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3 思い出した記憶




「怖い、か?」

「えっ?」

「ふ、ようやくこっちを見たな。……大丈夫。もし何かあっても、俺がフォロー入れるからな」

「…………っ」


 ライムは動くことができずにただ男性の翡翠色の瞳を見つめる。


 ごめんなさい、怖がっているように見えたのね。

 なんでわかったんだろう……。


 ふっと男性の手がライムから離れると、2人の前に立ちはだかる巨大な魔獣は鋭い牙を見せ威嚇をしてきた。


 試験のため死に直結する攻撃はしてこないそうだけれど、さてどうしようか……。

 

 合格できるように。足を引っ張らないように。

 私も力を尽くすつもりだ。


 ただ……私の魔法力ってどうなんだろう?

 イメージしたら()()()()()()けど、強いのかな?弱いのかな?

 ずっと引きこもりの生活をしていたから、普通がわからないわね……。


 うーん……。

 とにかくやろう!

 走り出す彼に照準を合わせる。

 魔力を込めた右手が不思議と熱くなった。



 ……久しぶりに使う魔法だからかな?

 そういえばこんな大勢の中で魔法を使うのなんて、()()()以来だ。


 ……()()()


「今、何かーー?」


 何かを思い出しそうになる。


 ……私にはいつも思い出せない記憶があった。

 産まれた場所、本当のお母さんとお父さんのこと。


 思い出せないけれど、特に思い出そうとも思わなかった。

 今が十分幸せだと思っていたし、()()()()()()方がいいと思った。


 何かおかしい……。

 今魔法を使わないという選択肢はないし……。

 まぁいっか、と気にせず力を込める。

 ……それがまずかったのかもしれない。


 突如ピリッとした痛みが走ったのだ!


「……いったぁあっ?!?!」

「?!?!」


 私の右手をえぐるような痛みだ。

 心配した彼がこちらを見ている……。


 その痛みは右のつま先から、私の、頭、に……。

 ……何これ。やだ、あ、う、……?!


 必死に自分の頭を抑える。


 強く両手で押さえ込む。


 痛い痛い痛い痛い……!!!

 なに、何なのこれっ!?!

 あまりの痛さに片膝をついてしまう。

 頭の中で何かが蠢く。

 そして痛みと同時にある記憶がよぎる。


 記憶はだんだんと鮮明になっていく……。


 5歳だった私は、絶望した記憶に蓋をした。

 思い出さないように。

 幸せに生きられるように。

 泣かないように。


 記憶は溢れ出す。

 首筋に打たれた注射の感覚、えぐられた痛み、終わりの見えない恐怖……。


 ーーそうだ。


 (私は……、逃げてきたんだ)



 なんでーー。なんで!!!


 私はここに……?!?!


 なんでこんなにたくさんの人と関わっているの?

 汗が額からツーっと噴き出してくる。


 ほら、魔法なんて人前で使うもんじゃなかったんだ。

 忘れてた?

 はっ、そんなこと……。

 

 (はぁっ、はぁっ……)

 呼吸が荒くなる。

 そうだ。『存在稀釈』を使って逃げよう、すぐに。


 ーー今、すぐに。


 また、あの『絶望』がやってくる前に。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 目を虚にしながら僅かに顔を上げると、先程の男性が心配そうに腰をかがめていた。


「そんなに、怖がらなくていい。魔獣を相手するのは初めてか?」


「…………っ」


「ほんとに大丈夫か?」


「……………」


「いいかい? 君は、魔法を一つ使うだけだ。魔獣じゃなくて俺にね。それも簡単なやつ。俺に少しだけ速くなれって念じればいい。怖がることは何もないよ」


「……そう、ですね」


 魔法を一つ使うだけ?

 はは……私にできるかしら……。

 使わないという選択肢は?ある?

 

「…………」


「ごめんな。けど、今は大事な試験なんだ。……頼む」


 こんな……端麗な彼に頭を下げさせるなんて。

 私だけの試験じゃない。わかってる。


 …………。


 だったら、これ一回きりにしよう。

 人前で魔法を使うのは。


 5歳の私がいたところは魔法科学発展区のミザリで、今の私がいるのは学園区のスラスルナ。

 幼い私は『瞬間移動魔法』で違う区域まで逃げてきた。

 こんなに遠くまで逃げたんだ。

 私の顔を知っている人は恐らくいないだろう。


 こんなに遠くまで、逃げているとは思わないでしょう?

 大丈夫。大丈夫。

 落ち着いて、と自分に言い聞かせる。

 あぁもう!!……大丈夫だってば!


「落ち着いた? 時間もない……いくよ」



 残り時間は1分を切っていた。






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