表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/135

19 私って何者なんだろう




 私たちは窮屈な裏路地のような細い道を歩いている。両側には、赤、白、黄色、オレンジ、青、緑と言った様々な色の建物が所狭しと並んでいる。

 窓は全て閉め切っていて、閑散としていた。


 霧も深い。

 トードリッヒはどこに向かっているのだろう……。


 とにかく私は私のことが知りたい、ライムはそう思った。

 前に聞いた感情度のことや、存在希釈のこと、なんで私がみんなより魔法が使えるのか……。

 彼なら、知っているかもしれない。


 しばらく歩くとベンチや滑り台、ブランコがある小さな公園が見えてきた。

 相変わらず、密集した建物は続いているが……。


 ここに来て初めての人影があった。


「パパっ!おかえり」

「おお、レイラ……!待たせたね、いい子にしてたかい?」

「うん!」


 えっ!パパ?!


「私の、娘なんだ。もうすぐ4歳になる。レイラ、こんにちはって言うんだよ」

「こんにちは。へへ」


 その子はレイラと言った。

 ショートカットの灰色の髪に、くりりとした大きな深いブルーの瞳。外見は普通の女の子だ。


「こ、こんにちは。レイラ」


 それより、こんな人間離れしたトードリッヒに子供がいる方が驚きだ。

 トードリッヒさん……って呼ぼう。


「ああ、レイラ。パパはね、お仕事に行かないとなんだ。だから、もう少しここで遊んでいてくれるかい?」

「レイラ。さびしい……。だけど、パパにいってらっしゃいする……!」

「いい子だ……!」


 トードリッヒは腰を下ろしてレイラを抱きしめる。

 それはトードリッヒの外見を考えなければ、普通の親子のようだった。



「ライム様。失礼しましたね、さて参りましょう。もうすぐそこです」

「おねえちゃん、またねー!」


 レイラは元気に手を振っている。

 ……あんなに可愛らしい子がどうしてここに?


「失礼だけど……あの子は、あなたの実の子なの?」


「ええ、人間である頃は血の繋がった娘でしたよ。私はこの世界にいるうちにこんななりになってしまいましたが、元は人間です。レイラには本当に辛い思いをさせています……」


 トードリッヒは心配そうな声色で言葉を濁した。

 この世界の管理人というから、もっと怖いのかと思っていたけれど……話しているとそんな感じは受けなかった。


 複雑な過去を持っているみたい……。我が娘を心配しているトードリッヒさんの横顔を見て、ライムはなんだか苦しくなった。


「キャロム?というのは、私たちがいた世界かしら。」

「キャロムは魔法が存在する生者の世界。反して、リバーシは魔法も魂も存在しない亡者の世界です。普通は魂でも抜かれない限り、ここに来ることはありません」


「私は……」

「私とライム様はもちろん、例外です。魔法も、使えるかと」

「あの、あなたは……苦しくない?」


「苦しい?」


 ライムはふと浮かんだ疑問を口にした。

 こんな薄暗くて、人影もなくて……楽しいとは思えない。

 何が嫌でこんなところに住んでいるのか、ライムはわからなかった。


「はははっ! 先程までに絶望的な顔をしていたのに、他人の心配なんて……変わっていますね」


「あなたは、悪い人ではないのでしょう? だったら、私が恐怖する理由はないわ。それに……自分のことはなんとなく気付いてた。あなたに言われてはっとしたもの」


 気づいたら心臓の音は鳴り止み、落ち着いていた。

 恐怖心ももうない。


「お礼を伝えておくわ……ありがとう。そして、私があなたたちを助けるかわりに、私自身のことをもっと教えてほしいのよ……」


「ええ、もちろんです。無知を理解すれば、それはもう無知ではありません。私が知っている限りのことを教えましょう。そして、感謝しているのは私たちのほうですよ」


「まだ何もしていないわ」


「私たちを救える可能性があるだけで、十分な希望です」


 トードリッヒは黒くて長い帽子を深くかぶり直した。



 少し歩くと、ぞわぞわした強い違和感を感じた。

 トードリッヒも同様だったようで、おや……と独り言を言うと、ばっと後ろの方を見つめた。


「亡霊たちがいなくなっている……!!」


 ライムも後ろを振り返ってみたが、誰もいない。

 さっきまで骸骨たちがついてきていたはずだ……。


「ライム様!! 上を……!!」


 上を見上げると、おびただしい数の骸骨たちが空を埋め尽くしていた……。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ