59 魔法の効果
アレスさんの推測では『誘惑魔法』は対象を誘い込むつまり思い通りの道筋に誘導する魔法なのではないか、と。
実のところ推測の域を出ないのは『誘惑魔法』をまだ使ったことがないから……。
しかも実例がないそうで……。
だから……ちょっとどうなるかわからない。
一応、協力してください〜って念を込めておいたけど合ってるのかしら?
自分でも、自分の魔法なのにわからないっていうのはどうかと思うわ。ははは……。
「リエード先生?」
『誘惑魔法』の手応えを感じてから、後ろ姿のリエード先生はしばらくピクリとも動かなくなった。
ライムは効果は出てるのかしら、とリエード先生の顔を後ろからそーっと覗き込む。
見上げたリエード先生の顔は……。
赤面していた。
それはもう真っ赤に。
「わ、せ先生!!大丈夫ですか?!耳から鼻まで……真っ赤ですよ!!」
「.………な、にヲ」
「……熱でもあるんでしょうか?!」
まずいまずい!!魔法に副作用がないとは考えなかったけど、きっと何かしら良くないことが起こったんだわ!
魔法が強すぎたとか?
やっぱり魔力はちゃんと抑えなきゃ……と心の中でパニックを起こしていると、
「アナタハ……何ヲ……あぁ」
「リエード先生?」
「……目を見ないデ、、くださイ」
目を?なんで?とも思ったけれど、何かあっては遅いから「目を見ないと良いのですね!!わかりましたっ」とテキパキと答える。……あっ、目が合っちゃった。
「今のは……なしで、、、ごめんなさい」
話す時に目を見る癖がついているから、ついついやってしまった。大丈夫だろうか……。今度はリエード 先生の目じゃなくて細い首あたりを見る。
「……はぁっ、、、」
目を晒して片手で顔を覆うとさらに顔を赤くしたのだった。
リエード先生はオレンジの短髪を掻きむしると無言でもと来た魔法陣を踏みつけ、足早に帰っていこうとした。が、その腕を掴んでライムは引き止める。
魔法が強すぎるようだけど、きっと効果は出ているんだわ。
ちゃんと協力してもらえるかお話しないと……!
「リエード先生、お忙しいところごめんなさい。お話があります!」
「……ライム……さん。私もアナタに……お話がありますヨ?」
リエード先生は驚いた表情で掴まれた腕を払うと、顔を隠し取り繕うようにして言葉を紡いだ。
良かった。さっきよりも少し落ち着いてきたみたい。会話ができる。と、思っていたら、
「アナタは……!!いったい、何をしたのですカ?!」
……怒られた。
「あの、いえ、何も……ただお願いしたいことがあっただけなのです」
「……何も?ですカ?……急に襲ってきた、緊張と熱。心拍数が上がっテ……」
「き、気のせいです……」
真実は……言えません!
「………まぁ帰ってかラ分析するとしテ……。お願い、とは?……ま、まぁアナタが言うことなら、、」
怒ったかと思えば急に冷静になって、割と起伏の激しい先生なのかしら?
それよりも面倒臭がり屋で有名なリエード先生がお願いを聞いてくれるなんて!!
これはもしかしたら成功したかもしれないわ、とライムは頬を綻ばせる。
「実は……」
先程の動揺はどこへやら、淡々と私の"お願い"を聞いてくれた。断られるかも、とも思っていたが『誘惑魔法』の効果は絶大なようだ。
魔法学に詳しいリエード先生には、黒い雨の実態を調べてもらうことにした。被害に遭っている人の救助は引き続き騎士団にお願いするとして、解除できそうだったら解除もリエード先生にやってもらう。
リエード先生は就任してからずっと魔法学の研究をしていて、数々の本を出版しているほどに精通しているから、何かしらの手がかりをつかめるかもしれないわ。研究以外のことは「面倒臭い」の一点張りなのに、魔法ってすごいわ、と改めて思う。
リエード先生の白くて細い首を見ながらニッコリと微笑むと、先生はまた目元を細い手で隠したのだった。
この調子で協力してくれる先生を探そうっと!
ライムとリエード先生が元の魔法陣で教務室まで行くと、シオンとジュエルと鉢合わせた。
どうやら、私とアレスさんが話している間に2人で学園探検していたらしい。
盗難事件があってから学園の警備も強くなっている。そんな中、こっそりスリルを求めるんだから怒られるに決まってるわ。……私も人のこと言えないけど……意外と楽しいのよね。
「あ、ライムさん……。ちょうどいいところに!」
ジュエルが声を弾ませてライムに声をかけた。




