4 やっぱりぐーたらしたいと思うよ
長身の彼がぐいっと前へ足を踏み出し、魔獣へ駆け寄る。それに気づいた魔獣は後退りし咆哮する。ビリビリと空気が揺れる。
彼は負けじと咆哮に耐え、片手を魔獣に向けながら更に近づく。
うあ……い、今だ!!!
ライムは右手に力を込めて、彼に瞬間移動の魔法をかける。
彼は魔獣のすぐ後ろへ飛び、瞬時に束縛魔法を放った。
「束縛の鎖!!」
彼の手から重い鎖が伸びていく……。
そして……。
「ピーッ!!」
巨体な魔獣は彼の魔力でできた鉄の鎖によって縛られ、同時に試験終了の笛が鳴る。
ほっと息を吐くが、まだ心臓の音は鳴り止まない。
吐きそう……。
私の記憶。
何故今、蘇ったのかはわからない。
そう、わたしは幼少の頃の記憶がなかった。
ずっと思い出せないでいた。
ーーその理由がやっと、わかった。
思い出しちゃいけなかったんだよ……。
「すぅーはぁーっ」
大きく深呼吸する。
落ち着いて……落ち着いて……。
ここはミザリじゃない。
痛いことする研究者も、いない。
胸に手を当てる。
うぅ……。
上手くいかない……。
ドクドクが、鳴り止まない。
ああ……泣きそ。
ふと目の前の困惑の色を浮かべた瞳と目が合った。
お礼は…言わないと。
「さっきは、どうもありがとう、ございました」
かすれた声。
だけど、ちゃんと言葉にはできたみたい。
この人が声をかけてくれなかったら、私はきっと逃げていた。
明らかな挙動不審だ。
試験もパーになっただろうし、彼にも迷惑がかかるところだった。
「もう落ち着いたか?」
「はい、おかげさまで……」
さらりと嘘をつく。
やっと視野が広がってきた。
答えながら改めてスタスタと近付いてくる男性を観察する。
顔のパーツは整っていて、紅の短髪に銀のメッシュがよく合っている。
加えて堂々としていて隙がない。
キリリとした翡翠色の瞳は、全て見透かされそうなくらいに澄んでいた。
歳は少し上くらいだろう。
服装は……グレーの質の良さそうなコート。
胸元に何かのシンボルマークが金の刺繍で縫ってある。
近くにくるとその男性は目を丸くして、
「嘘はいけない」
と言った。
「…………っ」
「まだ、目も泳いでいるし、喉元に手がいっている。不安だったんだな。それと足先も俺と別な方を向いている。逃げ出したい証拠だ」
見透かされている……。
いつの間にか、自分の喉元を捻るように手を添えていた。
無意識の行為だった。
「ここじゃあれだし、せっかくだ、次のグループ試験まで一緒に話さないか?」
「あっ、ええと、はい」
なんでわかったんだろう。
ああそれにしても。
……次の試験は断らないと。
彼から数歩下がって広間の隅までとぼとぼとついていく。
「私……次の試験は降りようと思います」
申し訳ないと思いながら男性に伝えた。
きっと次のグループ試験の話をしたかったんだろうなぁ。
「……それは困るな」
「私では力不足です。さっきの動きを見たでしょう? あれではきっと合格にはならないわ。それだったら受けない方がいいです」
「補助魔法は完璧だったが」
「私は……魔法を使う時、テンパってしまうんです。今回ので身の丈を知りました……」
私はあたかも残念そうに首を横に振る。
もう誰かに干渉されるのは嫌だった。
もちろん、痛い思いをしたくないという気持ちも強いけど、それ以上に人と関わりたくなかった。
私は……きっと加減ができない。
どこかでボロが出る。
これくらいなら、と思ったことが周りから見ると予想外の魔法かもしれない。
もう油断はできない……。
さっさといつも通りのぐーたらな生活に戻ろうと思った。
「それだと……俺も不合格だな」
「えっ」
「試験要項をちゃんと見なかったのか?4人で1グループ。つまり、3人ではグループになれないんだ。あんたが抜けたら、俺たちは失格になる。グループ試験の直前に仲間探しなんて無謀すぎるし、みんなすでにグループを組んでいるからな。……お願いだから辞めるなんて言わないでくれよ?」
嘘、そんなルールがあったの?
聞いてないよ?
う、やっぱり……見てないだけかも。
「あーー。その、ごめんなさい!」
申し訳ないです……!!
でもね!自分の命かかっているので!!
命には変えられないので!!
「おいおい!嘘だろ?」
恩を仇で返すってこういうことなんだね……。
なんだか心苦しい。
「ほんとに言ってるのか?!考え直してくれ」
男性は焦ったようにこちらを見ている。
緊迫している様子だ。
だがしかし、ごめんなさいだ。
「次の試験は、降ります……ごめんなさい!」




