39 クラス発表!
「ライムさ、そう落ち込むなって」
そう励ますのはシオンだ。オリエンテーションも終わり私たちは食堂で向かい合って談笑しているところだった。
中途入学ということもあり、たいして周りの学生と関わることもなく事務的な説明が終わり午後からはいよいよクラス発表だ。
気持ちは……まぁついていけない。
「うかつだったわ……」
「やらかしちゃうそういうライムも可愛いわよ?」
「あんなに気をつけるって言ってたのに」
「ライムさん……いっそのこと、魔法を見せびらかしちゃうとか?」
「怖いこと言わないでよ、ジュエル」
ジュエルの顔が真面目でお姉さん怖いわ。
アレスさんの言う通りなのだ。私は自覚が足りなかった。自分でも人の助けになるんだって粋がっちゃって、周りを全然見れてなかった。周りを巻き込んでまたモルモットにされちゃうかもしれなかった。
アレスさんはあの後、この国の魔法の在り方についてそれはもう詳しく教えてくれて、自分がいかにアブノーマルかを見にしみて知ることができた。
まとめちゃうと、
1、魔法アビリティは遺伝的、先天的なものがほとんどで土地柄にも大きく左右される。
2、アビリティは通常1つを所有し、それに派生してできるのがスキルである。
3、家系が濃密であるほどアビリティの精度は高く、次の世代に引き継ぐことでアビリティは強化される。
私自身、2の項目が完全に外れているのだ。
私の所有している魔法は私でさえも計測ができない。どんなアビリティを持っていて、どのくらい使えるのか。
試したこともないし、本当のところ知りたくないというのが本音だ。……モルモットはもう懲り懲りね。
ちなみに例を挙げると、私のお父さんアズライムは農業のアビリティに特化していて、実は何代も続いている農家だったりする。アビリティは後天的に変えることはできないから、そのアビリティに合った土地に移り住むのが一般的だ。農業のアビリティを持っていれば農村区に、剣術に特化したアビリティであれば王国区に、という具合に。
つまり、アビリティをいくつも所有している私は非常識ってこと。
「その白銀の髪も素敵よ?……あ、そろそろクラスが発表されるわ」
「アビリティの系統が全く異なるからな、クラスは別々だろう」
「ライムさん……魔法実験する時はいつでも、呼んでね」
ピアノが時計を見て席を立つと、シオンとジュエルも続いて食器を片付けて私たちとエントランスへ向かう。
もう何人もの学生が集まっていた。
発表報告は『マキア』を介して行われる。
展開するのはどうやらアレスさんのようだ。エントランスの中央にある魔法陣の横に立ち、青白い焔に手を添えて三方向に掲示板を表示させていた。
アレスさんどれだけ高い位にいるんだろう?
あの場を任されるってなかなかないと思うんだけど。
というか、なんでも屋さん?
ついつい目で追ってしまう。
「アレスが気になる?」
発表を待っている隣のピアノがちらっと聞いてきた。
「アレスさんは護衛だけど、教員で、王の側近で……何というか忙しそうな人なのね。私の面倒まで見てくれるなんて……」
「私が言うのもなんだけど、彼は王に次ぐ魔法力と器用さを持っているのよ? いつも変な笑い方して性格が曲がってるけど、仕事は真面目。何よりアビリティが優秀なせいもあるわね。数少ない複数持ちよ。生まれながら人を管理するのに向いているアビリティが多いのね」
「そういうのって、やっぱり珍しい?」
「それはもう! 土地柄や遺伝に関係なく突出しているアビリティを持つ人は稀にいるけど、その中でも複数もちは数えるほどしかいないわ!」
「アレスさんってすごいんだねー」
「ちなみに歳は24歳よ?」
「えっ」
意外とあれなのね。もっと年上かと思ってたけど。
随分苦労しているのかもしれないわ。
「意外と老けてるでしょ?」
ニヒヒ、と目元を細くしてピアノもアレスさんみたいに笑った。
アレスさんもこちらに気づいたようで、顔を傾けて今のピアノみたいにニヒヒと笑った。ドキッ。この2人似てきているのかもしれないわ。
ん?ドキッ?
ドキッ?
そっと胸を押さえると、中央で盛大に軽快な魔法音が流れた。あ、クラスが発表される!
掲示板につらつらと青い文字が表示されていく。
いくつものクラス名が点灯し、その下に名前が羅列されていく。
シオンはルーククラス、ジュエルはビショップクラス。結果を見て2人は動じなかったけど、表情は僅かに嬉しそうだ。きっと評価も高いのだろう。
ピアノはその上のクイーンクラス。……だけど小さく特例って書いてある? 前の人の頭に隠れてよく読めない……なんて書いてあるんだろ? ぴょんぴょん跳ねてみたが、身長差は埋まらない。
いいや、後でピアノに聞くとして。
自分も探そう。
私の名前……ライム……あった!
文字を追ってクラスを見つける。
そこには
『ポーンクラス』
と書いてあった。




