32 国王様はお優しい
「け、決闘、ですか?! え、なんで……?」
口元に手をやってあわあわしていると、アレスさんが私の手をパシッと取り、馬車から速やかに降ろされた。ひいい。どうやらまた答えてはくれないらしい。
降りると一緒に付き添おうとしてくれる護衛の方がいたけれど、アレスさんはそれを片手で制止して2人で門まで歩くことになった。
王宮はここから見ただけではわからないくらいに広くて、白を基調とした建物は眩しいくらいに豪華だ。
初めて来た王宮に辺りをきょろきょろしながら歩いていると、アレスさんはちらりと私の首にかかっている黒のプレートを見て、
「何故……魔術書のことを私に話されたのでしょうか? 魔術書は国が秘匿しています。王宮魔術師である私に話せばあなたは捕獲されてしまうかもしれませんよ?」
と、深妙な顔つきで聞かれた。
「えっ、アレスさんは秘密にしておいてくれるでしょう?」
「は? 何を根拠に……?」
アレスさんがフヒヒと笑わないと調子が狂うわね……。そんなに驚くことだろうか。
「なんとなく、です……!」
「勘、ということですか……?」
「はいっ!」
自信はあったから勢いよく返事をしたはいいものの、アレスさんが笑いを堪えている……。と思ったら、
「ヒヒヒッ!!! ……アハハハッハッ!!」
爆笑である。
理由はわからない、けど、さすがに恥ずかしい……。そういえば、トードリッヒさんにもこんな風に笑われたような。
「えっ、だって、アレスさんはそんな人じゃない……」
ライムは顔を真っ赤にして顔を逸らす。もういつものアレスさんに戻っていた。いや、むしろさっきよりも涼しい顔をしていた。
「王よ。アレスでございます。例の客人を連れて参りました」
「おお、入れ入れ……!」
「し、失礼します……」
私たちの正面には王が腰掛けている煌びやかな玉座。
国王様はピアノのお父さん。
いかにも王様って感じの風格ある方だった。
ピアノと同じラベンダー色の瞳に、金髪。
40代くらいだが、スラッとしていて格好いい。
すっと立ち膝になりライムとアレスは国王の前にひれ伏す。
「君が、ピアノのお友達かい?」
わぁ思っていたより軽快なノリだ。
「は、そうです」
「ピアノのことを助けてくれたそうだね」
「恐縮です……」
「しかも、黒い雨の事件を解決してくれたそうじゃないか!!!」
「あっ、えと……」
うなんでそれを……知っているんだろう。国王様ってすごい。
「なんでって顔だね。民衆たちは知らないから安心していいさ。それにしても、ピアノのこと助けてくれてありがとう。僕の大事な娘だからね」
国王様はニコッと眩しすぎる笑みをライムに向けた。
王様っていうくらいだから、もっとこう髭を蓄えてホッホッホって言って偉そうなイメージだったけど……。
目の前の方は年齢の割に若く感じる。安心感のある落ち着いた声。柔らかい表情。
「そこでね、君に報酬を与えたいのさ。何か、欲しいものあるかい?」
「…………」
「なんでもいいんだよ? 命に変わるものなんてないんだから。一生分の幸せとか、王と同等の権力……とか」
「……フヒヒッ! 王よ。それはなりませんな」
「あっ!! アレス! 僕はかなり真面目に言っているつもりだよ」
国王様がキッとアレスの方を睨めつける。
アレスさんはやれやれという顔だ。
「特に欲しいものはないのです……」
言ってから気づいたけど、ごめんなさいそれは嘘ですね。私、ぐーたらな生活を望んでいます。でも、そのためにやらなくちゃならないことがある。トードリッヒさん、レイラちゃん……そうみんなの幸せだ。
「ほんとに?」
「…………あわよくば」
「あわよくば?」
「みんなに幸せになって欲しいです……そして」
「そして?」
「ぐうたらしたいです……」
「ふ、ふふっ、君は面白いなぁ」
「ヒヒヒッ。ライム殿は、学園に入学したいそうですよ」
朗らかな雰囲気になったのにアレスさんは突然割り込んできた。え、えっ?それでは叶えてもらう前提の具体的なお願いになってしまう……。それでも……いいのかな?むしろそれの方がいいのか!
「ほう、それは本当か?」
「えと……」
「ふむ、学園の試験は延期になったのだったな……。そうだな、特例として君の学園入学を許可しよう!」
「わ、ほ、ほんとですか?」
随分ととあっさりご決断なさる。
「ああ、もちろんさ。ただ、ピアノも一緒に頼むよ。あの子はどうしても学園に入学したいと言っていたからね。あと、一緒に受けた子たちも入学を許可しよう!!」
なんて寛大な方なのでしょう……!
「……ありがとうございます!!」
「それでね、君の胸元にかかっている黒のプレートを見せてくれるかい?」
確か学園入学にはプレートでの開示が必須なんだっけ。トードリッヒさんにしっかり偽装魔法をかけてもらったので、誰が見ても大丈夫ですよ!
「はい! もちろん!」
「あ、それ偽装魔法がかかってるね! 今手元に他の黒のプレートもないし、ちょっと君の魔法力がどんなものか見せてよ!」
……はい? え、と、今なんとおっしゃいましたか??
「ライム殿。決闘のお時間ですよ」
アレスさんはニヤッと不吉に笑った。




