表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/135

4 やっぱりぐーたらしたいと思うよ





 長身の彼がぐいっと前へ足を踏み出し、魔獣へ駆け寄る。それに気づいた魔獣は後退りし咆哮する。ビリビリと空気が揺れる。

 彼は負けじと咆哮に耐え、片手を魔獣に向けながら更に近づく。


 うあ……い、今だ!!!


 ライムは右手に力を込めて、彼に瞬間移動の魔法をかける。

 彼は魔獣のすぐ後ろへ飛び、瞬時に束縛魔法を放った。


束縛(レストレイント)の鎖(チェーン)!!」


 彼の手から重い鎖が伸びていく……。

 そして……。



「ピーッ!!」



 巨体な魔獣は彼の魔力でできた鉄の鎖によって縛られ、同時に試験終了の笛が鳴る。

 

 ほっと息を吐くが、まだ心臓の音は鳴り止まない。

 吐きそう……。


 私の記憶。

 何故今、蘇ったのかはわからない。

 そう、わたしは幼少の頃の記憶がなかった。

 ずっと思い出せないでいた。

 

 ーーその理由がやっと、わかった。

 思い出しちゃいけなかったんだよ……。


「すぅーはぁーっ」


 大きく深呼吸する。

 落ち着いて……落ち着いて……。

 ここはミザリじゃない。

 痛いことする研究者も、いない。


 胸に手を当てる。

 うぅ……。

 上手くいかない……。

 ドクドクが、鳴り止まない。

 ああ……泣きそ。


 ふと目の前の困惑の色を浮かべた瞳と目が合った。

 お礼は…言わないと。


「さっきは、どうもありがとう、ございました」


 かすれた声。

 だけど、ちゃんと言葉にはできたみたい。

 この人が声をかけてくれなかったら、私はきっと逃げていた。

 明らかな挙動不審だ。

 試験もパーになっただろうし、彼にも迷惑がかかるところだった。


「もう落ち着いたか?」

「はい、おかげさまで……」


 さらりと嘘をつく。

 やっと視野が広がってきた。


 答えながら改めてスタスタと近付いてくる男性を観察する。


 顔のパーツは整っていて、紅の短髪に銀のメッシュがよく合っている。

 加えて堂々としていて隙がない。

 キリリとした翡翠色の瞳は、全て見透かされそうなくらいに澄んでいた。


 歳は少し上くらいだろう。

 服装は……グレーの質の良さそうなコート。

 胸元に何かのシンボルマークが金の刺繍で縫ってある。


 近くにくるとその男性は目を丸くして、


「嘘はいけない」


 と言った。


「…………っ」


「まだ、目も泳いでいるし、喉元に手がいっている。不安だったんだな。それと足先も俺と別な方を向いている。逃げ出したい証拠だ」


 見透かされている……。

 いつの間にか、自分の喉元を捻るように手を添えていた。

 無意識の行為だった。


「ここじゃあれだし、せっかくだ、次のグループ試験まで一緒に話さないか?」


「あっ、ええと、はい」


 なんでわかったんだろう。

 ああそれにしても。

 ……次の試験は断らないと。


 彼から数歩下がって広間の隅までとぼとぼとついていく。


「私……次の試験は降りようと思います」


 申し訳ないと思いながら男性に伝えた。

 きっと次のグループ試験の話をしたかったんだろうなぁ。


「……それは困るな」


「私では力不足です。さっきの動きを見たでしょう? あれではきっと合格にはならないわ。それだったら受けない方がいいです」


「補助魔法は完璧だったが」


「私は……魔法を使う時、テンパってしまうんです。今回ので身の丈を知りました……」


 私はあたかも残念そうに首を横に振る。

 もう誰かに干渉されるのは嫌だった。

 もちろん、痛い思いをしたくないという気持ちも強いけど、それ以上に人と関わりたくなかった。


 私は……きっと加減ができない。

 どこかでボロが出る。

 これくらいなら、と思ったことが周りから見ると予想外の魔法かもしれない。

 もう油断はできない……。

 さっさといつも通りのぐーたらな生活に戻ろうと思った。


「それだと……俺も不合格だな」


「えっ」


「試験要項をちゃんと見なかったのか?4人で1グループ。つまり、3人ではグループになれないんだ。あんたが抜けたら、俺たちは失格になる。グループ試験の直前に仲間探しなんて無謀すぎるし、みんなすでにグループを組んでいるからな。……お願いだから辞めるなんて言わないでくれよ?」


 嘘、そんなルールがあったの?

 聞いてないよ?

 う、やっぱり……見てないだけかも。


「あーー。その、ごめんなさい!」


 申し訳ないです……!!

 でもね!自分の命かかっているので!!

 命には変えられないので!!


「おいおい!嘘だろ?」


 恩を仇で返すってこういうことなんだね……。

 なんだか心苦しい。


「ほんとに言ってるのか?!考え直してくれ」


 男性は焦ったようにこちらを見ている。

 緊迫している様子だ。

 だがしかし、ごめんなさいだ。


「次の試験は、降ります……ごめんなさい!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ