表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/135

2 ぐーたらの弊害




 ーーぐーたらするのが好きだ。


 裏庭で取れた果物を頬張りながら、朝日を浴び、外をぷらぷらと散歩する。


 裏庭の私の小さな畑。

 カカの木の実がもうすぐで実りそう。


 そっと手で包むと、カカの実特有の甘い香りが鼻まで届く。


 ぶらりと外の光を浴びて散歩を済ませたら、再びベッドへダイブだ。


 ベッドは常に魔法でふわふわにしておいている。ふわふわは最高なのだ。


 滑らかな生地が肌に吸い付き、すぅーっと息を吸い込むと暖かい日差しの匂いがする。


「これで、悪夢さえなければ最高なんだけどなぁ……」


 最近割と痛々しい夢ばかり見る。

 もしかしたら、現実にあったことなんじゃないかとも思うのだけれど、それは気にしないことにしている。


 所詮、夢。


 こうやってぐーたらしている分には全く問題のないことなのだ。




====




 そんなぐーたらな日々を過ごしてきたが、夢の内容はかなりハードになってきて、朝起きるのが辛い。


「はっ……!!」


 耐え難い激痛と苦しみ。

 そろそろ、なんとかならないかしら………。


 目をゆっくりと開けると、いつも通りの天井、布団……そして鏡には汗でびっしょりの自分の姿があった。


 私はホシラ国の辺境にある地で義父と義母とともに暮らしている。


 確か今日は……スラスルナの入学試験だった筈だ。


「ライムちゃんー!そろそろ行かないと間に合わなくなるわよー」

「あ、あ、うん! 今行くわ」


 太陽を見るとすでに試験が始まりそうな位置だった。

 急いで汗を流し、服を着替え、親が作ってくれた簡単な食事を済ませると、荷物を肩にかけて部屋を飛び出す。


 本当だったら、家からスラスルナ区まで馬車で半日はかかる距離だが、私には関係ない。


「行ってきます、お父さん。お母さん」


 この歳になるまでずっと家に引きこもっていたけれど、もうそんなことを言っていられない。


 15歳で入学試験を受けるのは義務なのだ。

 様々な土地から優秀な人たちが集まる学園に入学できたら、将来は安泰。

 学園から、知識、教養、魔法力があると認められるのだ。ほとんど職には困らないだろう。


 本音を言うとお家でぐーたらしたかったんだけどなぁ。


 そんなことを考えながら、全身に魔力を込め行き先をイメージして一歩を踏み出す。


瞬間移動(テレポーテーション)




====




『わぁ、おっきい……!』


 まるで巨大な白いお城だ。

 立派な門をくぐると、広場は沢山の人で賑わっていた。


 中央の部屋は吹き抜けになっていて、天井のステンドグラスから陽の光が差し込んでいる。


 ガヤガヤと騒いでいる人は皆、ローブを着ていたり、長いマントを羽織っていて、何人かは騎士のようだ。

 

『わ、もしかして試験は始まっているのかしら?』


 だとしたらまずい。


「47番!47番はいるか!」

「は、はいっ私ですっ」


 私の番号。

 マスクを被った試験官らしき人がじとりとした目で、手招きしている。

 遅れたのがまずかったかも。


「………?」


 指示に従い、試験官の近くまで行くと向かい側に硬く閉ざされた檻が見えた。


「これは……」

「これは魔獣用の檻だな」

「えっ」


 振り返ると先に到着していたと思われる、背の高い男性が立っていた。なんでわかったんだろう……。

 彼も名前を呼ばれ、前へ試験官の前へ歩み寄る。


「48番、前へ!」

「はい!」

「この試験は2人1組で行う。47番のライムと共に魔獣ガルガラを倒すこと。制限時間は10分。魔法はいくら使ってもいいが、補助魔法を必ずどちらか使うことが条件だ」


 試験官が何か合図をすると、檻の下に敷かれていた魔法陣が起動し、魔獣が姿を現した。


 その男性は、魔獣の様子を確認した後、目線は私の方に来て、少し驚いたような顔で頭から足の先までジーっと見つめた。


「あっ、えと、何か……?」


 あまりにもじっくり見つめられたので、つい目を丸くしてしまう。


「君、補助魔法は使えるよね?」

「は、はいっ! 魔法だったら何でも使えます……!」

「何でも、か。自分に奢りすぎるなよ?いや待て、本心……か?」


 男性は何か考え込むように唸っているが、すぐに心配したような表情になる。


「……本心ですけど」

「それより、ずいぶん幼いみたいだが大丈夫か?」

「がんばります!」

(もう15歳だけど!)


 両手で拳を作って見せると、男性は穏やかに微笑んだ。


「俺が先に出て魔獣に一撃を入れよう。そうだな……君は簡単な移動魔法をお願いしてもいいかな?」

「はいっ、ま、任せてください!」


 こんなに間近で男の人と話したのなんて久しぶりかしら……。バクバクと心臓が音を立てている。

 なんて、ぐーたらの弊害ね。


「大丈夫だよ。魔獣は試験用に飼いならされているんだ。それほど、恐れなくていい」


「わ、わかりました……」


 ドキッと心臓が跳ねた拍子に、思わず身体もビクッとしてしまう。


「…………?」

(冷や汗、かしら?)


 男性と話して緊張しているからかもと思ったけれど、なんだか汗の量が尋常じゃない。

 なんだか、背中まで湿っぽい気がする。眩暈も、少し……する。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ