50 予想外です〜
その「せい……」なんとかって言葉はあまり良くないような言葉な気がするの。
それこそ、人前で言うのが憚れるような。
……いったいどこでそんな感情が芽生えたのかしら。
実技の基本魔法習得授業でもなんだか身に入らなかった。
どこにそんな敷地がってくらい広い校庭に出て、基本魔法の練習。
基本魔法とは、小さな怪我を治したり、微小の光を出したり、水を出したりと主に生活に欠かせない魔法だ。
これは誰でも使えるわけではなくて、やはり遺伝的アビリティを所持している人でないと使えない。
一般的にも使えるようにと『オートマター』と言う特別な紙に術式を込めて、誰でも使えるようになってあるのだ。
今日はその『オートマター』を使う実技。
ちなみにアレスさんが使っていた魔法硝子はその上位互換で上級魔法が込められている。
「ライム〜!ぽけーっとしてないで教えてよ〜! どうやったら、紙から水が出てくるわけ?!」
同じポーンクラスのピアノが可愛らしくふんふん言いながら、『オートマター』を握りしめている。
「私に聞かれても……。ガノール先生が言うには体内の血液の巡りを意識して、血を紙に分け与えるようなイメージだとできるみたいよ」
「それはわ゛がっでる゛〜!でもできないの〜なんで〜?!」
「うーん……」
ぶっちゃけ私は魔法に困ったことがないから、ピアノを助けてあげることはできない。
『オートマター』なんて使わなくても、イメージしたら水なんて出てくるものじゃないの?
「ねぇアレス〜コツとかないの?」
「フヒヒ! ピアノ様、こればかりは自分で見つけるしかありませんよ」
「ひー、いじわるっ!」
アレスさんは実技を伴う授業には必ず護衛についてくれる。
理由は怪我でもあったら大変だからってことだけど、過保護すぎだよね。
おじいちゃんだけどガノール先生もいるんだし。
「ねぇ、ライム一回やってみてくれない?」
「えっ」
ちらりとアレスさんを見る。
魔法の使用は極力控えるようにしているからだ。
なので使う時はアレスさんの許可を取るようにしてる。
あっ、そっか。
このために近くにいてくれるのか。
それはありがとうございます、だ。
私じゃ判断できない場面も多いし。
アレスさんは……「水魔法くらいなら……」とニヤニヤしながら頷いた。
おっと、ニヤニヤしているのはいつもだわ。
よし!ガノール先生にも私も『オートマター』を使えるところを見せておこう!
「えーと、まず……紙を両手に持って……」
「うんうん」
「血の巡りを感じて……」
「感じた?」
「うん、ドクドクいってる」
ピアノたちに見守られながら、持つ手に力を込める。
そして、私の血を、『オートマター』に捧げるように。
……手応えを感じた。
紙を見ると何故か黒ずんでいる。
次第に真っ黒になった。
ん?何かが……おかしい?
「ライム?使うのは水の魔法よ?手違いで火の魔法を使って黒こげにしちゃったの??」
「うーん、、そんなはずは……」
と、言いかけたところでアレスさんとガノール先生がばっとこちらを見た。
同時にガタガタと地面が揺れる。
えっえっえっ?!
『オートマター』がぼっと蒼く燃えて……。
「うえっ?!?!」
手を離すと、紙は膨張し、
『『『ドッバーーーーーンッッッ!!!!!』』』
大量の水が溢れてきた。
水は滝のように、激流のように、天高く舞い上がって、一瞬のうちに当たりを水浸しにした。
校庭は……ダムのようだった。
天から降ってきた水をドシャァっと頭から被り、腰あたりまで波打ったかと思えば、やがてすぐに引いていった。
「な、ななんだぁーー!!!」
「いやぁ!!!」
「大量の水が……何があったんだ?!?!」
次々と聞こえる悲鳴に似たような叫び。
校庭で一緒に授業を受けていた他の生徒も、ピアノもアレスさんもガノール先生も……皆びしょ濡れだ。
「は?」
開いた口が塞がらないとはこのことだ……。
もしかして、私がやらかした?
「ライムぅううう!!!!誰がこんな水だらけにしてって言ったのよう!!!」
「うわぁあああごめんなさいぃいいい!!加減が分からなくてぇえええ」
私は頭をかかえた。
いやいやいや、オートマターってこんなに威力が出るの?!?!
周りを見ると、皆混乱しているようだ。
ガノール先生は「いったい何が起こったんじゃあ!!?」と驚いて、すぐに状況を察したのか、急いで『現状回復魔法』のオートマターを使っている。
ピアノはジャブジャブと服の水気を取っていた。
「フヒヒヒヒ!!!」
「はっ!……アレスさん………」
これは怒られるかもしれないと、そーっと近づいてきたアレスさんを見る。
アレスさんも相当ずぶ濡れだ。
整っていた白髪に水が滴り、上質なコートも水を吸って重くなっている。
濡れた黒いメガネを取ると、整った顔立ちがより一層はっきりわかる。
「実に面白いですねぇ」
と髪をかき上げながら、笑うアレスさんから何故か目が離せなかった。
その時、こんな状況なんて関係なく私の頭には一つの言葉が浮かぶ。
……あぁ。
つかえていた胸の奥底。
その言葉は私の意思に関係なく、ぽろっと出てきた。
ただまっすぐに金色の瞳を見つめる。
「アレスさん?」
「なんでしょうか?」
「あの、私アレスさんが好きみたいです」




