53 思わぬ真実はさらなる悲しみを呼ぶ
「あのね、ライムに言わなきゃいけないことがあるの」
「……その胸の魔法陣のこと?」
ピアノは目配せしてアレスさんたちに部屋を出て行ってもらうと、ライムの言葉に驚いた顔をした。
「すごい、なんでもわかっちゃうんだね」
「……」
ピアノは胸のボタンを2つ外すと、露わになった肌から黒い魔法陣が見えた。
(……!!やっぱり、これは黒き魔法!)
胸元の黒い魔法陣はその色からして、その術式からして良くないものだとわかる。
ライムは術式をある程度把握できる。
ある程度の域を出ないため確証はもてない……が、
色というのも、忌み嫌われている『黒』。
それらが何を意味しているか、ライムはなんとなく察していた。察してしまっていた。
ピアノはへらへらしているが、それどころではなくなったわ。
ばれないように『解析魔法』してみる。
……ピアノはほんとにその魔法陣の意味をわかってるだろうか。
解析が進むたび、ライムから冷や汗がたらりと落ちる。
「ピノ……。それはいったい……」
「うんとね、私、さ、これからライムと離れ離れになっちゃうかもなんだ。この魔法陣のことで、王室に籠らなきゃいけないの」
「……っ!」
「実を言うとね、私の魔力がお父さんの役に立つみたいなの。ほら、お父さんって国王様でしょ?国王様って大変みたいでさ、力がいるみたいなの。絶対的な魔法力。しかも、ミザリの方で問題があるらしくって、だから、私……ライムとお別れしなくちゃなの……」
言いながらピアノは私の細い手を握った。
そんなピアノを私はぎゅっと抱きしめる。
そして徐々にその魔法陣の全貌が視える……。
ピアノは……わざわざライムの心配を煽るようなことはしない人だ。だから、平気で自分に嘘をつく。
「嘘ばっかり……」
ピアノの薄紫色に煌く瞳を見て思う。
彼女はピアノの言葉に一瞬目を丸くしたけれど、すぐに可愛しい顔で「ありがとね、心配してくれて」とふふっと笑う。
(なんで?)
魔法の……解析が終わった。
ピアノ、、私ね、貴方が思っているよりずっと魔法を使えるし勘も良い方なのよ。
それこそ深淵を見ることを厭わず、自身を顧みず本気になれば、神様にもなれるくらい。、
驚いた。
ピアノのこの魔法陣は……。
私は目の前の彼女に伝えようとして口を開く。
ピアノわかってる?
私は何も言えなかった。
ぎゅっと手元にある布団を握りしめる。
ピアノの魔法陣に込められた意味………。
だってそれはーー。
さらさらの金髪をふわりと揺らしながら、ピアノは顔を傾けてこちらをじっと見つめる。
そんなに見つめないで。
苦しくなるから。
悲しくなるから。
私は手袋をつけた右手でピアノの頬をそっと触る。
大事に大事に。
目の奥の方から何かがじわじわとこみ上げてきて、瞳の表面へ。
目頭がゆっくりと熱くなり、視界が狭くなる。
どうやって声を出していたか忘れた。
左手で喉に手をやり、振り絞るように確かめながら精一杯、だけどそっと声を出す。
「ピアノ…………死なないで…………」
魔法陣から分かったことは……。
――ピアノが近いうちに寿命を迎えるということだった。
魔法陣は複雑だった。
本当なら一瞬で理解できてしまう私でさえも、解析に多少の時間がかかってしまった。
それくらい強い魔法だった。
いや、『呪い』と言った方が正しいか。
「すごいね、ライムは」
ピアノはすっきりとした顔で感嘆していた。
彼女の頬に触れている私の手を彼女の温かい手が包み込む。
なんでなんでなんで!?
……どうして!!
今の事実を受け止められない。
信じ、られない……。




