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65 2冊目




 ずしりと受け取ったその本はひとつの汚れも付いていなくて、綺麗な輝きを放っていた。


 この本は何人の人を魅了してきたのだろう。

 そして、どれほど絶望と希望を与えてきたのだろう。


 私はトードリッヒさんからの本の内容を思い出す。


 世界の深淵を打ち破る手立て、それは……

『創生の魔術書』を全て読み、焼き払うこと。


『創生の魔術書』は希望でもあり、絶望でもあり、やがて世界を深淵へと導くものである。頼ってはいけない。希望を抱いてはいけない。


「…………」


 トードリッヒさんと、ライラさんは希望を抱いてしまったのだ。

 本当なら、助からないはずの命。

助かるかもしれないと。

 そして、ピアノもーー。


 だから、魔術書に、絶望を与えられたのだ。


 蒼白く輝きを放つ魔術書を両手に抱えて目を通すと、また以前のように情報が頭の中に流れ込んでくる。


 それを驚愕したように見つめるライラは、


「あなたは今、何冊目……?」

「まだ2冊目」

「2さっ……?!だ、ダメよ……そんなに読んだら絶望が……!」

「ふふっ、大丈夫よ。私は強いから」


両手を腰に当てて威張って見せると、ドヤ顔をしたライム。ふっと表情を戻して、


「私決めたの」


と自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「何を?」

「魔術書を……」

「…………」

「全て燃やすわ」

「……え」


 自分でもどうかしていると思う。

 読み終えるまでに生きているかもわからないと思う。

 でも、自分にしかできないんじゃないかとも思う。


「あなた、知っているの?!魔術書を燃やせばどうなるか……!!」

「うん、知ってる。いえ、今わかったわ」


 今、わかった。

 この本はこの世界にあっちゃいけないんだ。

 ミザリは何を企んでいるのかわからないけれど、この魔術書を利用しようとしている。


 止めなきゃいけない。


「じゃあ、なんで……?」

「助けられる力があるんだもの、助けたいって思うのが当たり前でしょ?貴女もそうだったのでしょう?」

「あぁ……」


 ライラは顔を埋めて「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と頭を掻きむしりながら何度も呟いた。それを見てただ悲しいと思った。


 そして、頭に入って来た情報は『世界の在り方』。

 世界の作り方がわかる。

 在り方がわかる。

 なんでも作れそうな気にもなってくる。

と同時に、2冊目の代償《終わらない絶望》の影がこびりついたような感じがした。


「お願いがあるの」

「……?」

「今の私なら、別の世界へ行けるわ」

「…………え」

「うん、だから、ね。トードリッヒさんとレイラちゃんに合わせてあげる」

「…………!!!ほん、とう?」


 そっとライラの肩を寄せると、彼女が震えているのがわかった。今にも涙が溢れそうだ。


「そして、この本は燃やすわ」


 この時の私はすごい形相だったと思う。

 自分でも眉間にシワが寄って険しい顔をしていた自覚がある。


 立ち上がって、『存在抹殺』の魔法を込めるーー。燃え上がり焼き尽くす焔のイメージと掛け合わせるーー。


 結構、というかやっぱり、力がいるわね。

 いつもの3倍くらいは魔力が必要そうだった。


「ひとつ聞きたいのだけれど」

「ん?なぁに?」


 ライラはぼーっとしながら、私が魔術書を燃やす光景を見つめている。


「あなたは何をしたいの?何が、目的なの?こんなに力があって、魔術書を燃やし尽くしたら、どうするつもりなの?」


 そこには恐怖の色があった。

 それもそうだろう。こんなに力を持っていて、神のようになんでもできて、魔術書を燃やすっていうんだから。

 でもね。


「ふふふ、私はね、ぐーたらな生活がしたいの。誰にも追われることもなくて、誰もが幸せで、ライラさんみたいに好きな人と一緒にいられたら最高だなぁって思うの。私間違ってる?」

「いいえ、何も。私、あなたのこと勘違いしていたみたいね」


 少し微笑みながら彼女は、私と同じ目線に立つ。


「勘違い?」

「『神見習い』っていうから、もっとどしんと構えて強い人だと思っていたけれど、話してみるとちゃんと女の子なのね」

「そ、そう?それは褒められているのかしら?」

「褒めているわよ」


 ライラはからっと笑うと、


「ありがとう」


 と言って、私が繋いだリバーシの世界へと去っていった。


 彼女の後ろ姿はもう黒い瘴気なんてなくて、すっきりというかさっぱりというか、どこか涼しげだった。


「レイラちゃんによろしくね」

「ええ、あなたが幸せになれますように」


 そして彼女の気配が消えた。

 ライラさんもどうか幸せに……。


 

====



 私にはすぐにやらなきゃいけないことがある。アレスさんはきっとピアノの元にいる。だったらーー。


「リエード先生。いるんでしょ?私に力を貸してくれる?」

「ハハハ……。ばれていたカ」


 後ろの棚の影から出てきたのは、オレンジ頭のリエード先生。ずっと気配を感じていたのよねぇ。

 それで、効果が持続していれば、私の誘惑魔法がかかっているはず。


「答えは?」

「もちろんイエス。貴方のためなら、なんでもしたいと思うヨ。理由も教えてほしいところだガ」

「時間がないの、アレスさんとピアノがいる場所を教えて」


 精一杯背伸びをして、リエード先生の顔に近づける。赤面してるってことは、魔法の効果が出てるってことよね?

 なんで効果が顔の色でわかるのかはわからないけれど、とにかく時間がない。

 ライラさんが来てたっことはミザリも動いているはず。


「教えるが……君はいつから僕に対してタメ口になったんダ?」


「あっ、えっ、ごごめんなさい!」


「いいよ、君のしたいようにしてくれ」


 リエード先生の目つきが一瞬ぞわっとしたけれど、悪い感じではなかったので気にしないことにしたわ。




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