48 正体は
「で、グルウル先生の出番ってわけね〜」
ゆるふわな先生がさっと道を開けると、後ろから長髪が目元までかかったグルウル先生がぬっと出てきた。
「…………」
「解析を頼むぞい」
ガノール先生から紙切れを受け取っても微動だにしない。
「…………」
「どうじゃ?」
「…………」
「落ち着ケ。グルウルセンセは集中してるんだヨ。解析魔法は我々が思うよりずっと繊細な魔法ダ」
「…………」
グルウル先生はアルファベットの頭文字が書かれた紙切れを両手で浮かべて、じっと目を閉じているように見えた。
この先生が紙切れの魔力を辿って、解明してくれるのだろう。
「……『解明魔法』」
すると、ぽわんと紙切れが光った。
グルウル先生の持つ手に力が籠る。
「この魔力の正体は……
『アリーゼル・ライラ』のもの」
「はっ!ライラさんだったのカ!」
「えと……誰でしょう〜?」
「…………」
「ああ……ライラ殿……」
「はははっ!!久しぶりに聞いたなぁ!!生きていたとはなぁ!!」
「誰じゃいライラ?と言ったかの?」
ある者は驚き、ある者は見当がつかず、しかし皆先生だというのに皆開いた口が塞がらないでいる。
「ラ、ライラですって?!?! 彼女は……トードリッヒと一緒に追放されたはずじゃあ?!」
カナリア先生の声。
今なんて?
え、え。
ライラって、あのトードリッヒさんの奥さんの……ライラ、さん?
訳がわからずアレスさんの方をばっと見て、助けを求める。
アレスさんも顔を歪めている。
「ライム殿と学園直属の先生はアリーゼル・ライラをご存知ありませんでしたね。いやそれにしても、驚きましたな……」
「アレス先生!!」
「わかっていますよ、カナリア先生。由々しき事態です。私と同じ宮廷魔術師だった彼女は国の『創生の魔術書』を無断で閲覧した。その罪でトードリッヒと共に監獄『ファウト』へ連行されたのですが……。その後脱獄したと聞いています」
「………っ!」
「今度は学園の魔術書を狙ってか」
ライラさんは……ミザリに『創生の魔術書』を探しに行っているとトードリッヒさんから聞いていたけれど、そんな……。
私に見せてくれた『創生の魔術書』は国から盗んだものだとは、トードリッヒさんから聞いていた。
やっぱりバレてしまっていたのね。
ミザリにある魔術書も見つけたのかしら……?
ライラさんは、レイラちゃんを助けるために魔術書を探しているのだと私は思っていた。
でも。
「ライラは『黒き魔法』を完成させ、力を手に入れるつもりですわ!!」
カナリア先生は恐怖に慄いた顔で、口するのを憚れるその言葉をきっぱりと言い切った。
………えっ?
「間違いねぇな。魔術書を使って強大な魔力を得ようとしてやがる。国でも滅ぼすつもりか?! それ以外に理由がねぇ」
「王国の魔術書を閲覧して今度は学園か……!」
「トードリッヒが残した幻影に魔術書の在り方のヒントがあるとでも思ったのでしょうな。何にせよ、魔術書は隠されていますから、どうもできないでしょう」
「ミザリの魔術書も心配じゃ」
待って。
ライラとトードリッヒさんには子どもが……。
レイラちゃんが呪いで……。
ああ、魔術書を手にとったら深淵に落ちることをこの人たちは知らないんだ。
力を得られるけど、デメリットが大きすぎるもの!国を滅ぼすなんて……!!そんなことする前に深淵を見るわ!!
そんなこと私の口から言えるはずもなかった。
内心焦っているとすました顔のグルール先生と目が合う。
「先生方……疑心暗鬼になるのはわかりますが、この件の話はこの場ではない方がよろしいかと」
あっ……!
私、聞いちゃいけない……?!
「まぁ、ライムちゃん!」
「魔術書は限られた人しか知らないことだからナ」
「ライラの記憶はない方がいいだろうなぁ!!」
ぐるりと一変に先生たちからの目線が集まる。
ひえっ。
「では、『記憶消去魔法』を」
ゆるふわな先生はぽんっと私の頭を叩いて、
「ごめんねっ、聞かなかったことにしてね」
と耳のそばで声が聞こえたと同時に、私は意識を失った。




