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20 脅威




「ーーっ!!!」


 骸骨たちはその赤い目でライムたちをギョロリと凝視した。

 かと思えば黒いマントをはためかせて一斉に風を切ってこちらへ突進してくる。


 刹那。


 ライムは無意識のうちに無言で両手を掲げて、


重複魔法結界(デュプリケートマジックボーダー)!!!』


 と叫んだ。

 防ぎきれない!!とライムは思ったが、防がなければライムの体ごと細切れの肉片になってしまう気がして、魔力を更に込める。


 いったい!!なんなの!!あの、骸骨たちはさっきまで私たちの後ろをついてきていた……。

 それがなぜ空の上にいて、しかも、私たちを狙ってきているの……?


 あんな猛スピードで体当たりなんてされたら、体は木っ端微塵だ!


 片目をつむりながら憤慨した面持ちでトードリッヒさんの方を見る。が、そこにトードリッヒさんの姿はない。


「トードリッヒさん?!?!」


 ガキンガキン!!とライムが張った魔法結界に、衝撃に耐えられない骸骨が衝突して砕ける音がする。


「今は自分の身を守ることが先決……!」と噛み締めたライムは、攻撃魔法に転ずることを決意した。


 目を見開き、今までに使ったことがないだろう相手の息の根を止める魔法を思い切りかけてやることにした。

 守りのままでは自分の身が危うい……!!


 そこに選択肢はなかった。




究極空間破壊魔法(ワイドクラッシャー)……!!』




 ライムの赤い色の瞳が更に輝きを増しギラリと光る。

 その両の手からありったけのエネルギーを込めたどす黒い魔力が一気に放出された。


 それは空間破壊魔法。


 そこにある全ての空間を破壊し、拒絶し、亡きものにする魔法。

 骸骨でさえ、その空間でさえ、目の前の認知しているものを全て破壊する。


 ネガティブな気持ちになっているライムにとって、少々やりすぎるくらい、では、到底安心できなかったのだ。


 ーーライムは、恐怖に対して無意識に完全な抹消を望んだのだ。

 今の恐怖の象徴は目の前の骸骨だった。


 ライムの黒い魔法は空から突撃してくる骸骨たちを埋め尽くし、更には空一面を覆い尽くし、一瞬時が止まった。


 ーーかのように思われた。

 空がガリガリと音を立てて無残に割れていく。まるで分厚いガラスがばらばらになり、地面に降りかかるように……。


 最後の一欠片が落ちてバキンっと大きな音が鳴ったかと思うと、やがてそれはシュルシュルと収束し始めた。


「はぁ、はぁ……」


「助かった……」と息を深く吐き、周りをキョロキョロ見渡すと、色鮮やかな建物が歪み始めていて切れ間から森の景色が見えている。


 リバーシの世界と現実の世界が混同しているのだろうか。私……こんな魔法使えたんだ……。


 その空間の歪みに震える手を伸ばそうとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。


「うえぇん、うえぇん……」


「女の子の、声……?」


 ライムははっとした。この声は……。

 この女の子の声は……、さっき、公園で会った……!


 空間の歪みを気にせず、顔を上げて一目散に女の子の声のする方へ駆け出す。

 骸骨は抹消したはずだけど……!!


 先程トードリッヒさんと歩いてきた色とりどりの建物を縫うかのような細い裏路地を走って、ライムは公園まで行き着いた。


 女の子は……?

 息も切れ切れに辺りを見渡す。……いた!!


 でも様子がおかしい。

 もう1人いる。


 それは、トードリッヒさんだった。


 トードリッヒさんが倒れている。


 そうか!骸骨に襲われるとわかって、すぐに娘のレイラちゃんのところへ飛んできたんだ!

 でもなんで倒れて……?


「トードリッヒさん!!」


「ああ、ライム様……!先程の魔法は凄まじかった……」


「それよりその、体は……!!」


「ぐすんぐすん……」とすすり泣く声が聞こえたので、目をやるとレイラもトードリッヒさんのそばにいた。


 レイラちゃんの方は見たところ怪我などもないようだ。

 ……けれど、トードリッヒさんの体は肩からお腹にかけて負傷している。まるで黒い炭を粉々にしたかのようにサラサラと崩れていた。


「なんで……!?」


「あの骸骨たちは魂亡き者……。魂ある者を襲ってくるのです。今回は少し、数が多すぎましたね。いつもなら、この帽子一振りで振り払えたものを……。油断しました」


「私がもっと……!!」と、言いかけたところでトードリッヒさんの長い手がライムの口元まで伸びてきた。


「それは言ってはいけませんね。とにかく……レイラが無事で良かった。骸骨がレイラの方に向かっていくのが見えたんです……。普段なら絶対に有り得ないのですが……」


 トードリッヒは天を見上げて崩れかけている自分の肩と腹を僅かにさすり、泣いて目が真っ赤になっているレイラの方をしっかりと見つめた。


「レイラ。私はまだ大丈夫ですよ。……ライム様、すみませんが、少々手を貸して頂けますか?」


「レイラ、なかない。だから、おねえちゃん、おとうさんを、たすけて……」


 潤んだブルーの瞳が赤い瞳のライムに向けられる。小さな手から袖を軽く引っ張られ、ライムはコクンと強く頷いた。




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