58 罪の意識はあるけれど、
私たちはピアノを助けるため、そして黒い雨の原因を探るため、魔法科学発展区ミザリに行くことになった。2人で行くことも考えたが、それは、無謀なことらしい。
「ミザリは完全に独立した区域ですので、特別な許可がなければ国王のつてをもってしても入国は困難でしょうねぇ。黒い雨の付近で怪しいものがいないか捜索する者と、ミザリに侵入し『創生の魔術書』及び魔法陣の手掛かりを見つける者、その間に囮りになる者が必要でしょう……」とアレスさんは言っていた。
サクサクと計画を立てていく姿はかっこいいなぁと思う。
うーん、となると複数の協力者が必要ってことね。どうしよう?国王様に頼んで騎士団や魔術師に来てもらう?あ、でも今は黒い雨の対応に追われてるんだっけ……。
「私が『瞬間移動』で駆け巡れば……」
「……だめです」
「ちょっと使うくらいだったら、だいじょう……」
「フヒヒ……これ以上使えば、どうなるかご存知なのでは?……私は2人もかかえてどうにかできるほど強くはないですよ?」
「どうにかなる前に、どうにかしたいと思って……」
「無謀ですな」
ライムの無茶な計画はバッサリと切り捨てられて、がっくりと肩を落とす。なので渋々話を聞くことにした。
「ライム殿は他にどんな魔法を扱えるのでしょうか……?」
まずは味方を知ることから、だそう。
黒き魔法以外で攻略のために使えそうな魔法……。基本的にはどんな魔法だってイメージすれば大概は扱える。けど、規模が大きすぎたり複雑な魔法は強いイメージが必要だったりアビリティがないと難しい時もある……。
それを伝えたら、アレスさんはしばらく固まって動かないでいた。案外使えないやつだと思われたかしら……。ごめんなさいね。
「あと、最近のアビリティだと『叡智魔法』『誘惑魔法』なんかを最近覚えました」
「覚え……?いえ、まぁいいでしょう。規模があまりにも規格外で判断しかねますがそうですねぇ……」
アレスは首を振って何かを振り落とすような仕草を見せると、顎に手を当ててしばらく考える。すると、
「試してみたいことがあります」
と言って信じられないことを口にした。
少しばかり、いえ……かなりアレスさんの人格を疑うわ……。
「あの、え、ほんとにこれでいいのでしょうか?!……罪悪感が……というか倫理的にだめなのでは?」
「ヒヒヒ……面白い姿が見れそうですねぇ」
「もう!アレスさん!!真面目にお願いしますっ」
案をもとに何日か時間を作って計画を練った後、私たちは動き出す。
重なる日を追うごとに胸の中にはモヤモヤした気持ちが蓄積されていった。
ほとんど毎日ように会っているのに……あの時以降アレスさんに触れられていない……。
……。
…………。
う、私今すごく破廉恥なこと考えてた?!?!
そ、そんなこと、ないですわよ?!
ぎゅってしてもらいたいだなんて?!
そんなこと、ねぇ?!
「あははは……」
「ライム殿……ついに気が狂われてしまいましたか? 狂うのは終わってからにしてくださいね」
「あ、アレスさんのせいです……!!」
顔を真っ赤にしながら、ライムは声を張り上げる。
「では、ライム殿。頼みましたよ」
「任せてください!」
半ば投げやりに部屋を出て、早足で目的地に向かったのだった。
始めに出向いたのは、魔法学の先生のところ。
部屋の前で尋ねたいことがあると、先生を呼び出す。しばらくして、オレンジ頭の若い先生が出てきた。
「どうしましたカ? ライムさん?」
「リエード先生。あの、授業で分からないことがあって……」
リエード先生はジロリと私を見て面倒臭そうに頭を掻くと、
「……はぁ。わかりましタ。来てくださイ」
と個別学習室にテレポートする。私も急いで魔法陣を踏み、あとに続く。
狙うは2人きりの時。
怪しまれないように、防がれないように、一瞬でかたをつけなければいけない。
テレポートをして、リエードの先生の背中が見えた瞬間。
右手を添えて、小さな声と早口で唱える。
『誘惑魔法』
「リエード先生……ごめんなさい」
ライムは『誘惑魔法』を発動した。
罪の意識はあったが、「何人かの先生たちには国から召集がかかっていたのですがねぇ……。特にリエード教授は面倒臭いという理由で辞退なさっているのですよ、ヒヒヒッ。強制参加も悪くないでしょう?」と悪い声が聞こえてきたのであった。




