34 瞳の色は
やられた……。
何、あの『天帝の灯火』っていうのは?
高濃度の魔力をさらに圧縮させて、その上、焔属性を持たせてる……?!
一瞬の間の決闘だったが、敗北を認めたライムは改めてアレスという男の底の深さを感じた。
やっぱりアレスさんって強いんだわ……。
さすが宮廷魔術師、兼、私たちの護衛さんだ。
しかも『散弾魔法』ってことは、一点集中の攻撃じゃない。一筋の閃光に見えたけど実際は幾重にも枝分かれしていた。閃光はただのダミーで、広範囲にも安定した威力を持つ魔法だった。
私の足元を見渡してみると、地面がえぐれたような跡がいくつもある。私が躱した攻撃魔法の数よりも明らかに多い。
決闘中は気付かなかったけれど、閃光は避けられるのが前提で、回避と同時に別の弾が虚をついてきたに違いないわ。
初手で受けたら間違いなく、相手を一網打尽にできる。
……私は正面から受けちゃったけど。
「やはり……ライム殿は超越しておられますねぇ」
アレスさんは余裕の表情で本音だかお世辞だかわからない言葉をかけてくれた。
「あの……国王様は何故、このプレートが偽装されているとわかったのですか?」
触っていないし、魔法を使った感じもしない。
力試しとはいえそう易々とばれてしまっては、トードリッヒさんに学園で過ごしやすいようにと偽装魔法をかけてもらった意味がない……。
黒いプレートを握りしめて私が国王様をじっと見つめると、
「わかるんだよ。詳しくは言えないけどね。……君のステータスと、黒のプレートの内容が噛み合っていないと思うんだけど、どうかな?」
「え、ほんとになんでわか……」
「ヒヒヒ……ライム殿、国王様相手に少々詰め過ぎですな」
理由が知りたくて質問を質問で返してしまいそうになったけれど、アレスさんから非難の声が聞こえた。
軽快な声質に緊張せずに話せるようになってきて、それは裏を返せば敬意を態度で示せていないのはわかったから、アレスさんの言葉は素直に飲み込んだ。
「いや、いいよ。アレス。大事な客人だ」
対して国王様はゆるりと口角を上げる。
アレスさんは渋々と言った表情で、
「国王様に向かって気軽に口がきけるのは私と貴方くらいのものですねぇ……」
「……僕を前にしたら皆、畏怖の念を抱くのさ。まぁ……そりゃあ、国王だしね。君は……そんな風には見えないし、大した度胸だ」
「……すみません、、」
なんだか含みがあるような言い方だった。
突っかかりを覚えたが、アレスさんからはこれ以上詰めるなと言われているし……。
国王様は得体のしれないというか、つかめないというか、空想上の人物を絵に描いたみたいに存在感が普通の人とは違う。
ショートカットの金髪はとても艶やかで、ピアノと同じラベンダー色の瞳は深く底が見えない。
目尻にシワがあるものの、歳を感じさせないオーラがあった。
「プレートの偽装は今後余程のことがない限り、見破られないだろうから安心していい。僕が保証しよう」
良かった……。トードリッヒさんの好意を無駄にするところだったわ。
でも……国王様は私のステータスがどれくらい見えたのだろう。
全部見えていたとしたら、ミザリの研究者たちみたいに私を捕まえにくるだろうか?
この膨大な魔力とアビリティを奪いにくるだろうか?
(……ないわね)
国王様の瞳を見つめる。
ピアノの色とそっくり。
純粋な目。真っ直ぐな目。
大事な決意がありそうな目だったが、悪意は感じられなかった。
「それで……決闘は以上でしょうか?」
「あぁ、上出来だ」
どうやら無事に学園入学のための試験はパスできたみたいだ。
国王様がアレスさんに何やら合図をすると、上質な紙束が私の前に向けられる。
「これを持って行けば、学園で入学手続きができる。私の方からも話をつけておこう」
「!、ありがとうございます」
今度は自分の意思で。学園に。
『創生の魔術書』を探し、レイラちゃんの呪いを解く手がかりを探すためだ。