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42 その秘密




 どうやら、私たちが旧魔法化学室に近づくにつれて妨害魔法は効力を増しているようだ。

 足を一歩踏み出すたびにザザーッという機械的な音がどんどん大きくなる。耳がちぎれそう……。この音でどの生徒も先生にも気付かないってことは『幻聴魔法』でカモフラージュされてるかもね。ライムは耳を塞ぎながら考える。


 おそらく、私のように何かしら問題をかかえている人にしか聞こえないように……。ということは。


「ピノ。これ魔法がかかっているみたいだわ。『魔法抹殺』」

「わ、わわぁ、ライムぅありがとぉー!」


 糸もたやすく『妨害魔法』と『幻聴魔法』を打ち消すと、隣にいるピアノはガクブルしながら必死に足を進めていた。しかも「妨害魔法がかかっているってことは、やっぱりこの先に何かあるってことよね?!」と恐怖に染まった顔色からは、まるで想像できないような発言が聞こえた。


「怖いなら無理しなくていいのに」


 心配だなぁ。恐怖で倒れたりしないでね。

 薄暗い廊下を渡りきり目の前には例の部屋。ライムの心配を他所にピアノは震える手を慎重に伸ばす。


「……怖いよりも好奇心がね、勝つのよ! 私はもっともっと色んな面白いを見つけたいのっ」


 そう言って勢いよくドアを開ける。

 すると、ぶわぁっと酷い悪臭が立ち込めた。

 ……刺激臭だ。


「ひぃいい!!やだよぉ」とピアノはジタバタしている。……鼻を抑えても臭いがなくならない。

 これも魔法。秘密を隠した人は余程この部屋に入ってほしくないようね。普通の人が入ったら魔法劣化による腐敗がすすんだ薬品の匂いだと思うだろう。ふふふ、私の目はいや鼻は騙されないわ!


 にしてもピアノの勇気はすごい。私だったら尻込みしちゃうしやっぱり魔法に頼っちゃうと思う。


 こうやって、ね。

 ーー『魔法抹殺』


 肌がピリピリし始める。これも……。

 ーー『魔法抹殺』


 空気が薄くなる。私の前に立ちはだかるものは全部。

 ーー『魔法抹殺』


 ……こんなものかしら。

 混雑していた魔力はすっかり気配を消し、辺りに静かさが戻る。


「…………」

「あらためて思うけど、ライム、あなたってすごいのね」


 恐怖と驚愕の色を浮かべるピアノのよそに、周りを見渡す。

 特にこれと言って不思議なものはないけれど……。

埃を被った古びた本が何冊も私たちを囲んでいる。一冊を手に取り、パラパラとめくる。特に変わったこともない……。


「ねぇねぇライムー。アレスからもらった鍵があるんだけど……どこかで使えるかな?」

「!」


 鍵?!アレスさん随分大事なものをピアノの卓したのね。ということは、アレスさんが面白がっているか本当に見せたいものがあるのか……。肝心の鍵穴が見つからないけどね。


「ライムの魔法でちゃちゃっと見つからない?」

「あっ、そっか、魔法で探せばいいわね」

「なんでもできるの本当にすごいわね〜。まるで神様みたい!」

「そんな大袈裟な……」


 神様……か。

 ああ、そういえば。

 まだ怖くて自分の魔法の測定してないわね……。

 ジャララと黒のプレートを見つめる。秘密が見つかったら開示してみよう。そう心に決める。


「それじゃ、『探索魔法』!」


 辺りにふわっと魔力を広げて探索魔法をかける。

 すると、天井に大きな鍵穴が現れた。

 細かい粒子で構成されているのか、金色の光を帯びながら空を漂っている。


「わぁ!部屋そのものに鍵がかかっていたってこと?!」

「そうみたい。私の魔法でギミックをそのまま消しちゃったけど、たぶん鍵を開けると解除される仕組みだったんじゃないかしら」

「へぇ〜、物好きね。そして、この部屋の秘密とは!!」


 ピアノは鍵を掲げると、天井の鍵穴は共鳴するようにガチャリと音がした。

 と、同時に頭上からドサドサとあるものが降ってくる。「いたぁーーい!」とピアノは悲鳴を上げた。降ってきたものは……


 本だった。


 本?『創生の魔術書』ではないみたいね。

 そりゃそうか。『創生の魔術書』は強大な力を得る代わりに身を滅ぼす本だから、国の各所で厳重に保管されている。

「ほんとに、意地悪な魔法がいっぱいね……。えーと、なになに……」ピアノは大きく本を開いて読み上げた。


『この本を開いたということは、私のギミックにも気づいたのだろう。そうだ。この幾つものギミックは全て私の『幻影魔法』。見破れたということは、君たちの中に幻術を破れる術を持ったものがいたのだろうね』


 『幻影魔法』……?

 どこかで聞いたことがあるような。


 文字は続いている。


『本は秘密そのものだ。だから本には鍵をかけておく。鍵は……親友のアレスに託す。この本が世界の深淵を打ち破る手立てとして、助けになることを願う』





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