22 2人の魔法
空間の歪みをひょいひょいと直しながらトードリッヒさんの後を追い、ライムは書物庫へと移動している。
トードリッヒさんの知識は書物庫に書籍として、保管されているらしい。
その知識を、私に教えてくれるそうだ。
知識を本にして保存してあるってことはトードリッヒは一冊一冊書いたのかしら?
だとしたらどれだけの年月がかかったのだろう。
もしくは……
リバーシの管理人というくらいだから、トードリッヒさんは創造するアビリティでも持っているのかもしれない。
レイラちゃんがこの建物を作ったのはお父さんだと言っていたから、自分の知識が入った本、そしてこの世界を創造したのかもしれないわ……。
でもこの世界はあまりにも……。
ライムがちらりと後ろを振り返るとレイラがついてきていて、鼻歌を歌っている。
この世界は……楽しいのかな?
苦しくないのかな?
ライムはぼんやり考えて、トードリッヒさんの後ろ姿もちらりと見る。すると、
「ライム様は私に、苦しいか? と問いましたね。その答えを伝えていませんでした。……私は、苦しいですよ……。情けないですね、娘を助けられないのがこんなにも、辛い。だから、少しでも希望を持っているライム様に会えて……光栄です」
と、トードリッヒさんは後ろを振り向かずに話した。私の視線に気づいたのかもしれない。
「わたしはね! つらくないよ! パパがつくってくれたせかいだもん! パパといっしょならずっとたのしいよ!!」
「レイラちゃん……」
「パパやさしいからレイラのことかんがえてくれるけど、パパにもしあわせになってほしい……」
レイラちゃんは俯きながら口をへの字にしている。
……優しい子だ。
小さいのにお父さんのことを考えて、頑張ってくれているんだね。
私は……辛いって言って何もできていないな……。
トードリッヒさんの気持ちが痛いほどわかる。
「着きましたよ」
トードリッヒさんが大きな黒と白の建物の、重そうな頑丈な扉をぐっと開けた。
扉の先には、いくつものたくさんの書物が所狭しと並んでいる。
ライムは一冊の古い本を取りながら、
「これは……トードリッヒさんが集めたのですか?それとも魔法で作ったのでしょうか?」
と尋ねた。やっぱり、気になる……。
「後者が正解です。私のアビリティは幻を見せることに特化しているんですよ」
トードリッヒは表情がわからない顔のまま、退屈そうに床に寝っ転がっているレイラの方を見て、
「レイラは……」
と言いかけたところで、レイラちゃんが
「パパ! ぬいぐるみつくってほしいな!」
とトードリッヒさんのところへ駆け寄った。
……暇になったのかもしれないね。
おもちゃがほしいのかな?
でも、つくるって……?
「せっかくだから、見ていてくださいね」
「レイラとパパはすごいんだよー!」
レイラの頭をポンと撫でたトードリッヒさんは反対の手で魔力を込めて、そしてレイラちゃんも重ねるように手を差し出した。
『幻影創造』
『いぐじすとぷるーふ』
すると……2人の重なった手の先からなんとくまのぬいぐるみが現れたのだ!
「えっ……!」
「くまさん! かわいい〜!」
レイラは嬉しそうにはしゃいでいる。
今の魔法は……?
トードリッヒさんは幻を作る魔法。
でもレイラちゃんの魔法がよくわからなかった……。
「レイラちゃん、今どんな魔法を使ったの?」
「うーんとね、パパのまほうがほんものになれー!ってかけたんだよ!」
「すごいぞ、レイラ。……ライム様、レイラの魔法は幻を現実にかえる魔法なんです。……だから、このぬいぐるみも、この世界も、この書物庫も、全てレイラが作ったのです」
「レイラちゃんが……?」
「ええ、本当に才能に溢れた子ですよ」
トードリッヒさんは誇らしそうだ。
父と娘の魔法が合わさったら、それこそなんでもできそうだとライムは思った。
だから、このリバーシの世界も作れたのかもしれない。世界を一から作るなんて……。
本を手に取りながらこの世界のことを考えていると、戸棚の奥の方に青く光る背表紙の本があった。
本の周りは魔方陣が書いてある石で固められていて、厳重に魔法で保管されているようだ。
「あっ……」
ライムは思わず、その本を手に取ろうとした。