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29 出発、馬車の旅〜!




「そしてね、ライム。あなたに私のお父様が会いたいって言っているのだけれど、来てくれるかしら? なんでも、報酬を渡したいそうよ」

「国王様が……?」


 まさか、私のしたことはバレてはいないよね。

 きっとピアノを無事に帰すことができたからだとは思うけど……。


「明日、遣いの者を出すわ」

「国王様とはあまり面識がないけど……どんな方?」

「んーお父様は、結構気楽な人よ。でも成果に対して報酬はしっかり出すわ。逆に秩序を守らない人にはとことん厳しいわね……」


 この国の王なんだし、そうよね……。

 下手したら私……すごく失礼なことをしてしまうかもしれないわ。


 魔術書とか……ね。

 学園から魔術書を盗み見るんだから、これって犯罪よね……?

 なんとか正規の方法で見せてもらうことはできないかな?


 ライムがうーんと首を捻っているのを見て、眉間にシワを寄せたピアノが声をかける。


「あのね、ライム。私はあなたが何と戦っているかわからないわ。でも、あなたには命を救われているの。ライムはそんなに気にしていないみたいだけど、これって本当に凄いことなんだからね!!」


 何を言われているかわからないという風にライムはキョトンとして、ピアノの方を見る。


「もう!! あなたの力になるって言ってるの!」

「……わ、えと、ありがとう……っ」


 全然実感がなかった……。

 もっと迷惑をかけてるのだと思ってた……。


「俺たちもだからな!」


 シオンとジュエルもお互いに肩を組み、凛々しい顔でコクコクと頷いている。

 ジュエルの手がシオンに届かなくて、さりげなくシオンがしゃがんでくれているのが可愛い……。


 そっか。頼ってもいいんだ……。

 そう思ったら、なんだか気持ちが軽くなった気がした。

 本当に恵まれている……。


 ーー私はピアノたちに話すことにした。

とある少女と父親の為に、魔術書を探していることを。

 その魔術書が学園にあるかもしれないということを。


 その魔術書はあまりに危険な為、秘匿されていることをーー。



 みんなと明日の打ち合わせをした後、久しぶりにちゃんと両親と話すことができた。


 フレアもアズライムも随分心配してくれていたみたいで、顔を綻ばせて私の帰還を喜んでくれていた。




===




 次の日。


 ライムの家の前でバタバタと馬車の止まる音がした。

 どうやら、ピアノが言っていた遣いの人が来たようだ。

 ちょっとだけ緊張する……。

 粗相のないようにしなきゃ。


 そう思いながらそっとドアの方の隙間を覗き込む。

んー、見えない。

 遣いの人ってどんな人かなー……とドアに手をかけると、


「何をしているのです?」

「ひゃぁっ!!」


 ライムが抑えていたドアは思い切り開けられ、その拍子に男性の懐に飛び込んでしまった。


 その男性はぼすっとライムを両手で受け止める。


「ピアノ様から仰せつかってきました。アレスと申します。ヒヒ……失礼ですが過剰な接触は控えて頂けますか?」

「わ! アレスさん!? ち、違うの!! ちょっと見ようとしただけ!」


 いきなり粗相をおこしてしまった……。

 ライムは困惑したアレスさんからベリっと剥がれて自分の行いを恥じた。


 というより、遣いの人ってアレスさんなのね!!


「ピアノ様から見知った者の方がいいとのお言葉をいただきましてね。お迎えにあがりましたよお嬢さま?」

「アレスさん、その呼び方はちょっと……」


 緊張しちゃうからやめて欲しい……。

 あ、でもアレスさんには話したいことがあるなぁ。


「フヒヒ、緊張しているのですか? 私が抱えて馬車にお乗りになりましょうか?」

「だ、大丈夫です……!」


 アレスさんってば、意地悪だ…!


 一つにまとめられた白銀の髪はさらさらのストレート。

 何でも知っていそうな鋭い金色の瞳に黒縁眼鏡。

 超絶整った容姿に、体型まですらりとして恵まれているなんて。

 こんな恋愛に疎い私でも、ドキドキだってするんだから!


 ピアノの側近なのだから、ピアノのことだけ見ていて欲しいくらいだわ!

 なーんて言ったら、干渉されず自由に動き回りたいピアノには怒られちゃうかな?


 そんなことを考えながら、自分で馬車に乗り込もうと一歩踏み出す。


「それでは、指先だけでも」と白い手袋をはめたアレスさんがエスコートしてくれようとしたその時、


「ライム殿は手袋をするようになったのですか?」


 と黒い眼鏡の奥から上目遣いで尋ねられた。


 ……それもそのはず。

 手袋なんて前までつけたこともなかった。


 こう言ったら失礼だけどアレスさんは……意外と見ている。気をつけなくちゃ……。



 黒き魔法のせいで3分の1ほど死にかけている(正確には魂がなくなりかけている)私は帰ってきてから、常に手袋をつけるようになっていた。


 ーー指先は今も透けている。


 もちろん、これは誰にも言わないつもり。


「ええ。女子は指先まで気を使うものでしょう?」


 あ、これ何故か人の嘘を見破れるシオンだったら確実にバレてたわね……。

 シオンに対しては何か策を講じなければならない。


 そう考えていると、口角を上げっぱなしのアレスさんは何も言わずにライムの手を取って、馬車に乗せてくれた。そして、


「お隣失礼しますね。私はピアノ様の側近ですが、宮廷に使える魔術師でもありますので一緒に馬車に乗らせて頂きますよ」


 と、またフヒヒと笑いながらライムの正面に違和感なく座った。




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