33 いざ!決闘!
「『猛追魔法』!」
薄紫色の焔。
不気味に笑うアレスさんから生み出された拳大くらいの焔は、ライム目掛けて勢いよく飛んできた。
避けようとすかさず後退りしてから、横にぴょんと跳ぶ。だが、その焔は追尾式のようだった。
焔が横に逸れて……はっと目を瞑る。すると、
ーーパリン。
と音がして私を包んでいた『魔法結界』が弾けたのだ。
うわ……アレスさんの魔法アビリティは追放魔法だったっけ……?!もしかして複数のアビリティ持ちかしら?!
ーーこの決闘は相手の結界を全て割った方が勝ちだ。始める前にお互いに結界を施す。
結界はハンデとして私が3枚、アレスさんが1枚かけてある。
この『魔法結界』は魔法や物理攻撃を一度だけ無効化するというもので、つまり私は1回でもアレスさんに攻撃を当てたら勝てるのだ。
「王の前で手を抜こうとは思わないでください、ねっ!」
「もちろんです!!」
手を抜くつもりなんて毛頭ない。
だってピアノのお父さんだよ?
王様はとても優しくてとても強そうな人。
手を抜くのは失礼ってものだわ!
アレスさんの伸ばした手からは薄紫色の綺麗な焔が飛んでくる。艶やかなな美しい白銀の髪がなびく。
今度の焔は一つだけじゃない。
焔はぐるっと回り込むと私の左側そして後方から迫ってきた。
これに当たったら、2枚の結界が壊れて私の負けになるわね。でもねアレスさん相手だからって負けるつもりはないわ……!
『魔法防御!』
結界の強化や追加をしちゃいけないっていうルールはなかったはず。
長期戦に持ち込んで、アレスさんの隙をみよう。攻撃魔法は……そうね、極力使いたくないわ。若干トラウマになりつつある。……深淵には落ちたくない。
ーージィッ!!
アレスさんから飛んできたその薄紫の焔は私の作った『魔法防御』に触れて、跡形もなく消滅した。ふふ、これがある限り大抵の攻撃は受けないわ。
『絶対防御』や『重複魔法結界』は規模が大きい魔法だから、今はこれで十分。
目の前のアレスさんはわずかに目を見開き、
「!!!……更に結界の重ねがけ、ですか」
と驚いた様子だ。
「ええと攻撃魔法は苦手なので……」
「フヒヒ!! この結界は……最上位魔法の一つじゃあないですか!」
嘘、これ普通の魔法じゃないの?!
えじゃあ私が今まで使っていた魔法って……?
……いやそれよりも弁解しなければ。
「そ、そうでしたか。力を込めすぎてしまいましたね……ははは」
「全く……ライム殿は末恐ろしいですねぇ」
……目立ちすぎる。どうやらこの魔法もあまり人前では使えないみたいだわ。
いったい、魔法力の平均ってどれくらいなのか。わからないわ……。
自分の魔法力が強大なのは知っている。が、周りの人達がどれくらいの魔法力なのか、私はまだ知らなさすぎる。
これから学園で過ごしていく上で、知っておかなくちゃいけないと思う。
「フヒヒ……力比べといきましょうか。あなたの最上位魔法防御と私の特殊魔法。どちらが勝ちますかね? ヒッヒッヒ! 特別に一つお見せましょう」
アレスさんは両の手を柔らかく広げ、魔力を広げた。
う、わ。なにその魔法……。
ぞわっと鳥肌が立つ。寒気もしてきた。
ゴォオオと激しい焔の音が鼓膜を振動させる。
焔は燃え盛り、アレスさんの金色の瞳は赤く染まった。
《天帝の灯火ーー!》
両手に包まれた薄紫の巨大な焔は一箇所に凝集し、やがて一つの赤い灯火になった。
人差し指に小さく、しかし高濃度魔力の火が揺らめく。人差し指はライムを指しているーー。
瞬きをした、その一瞬。
「……『散弾魔法』」
シュン!とーー閃光が迸った。
人差し指から放たれた一筋の閃光。
ライムの体は、頭が考える前に『瞬間移動』をしようと勝手に魔力を込めていた。……逃げる?!
ーーっ!!!
ぐっと魔力が込められた手を阻止する。
その間、閃光は結界に到達しビキビキとヒビを入れた。
ーー今何を……?『瞬間移動』を使おうとした?
あれだけ使わないと決めていた黒き魔法を?
無意識に……。
今は魔法を受けても結界で相殺されるんだから、逃げなくても大丈夫……。
「…………」
ライムは目をぎゅっと瞑る。
たくさん使っちゃったら……レイラちゃんを助けられないぞ!!
とてつもない速さで線を描いた赤い光は、ライムの『魔法防御』を撃ち破り、2枚目の結界にまで到達したかに思われた。
まだまだ……!!踏ん張れる!
「『魔法抹殺』!」
魔法を抹殺する魔法。
アレスさんが放った光は跡形もなく消え去った。
寸前のところで『散弾魔法』を止められたけど危なかったわ……。私の結界はあと2枚。そろそろアレスさんの隙を見つけたい。
ふぅっと息をついて、前を見るとアレスさんがいない?……あれ?
「ヒヒヒッ、後ろがガラ空きです。しかしなかなか楽しめましたよ……」
またあの薄紫色の焔だ。
アレスさんは緩やかに魔法を灯した右手で私の結界に触れた。
ーーパリン。
そのまま最後の3枚目の結界すらも。
背後に立ったアレスさんはポンッとライムの肩に手を置いて、パリンッと最後の結界も解けた。
……どうやらアレスさんは最初から本気を出していなかったらしい。
彼は「お疲れ様でした」と意地悪そうに笑った。




