17 真っ暗な影
「うっ………うぐっ………ひっく……」
すすり泣く声。
その声の主は、黒髪で紅い目をした小柄な少女ーーライムだ。
場所は森の中。
しかしある程度見渡せるくらいには開けた空間。
見上げると星空が広がり、風は冷たくライムの頬を撫でる。
「みんなを、、みんなを、、助けられなかった……。たくさんの人がしんじゃった……」
ライムはホシラ国なのかはたまた別の国なのかもわからない、見知らぬ土地へ瞬間移動していた。
涙で顔をぐしゃぐしゃにした彼女は独り言を呟いてはその顔を膝の中に埋める。
真夜中の月は辺りを照らすが、周りの生い茂った木たちはざわざわと唸り暗闇に潜む。
ーー街の人たちは「よくやった」と言う。
家を出る前にテーブルにあった新聞をちらりと見たが、そこには私を褒め称えまるで女神様だと書いてあった。
たくさんの人を救ったと。
素晴らしい魔法だったと。
奇跡が起きたと。
――そんなわけない!!
ライムは強く思う。
あれだけの人が死んで、あれだけの人が苦しんで……。
救えなかった命がいくつあると思っているのか……。
自分の力のなさと、勇気のなさが情けない。
……情けない、情けない、情けないーー!!!!!
何が自分はぐーたらできればいい、だ!
もっと早く行動できていたら、もっとたくさんの人を助けられたんじゃないのか。
後悔は渦を巻いて、私の中を黒く染めていった。
『存在希釈』
常時使用してるから人間だってもちろん魔獣だって、私の存在に気付けないだろう。
なんだか、指先が薄くなっているのは気のせいだろうか。
はっと自分の手を月明かりにかざしてみると、その指先は黒く透けているような。……爪はもう見えない。
私はどれだけ魔法力があっても救えない命があると知った。
勇気がなくちゃ何もできないのだ。
私には果たしてそれがあるだろうか。
……正直、、、追われるのも助けられなかった人の悲しい顔を見るのも嫌だ。
誰とも関わらずずっと、ずっと、こうやって膝をかかえて、何も考えず、何も知らずに過ごしていきたい。
……それは……楽しく、ない、か。
私……どうやって生きていけばーー
「………さ、ま」
「?」
声が聞こえた。
魔力感知には何も引っかかっていないし……気のせいか。
そろそろ家に戻ろうかなと、ライムは重い腰を上げた。
お母さん最近は必要なご飯だけ作って置いててくれるんだよね……。
心配かけてごめん……。
「……ライ…ム様」
「??」
さっきから今にも消え入りそう声が聞こえる。
辺りを見渡しもう一度魔力感知すると、何も反応がない……?
おかしいな……。
「……ライム様」
「ひゃあ!!」
その声はライムの耳元で聞こえた。
な、何もないはずなのに!!
ライムは慌てて魔法を構え、周囲を警戒する。
えと、こういう時は……。
『存在具現!』
存在が露わになるよう魔法をかけるとライムの目の前に、そいつが姿を現した。
「ひ、ひゃああああ!!!」
「おお、やっと声が届きました……」
驚きのあまりライムはドッと尻もちをついて転がった。目を見開きながら、頭上から聞こえる声の主を見る。
ーーその男はライムの目の前に立っていた。
影のように真っ暗なシルエット。黒の長いハットを被ったとても背の高い、男性……?
気味が悪いほどスラリとした体型で、身長はライムの3倍くらいはあるだろうか。見た感じシオンやアレスさんよりも高い。
彼?はゆったりとした低い声だった。
そして、その背後には……。
なんとおぞましい姿だろうか。
骸骨とも呼べる者たちが幾人も蠢いていた。
全身黒のコートで身を包んでいるが、コートから覗かせる指先や顔は……とても人間のものとは思えない。
「あ……っ、ああ……!!」
まるで骨と皮だけのようなしわくちゃの皮膚、暗闇から這い出たような暗い色。
ぐりぐりした真っ赤な目玉はあるが鼻がない。
骸骨のように骨張った顔は生気がなく、立っているのも不思議だ。
「あぁああああ!!!!」
なになになに……!
いったい……?!!!
「『魔法防壁』!『重複存在希釈』!」
かすれた声でとにかく身を守る魔法を立て続けにかける。
と、とにかく一刻も早く逃げる!!早く……!!
「テレポーテー……」
「待ってください……!」
長身の真っ暗な男性が大きな声を上げ、私の魔法を阻止する。
「?!」
待てない待てない!!!
ライムの顔は冷や汗とともに恐怖で汗が滲む。
「ライム様……。ずっとお会いしたかった……!今日は貴方にお願いがあってきたのです」
「と、突然、何……?!」
「何もライム様をとって食べるわけではございません。ああ、申し遅れました、わたくしのリバーシの管理人をしております、トードリッヒと申します」
「………?!」
「貴方にお願いがあってきました……。どうか、よろしくお願い致しますね」
その真っ暗な男性は、黒のシルエットだけで表情が読み取れなかったものの、薄く笑っていたような気がした。




