36 手紙が届いたよ
「今日はどの学級に入るか説明されるらしいな。オリエンテーション、だとさ。ライムだったら間違いなくトップのクラスだな!」
背中をバンッと叩かれて、思わず「はひっ」と変な声が出てしまう。シオンももう来ていたのね。
「……いや、待て。ライムは魔法力を隠していたんだったな」と彼は少し考える仕草をする。
王国唯一の学園区スラスルナ。
私たちは王の援助により、今日から入学することとなった。スラスルナには部門ごとにそれぞれクラスが分けられており、その中でさらに評価別にされる。私とピアノは特別に王からの試験だったけれど、シオンやジュエルは正規の試験を受けたみたい。
「シオン、ライム! よろしくねー!」
「お待たせ〜」
ピアノとジュエルも来たようだ。
「シオン、ジュエル、ライム。そして、ピアノ様。スラスルナへの移動を許可します」
4人揃ったところで、初めて試験を受けた白い建物の広い部屋に通された。中にはロングコートを羽織った若い監視員と中央には巨大な魔法陣がある。学園への移動魔法陣だ。
学園へ入ることが許されるのは教員や学生、特別な許可を得た者だけ。事件の後、管理体制も見直されたらしい。
「スラスルナへ着きましたら、教員より入学の手続きと説明がございます。それでは良き学びとなりますよう」
魔法陣へ足を踏み出すと、オレンジ色の淡い光を放ちながらライムたちを包んだ。
目を開けると、目の前には見上げる程の大きな純白の門。そしてその真下、ライムたちの目の前には、気の強そうな1人の女性が立っていた。
「ようこそ。スラスルナへ。あなたたちは今日から学生としてここに住むことになります。衣食住は保証されますが、くれぐれもスラスルナの学生であることに自覚を持ち、勉学に励んで下さいね」
純白の髪をした彼女はカナリアと名乗った。胸元には金色の模様が入った教員のバッチがついている。
カナリア先生はジュエルのことを見てニコッと笑うと、次に私の髪を見て信じられないという顔をした。
え、私……何かしたかしら?
その橙色の厳しい目つきはライムの胸にグサッとささる……。
「汚らわしい……」
「えっ」
「いえ、何も。ああでも……そのひょっこり出ている白髪は素敵ですね……」
カナリアは険しい顔から複雑な表情に変わり、聞こえるか聞こえないかくらいの声のトーンで話している。
「それより、ライムさん。王から手紙が届いています。すぐ開封してくださいね」
カナリア先生とは初対面、よね?今毒を吐かれたような…。気のせいかしら……と不審に思いつつも、ライムは煌びやかな封筒を受け取る。
シオンたちは不思議に思いながらライムの様子を見守っている。
「お父さんから?」
「そうみたい。開けてみるね」
ライムは破かないようにそっと封を切った。
『ライムへ
まずは学園への入学おめでとう。
アレスとの決闘はなかなかに愉快だった。
アレスが楽しんでいるところも久しぶりに見れたしね。
折り合って手紙を書いたのは他でもない。
君に一つ提案があるんだ。
君は例の魔術書を探しているそうだね。
学園を卒業できたら例の魔術書を君に見せてあげよう。
ふ、魔術書を探していることをなんで知っているのかって?
それこそ国家秘密さ!
あ、アレスから聞いたわけじゃないからね。アイツは口が硬いから安心していい。
もちろん、あれは国家の重要秘密事項で公には出してはいけない代物だ。それを承知の上で探しているくらいだから、きっと大事なものなんだろう。しかし、僕も簡単に見せるつもりはないし無理に奪おうものなら容赦はしない。
ただ、君が誰かの為に正しい使い方ができるのであれば見せてあげてもいいと思ってる。
解けないと言われている魔術書を欲するくらいだから、君は魔術書の内容をいくつか知っているんだよね。お金欲しさ、目新しいもの欲しさではないだろう。
魔術書は誰でも解けるわけではないし、その本の内容は読んだ人は確実に深淵へ落ちると言われている。
それでも探すというのなら学園を無事に卒業してほしい。
君は力を持ち過ぎるんだ。
精神と比例していない。
自分の身を滅ぼさない為に
そして誰かを守れるような力を扱えるように
多くのことを学んで欲しいと思う。
魔術書が誰かを救う手立てになればいいね。
そして、あわよくば……いや、これはいいや。
それでは君の未来が明るいことを祈るよ。
ピアノとも仲良くしてやってね。
国王ルドルフ
追伸.アレスを君の特別教師として就かせたからよろしくね。』
ライムが最後まで目を通すと、持っていた手紙は青白い焔をあげて塵になってしまった。
「なんて書いてあったの?」
ピアノは塵を目で追いかけるとライムに聞いた。
「ピアノのお父さんって優しいんだね。そしてなんでも知ってる」
「私には何にも教えてくれないんだけどねー」
「そうなの? 自分の子どもだと特別なのかしらね」
「かなー?」
「しかもフレンドリーだわ。王様ってこう、偉そうだと思ってた!」
「それは納得。歳の割にずいぶん若いと思うわ。でもライム、誤解しないで欲しいんだけどお父さんは怒ったら怖いんだからね!」
ピアノが肩を寄せてぶるぶる震えている。
何かやらかしたことがあったのかもしれない。
きっと楽しそうだからって言って、無茶しちゃったんだわ。
ライムはふふっと笑うと、何か察したのか「えっ何よ?」と軽く睨まれてしまった。
「卒業したら、魔術書を見せてくれるって」
「わぁ! お父さん正気かしら?!国家機密よ?!」
今度は口に手を当てて目を丸くしている。
やっぱり相当重要なものなのね。
まさか、国王直々に手紙を書いて貰えるなんて思ってもみなかった。しかも魔術書を見せてくれるって!!
頑張ろう、と心の中で思った。
一つだけ気になった文章があったけど……。
アレスさんが特別教師って!!
あれ、ピアノの護衛さん……だよね?
後でアレスさんに聞いてみよう。
「国王様には本当に頭が上がらないな。俺たちまで入学許可出してくれるなんて」
「僕の親もすごく喜んでいたよ。……今年は絶対入らないと思っていたからね」
シオンとジュエルには同じように手紙で入学が知らされたらしい。後から聞いた話だけどアレスさんとも決闘したそうだ。2人ともコテンパンにやられたと言って嘆いていた。よくあれで合格出来たものだと…。
「シオンとジュエルは間違いなく優秀でしょ!」とピアノが励ましていたわ。それは本当だと思う。
「皆さん。雑談はそれくらいにしましょうね」
パンパンと手を叩いて私たちの気を引かせたのはカナリア先生だった。
「まずは、学園を見てまわりましょう。その後クラス分けの発表があります。事務説明と手続き、学園登録やることはたくさんですから少し、急ぎましょうか」
カナリア先生はついてくるように目で合図すると、また魔法陣を踏んだ。先程とは違う形をしているけど、基本の型は一緒だ。移動用魔法陣であることは間違いだろう。
魔方陣を抜けるとそこは既に学園の中。
赤い絨毯がひかれた広間になっていて、テーブルや椅子がいくつも置いてある。学生だろうか?何人かちらちらとこちらを見ている。
白を基調にした壁には、ブラウンの色の柱がいくつもかけ合わさっている。木の柱には植物が飾ってありおしゃれな感じ。
よくわからない魔獣?の置物もあるし、強そうな人の肖像画もかけてあった。
「ここが学園かぁ……この魔獣の置物は先生の趣味だろうね……」
物知りなジュエルが独り言を呟いていた。
周りをよく見ると青白い光が薄く光っている。……なんだろう?