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52 現実になりませんよーうに




 悪い夢を見ていた。


 まるで極上の餌を頬張る狼のように、大きな口を開けた本たちが嗤いながら私を喰べようとするのだ。


 身体を串刺しにでもするかのような鋭い牙は今にも柔らかい肌に触れようとしている……。


 ポタッと体液のようなものが滴り落ち、滑らかに喰い込む牙。

 触れた先からは赤い血が滲む。


 その間私はまるで身動きがとれなかった。


 悲鳴も上げられず、指一本として動かせず、ただただその激痛に耐えなければいけなかった。


 魔法を発動しようとすると、指先は黒く変色しボロボロと崩れていった。

 やがて侵食は私の手のひら、腕、肩……と徐々に拡大し、遂には心臓にまで漆黒色に染めた。


 ………ああ、私は何もできずに死ぬんだな。


 そんなことを思いながら、本の体内にゆっくりと呑まれていった。


 ……意識が遠くなる中、誰かの細い手が私の崩れた手をぐいっと引っ張った。


「ライム!!」


「は………っ………」


 目の前に、ピアノがいた。


「ライム、、大丈夫?!?! 朝食の時間になっても起きてこないから、心配して……。来てみたら、酷い汗じゃない!?」

「あ、、ピノ……?え、私……?」

「うなされていたわよ。何かあったの……?」


 寮の部屋の、いつものベッドの上。

 ピアノは私の冷えた手を必死に握ってくれていた。


 いつまで経っても起きないからと部屋に入ったところ、私がベッドの上でもがいていたそう。

 何度も声をかけてくれたようだ……。


 いそいそと起き上がって目線をあげると、後ろの方でシオンとジュエルが心配そうにこちらを見ている。

 ……アレスさんもいるんだろうな。


「ご、ごめんなさい……。心配かけて……、も、もう大丈夫」

「ほんとに?……無理しちゃダメよ。今日はゆっくり休みましょう」

「ほんとに。もう平気よ、ちょっと悪い夢を見てたみたい……」


 ピアノに心配させないようにニコッと笑うと、少し安心したようでホッと息をついていた。


「ライムってば気づいたらどこかに行ってるんだもの。油断ならないわ!」

「もう行かないよ……」


 もう行けないの間違いか。

『瞬間移動』も『存在希釈』もできないし。

 それにしても嫌な夢だった……。


 視線を落とすと、ピアノがまだぎゅっと手を握っていてくれた。


 ……ピアノの手、、、あったかい。

 この手が悪夢から救い出してくれた。

 自然と顔が緩む。


 ……ん? あったかい?


 あれ、私、、手袋して……。


「……ない!!!!!」


 手袋がなーーーい!!

 寝る前にはつけていたのに。

 いつ外れた?!


 手袋は必需品だ。

『黒き魔法』の副作用で黒く綻んでしまった手の指先を隠すために、寝る時もいつもつけている。


「ひゃあ!! なになに?!どうしたの?!」

「て、てて、手袋……」

「ててててぶくろ?……ん?、あるわよここに」


 そう言って、何故かピアノの上質なポケットから私の手袋が出てきた。


「え、ありがと……あ、、、」


 ピアノは微笑んだままシュルと出した私の白い手袋を、消えかかり黒く変色したボロボロの指に丁寧にはめていく。


 ……あ、あ、、、!!


「あのっ!いや、この手はねちょっと魔法に失敗しちゃって、すぐ戻るんだけどね……あーまだ治らなかったかぁ!」


 見られた……!!

 ピアノに……!!

 やばい。

 いや、心配してわざわざ外して握ってくれたんだろうけど……!

 ピアノを驚かせてしまう……。また心配を……。


 わたわたと狼狽た私を見てピアノは


「大丈夫っ」


 とこっそり励ますように呟いた。


「見ても……驚かないの……?」


 手袋をはめてくれた手はピアノ自身の胸元に置かれた。

 ドクドクと心臓が脈打つ音が伝わってくる。

 と、同時に胸の中央部に嫌な違和感を感じた。

 黒くて薄暗くてまるで夜の森を彷徨っているかのような……。


「もしかしてーー」

 

 この目を背けたくなるような嫌な違和感の正体はーー。

 そこまで言ってから、アレスの視線を感じたのかふっと繋いでいた手を離し、にっこりと悲しそうに笑った。

 (ピアノ……?)


 汗を拭い、さらに落ち着いてから静かに思考する。

 (ピアノの胸の中にあったのは、確かに魔法陣だった。しかも、強制的の伴った私でも解けない魔法ーー)


「何が、あったの……?」





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