをそう思った。
教えるべき立場のリエードにとって恋愛感情など露にも抱かないが、先日からどうもそれと似た感情を抱く。
胸ががざわざわする。
これは、表には出してはいけない感情だろう。
そして、すぐにでもこの現象を解明しなければならない。そう思って、ライムを遠目から観察していたのだ。
「それより、アレスさんを探しているの。ピアノと一緒にいるはずなの」
「……こっちダ。オマエがわからないのも無理ないナ。秘密が守られている場所は如何なる干渉も受けないのサ。学園にはピアノ様専用の部屋があるのは知っているな? その奥の扉、そこにピアノ様の黒き魔法を管理する魔法陣があル。おそらくそこだろう」
「ありがとうございます。リエード先生ならわかると思っていたわ」
「それも、"視える"か?」
「うーん、ただの勘」
「ハハハ……」
リエードは力なく笑うと、学園細部の情報を示す《マキア》を表示した。
「教職員特権ダ……。ピアノ様の部屋にも緊急用の移動魔法陣があったハズ。そこまで展開すル」
何故ここまで、この少女に力を貸さなければならないのか。
そうも考えるが、そうしなければならないという感情にひたすら襲われるのだ。
この謎を解き明かさなければならない。
リエードは学園の教員であり、研究者でもある。
解明されていない未知の領域、未知数の魔法。いくら学んでも研究を重ねても興味が尽きない。むしろ日に日に好奇心はますばかりだった。
そして、突然の未知の感情。
これは魔法なのか、偶発的なものなのか……リエードはひたすらに血をたぎらせていた。
足元にマキア特有の蒼白い魔法陣が展開される。
同時に私たちは胃が締め付けられる感覚と共に、一瞬でピアノの部屋に移動した。
可愛らしい部屋。
パッと見た感じの印象だ。
中央に大きな白とラベンダー色々のベット。
隣に上質な木のテーブルと花柄のソファ。
壁には黄金を使った装飾があしらわれていて、ピカピカと輝いている。
周りを見渡すと、改めてピアノは王女様だったのだと気付かされる。
スッと気を尖らせてみる。
……何も感じないわね。
リエード先生のいう通り、ここの空間は特殊なんだわ。
「このカーテンの裏、小物が収納されているがこれはダミーだ。決まった順番に触ると奥に扉が出てくル」
器用にタッタッと触ると、小物棚はじんわりと消えていき奥に簡素な扉が出てきた!
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く。
目の前には薄暗い廊下。
生暖かい空間感。
人の、気配がする。
そして、さっきまで何も感じなかった部屋に異質な空気が漂い始めた。
チラリと外を見ると、空が黒く覆われている。
いつの間にか雨が降っていた。
「リエード先生! 急ぎましょう!!」
「ああ」
学園にいるみんなと、学園自体には魔法を施したから大丈夫だとは思うけど、アレスさん……ピアノ……。彼らからの魔力を未だに感じられない。早く、早く……!




