35 国王ルドルフとアレス
「さぁ、どうだった? アレス。戦ってみての感想は?」
愉快な表情で国王ーールドルフはアレスに尋ねた。
「間違いないでしょうな」
「ふ、柄にもなく『天帝魔法』を使うなんて随分と楽しかったんだね」
日頃から王に皮肉を言われ慣れているアレスは微動だにせず、「ヒヒヒ、何を仰いますか」とその事実を否定した。
普段から、からかう側のアレスに皮肉を言えるのは国王ルドルフくらいである。若くしてピアノ王女の側近になったアレスが、国王と何気ない会話ができるほどになるのにはそう時間はかからなかった。
「ライム殿の実力を僅かでもお知りになりたかったのでしょう? ……王の『全知王色』のアビリティがあれば特に必要ないかと思われましたが」
『全知王色』
全てを見通す魔法。
生き物のあらゆる能力、ステータスを視ることができる。『全知王色』のアビリティは民衆にも周知されていたが、『王色魔法』の実際を知る者は少ない。
このアレスでも国王の実力は計り知れない。
だからこの力があれば、ライムの魔法力を視ることは造作もないことなのだ。
「いくら『神見習い』だからってステータスだけではその子の本質は見えないのさ。そもそも『神見習い』というのはただのアビリティなのかそれとも特別な何かなのか、今の情報だけではわからないことが多いな」
王は玉座に片膝をつきながら、うーんと頭を悩ませている。
ライムが『神見習い』であるのは、王から聞かされたばかりだった。それも護衛に着く直前である。
ライムはいったい何者なのかと楽しみにしていたところ、盛大なネタバレをされたのだった。
ーーさすがの私も驚きましたよ。
アレスは信じ難かった。
いくら『神見習い』と言っても何かスキルの間違いではないのかと。それくらい『神』という存在は非現実的だ。
しかし、決闘してみてわかった。
彼女は本物だ。
最上位の魔法でさえ悠々と使ってのける。
底が知れないと感じたのは初めての経験だった。
だからこそ少し遊んでみたくなったのだが。
「それでライム殿の本質とは?」
顔を上げ、単刀直入に尋ねる。
「彼女は君との決闘でも攻撃魔法は一切使わなかったね」
「ええ、使ったのは『防御魔法』ともう一つだけでしたね」
ーー確か、『魔法抹殺』でしたか。魔法そのものを否定するようなスキル……。本当に恐ろしい。ああ、面白いです……!!
「アレスさぁ、見たことないスキルとか見つけると顔が歪むのやめてくれない……?」
「おや、失礼致しました。ピアノ様からもつい先日同じようなことを言われましたな」
「気持ちはわからなくもないけどね。彼女のアビリティとスキルは全く系統が違うし、扱う種類も多すぎる。さすが、『神見習い』だよ」
王はなんだかんだアレスの言うことを肯定している。
一般的な魔法はアビリティとスキルから成る。
アビリティはその人の主となる魔法。
アビリティから派生して実力や経験をもとに派生されるのがスキルだ。本来であれば、アビリティとスキルは関連性がなければおかしいし、何十種類ものアビリティを所有しているのは論外だ。
「それで、彼女の本質なんだけど」
「ええ」
「ライムちゃんは、ちゃんと人間だよ。初めてのことに臆病で失敗したら落ち込んで。人を傷つけず、自分から守ってあげようとする優しい子。むしろ娘を助けてくれた恩人だ。……アレスはえって思うかもしれないけど、僕にはそれだけで十分かな」
ルドルフは40代とは思えないような無邪気な笑みで、アレスを見た。
「しかも、彼女はピアノの友達でしょ」
「そのようですね」
「だからさ……」
国王ルドルフはアレスの顔をじっと見つめる。
「彼女のことも守ってあげてよ」
ーー王はライムのことを疑うわけでもなく、監視するわけでもなく、莫大なアビリティとスキル、魔法力を持っているかもしれない彼女を守れと言った。
「王の命令とあらば」
「……2人を頼むね」
ルドルフは悲しそうな表情で自分の手を組み、呟いた。
「それと……ピアノの寿命もあと僅かだから、思い切り好きなことさせてあげてね」
「重々承知しています……」
ルドルフの前に跪いたアレスは静かに答えた。




